ジークハルト 学園編4
いよいよダンジョン遠征の始まりだ。
帝都の学園から一番近いダンジョン。そのダンジョンは地下へと続き、最深部に何があるのかは未だに解明されておらず、古代の遺跡という見解だが、その全容ははっきりとはしない。
まあそのようなことは俺には関係ない。キサラよりも先にクリスタルを入手し持ち帰ることこそが重要だ。論理的思考力と柔軟性を兼ね備える貴族の鏡である俺は、その辺もしっかりと理解している。
教師からの説明を受け俺たちのグループは真っ先にダンジョンへと侵入する。
「今回クリスタルが設置してあるのは地下5階層だ。即時到達と即時離脱で最速でクリスタルを持ち帰る!」
「はい!」
「進行しながら方針を伝える。雑魚は無視だ。俺の魔法で小型の魔獣は足止めできる、素通りしても後から来たグループが片付けるから帰りの心配もない。問題は大型の敵。このダンジョンで5階層までに現れる魔獣の中で無視できないのはオーガのみだ」
「その通りです!」
「俺の魔法の物量で牽制する。その隙をついて遠距離から魔力消費の高い比較的高威力の魔法を一斉に叩き込め」
「はい!」
こうして俺たちのグループは全て思惑通りに運び、一番でクリスタルを持ち帰ることに成功した。
「あっけないな。キサラのグループと競り合うことを予想して対策を考えていたがその必要はなかったか」
「さすがです! そこまで考えて、妨害の策も用意しておられるとは!」
「ん? いつ妨害と言った? 俺はあいつとの決闘にまけ……いや、決闘での取り決めによってあいつへの妨害行為はできない。もしキサラたちのグループと競るようなことがあればウォータージェットで俺一人だけ先行しようと考えていた。魔力消費が激しい代わりに大量の水を発生させるから後続のグループの妨害にもなる。あ、いや。妨害は副次的に起こるものであり、俺の目的はあくまで先行することだ。それでたまたまキサラたちのグループが遅れをとるようなことがあってもそれは妨害ではない、偶然だ」
「な、なるほど! そこまで深い考えをお持ちとは! 感銘を受けました!」
「ふっ、当然だ」
「……それにしても。遅すぎないか?」
すでに多くのグループが帰還しており、その中にはまだキサラ達のグループは見当たらない。
なぜだ? キサラ一人でも十分クリスタルを持ち帰ることは可能だ。俺もそうだからその認識に間違いはない。それなのになぜ帰ってこない? 何かあったのか?
「もどりましたー」
あれはキサラたちのグループだ。……しかし、あいつの姿だけない。
「あれ? キサラさんは? 君たちのグループでは?」
教師の問いかけに対する彼女らの答えはこうだった。
気付いたらいなくなっていたと、転移魔法陣のトラップに引っかかってどこかに転移したのでは? という回答だ。
「今のは本当か!?」
「じ、ジーク様!? 途中で見失ったので多分そうかなって思っただけで……」
くそっ!
「ちょっと。ジークハルト君! 一人で行くのは危険だ! 応援が来るのを待ってから…」
「うるさい」
応援の到着など待っていられるか! 転移先は20階層だ。
そこから魔獣の脅威度は格段にあがってくる。一人で20階層から戻ってくるのは至難の業だ。
熟練の冒険者パーティでなければ困難だろう。キサラの魔法は強力だとはいえ、一人では大量の魔獣の物量に押されてただではすまないだろう……最悪は死だ。
転移トラップは5階層までだと一つしかない。20階層に繋がるショートカットとして使われているが、今回の課外授業ではそのエリアへの立ち入りは禁止されていた。
キサラが自らそれを破るとは、あいつの普段の性格からしてありえない。何らかのトラブルがあったか? それだと帰って来た生徒の発言の辻褄があわない。
考えられるとしたらひとつ。キサラは罠にはめられた。
あの女生徒たちの証言がそのことを如実に表している。
転移魔法陣のトラップに引っかかってどこかに転移したのでは?という言葉。いつの間にか消えていたとは言いながらも具体的な内容。彼女らがそれを隠そうとしているのではなく、暗に教師たちに探させようとしていることが分かる。
「くそっ……」
あいつが気に食わないのは間違いないが、平民をないがしろにしていいわけではない。帝国の貴族とは国を守る者。国とは人であり平民も国を成す一部だ。
よってこれは個人的な感情ではなく、アトレイディス家の責任で俺はキサラを助ける!
4階層にある転移魔法陣のあるエリアにたどり着き、すぐさま20階層への転移を試みる。
転移した先では魔獣の死体が転がっており、直前までこの場所で戦闘が繰り広げられていたことが分かる。
「キサラ……」
どこだ? あいつならすぐに上に上るルートを探すはず。しかし、この階層の地図が頭に入っているとは思えない。今後の課外授業では最大で15階層までしか行かないからだ。
だがあいつが15階層までの地図を大まかにでも予習しているとしたら? 少なくともダンジョンの傾向は掴んでいるはずだ。
俺がそうだからあいつもきっとそうだ。
各階層を渡る階段はひとつのみ。階層を降りてすぐにいくつもの分岐点に分かれる。さらにその先でも分岐し、各ルートに一つだけ、次の階層へとつながるメインルートへの分岐がある。メインルートが比較的中央に寄っていることから。中央側に繋がる分岐を重点的に選べばメインルートへつながる可能性が上がる。
そして、この転移魔法陣はショートカットに使われていることから。一定のエリアへの転移だということが予想される。
そこからさらにメインルートへつながる正しい道を見つけるのは簡単だ。単純に移動した形跡が多いところを選んで行けばいい。床にある足跡や何か物を引きずった形跡、壁や天井にある松明による煤の付着が濃いところなど。注意して見ていけば必ずメインルートへ出られる。
キサラがまだ生きているかつ、二人で生きたまま地上へ出るにはあいつの思考と俺の思考が一致していなければ無理だ……
だが、これ以上考えている時間はない。
俺はひたすらにメインルートへとつながるであろう道を選び続けた。
幸いにも俺の選んだルートには魔獣の死体が転がっている。キサラがここを通った証拠だ。
ザシュッ…
戦闘音が聞こえてきた。俺は一気に駆け出し戦闘に介入する。
「ハイドロスラッシュ!」
俺の得意とする殺傷能力に長け、魔力消費の比較的少ない魔法。
キサラの背後に回り込もうとしていたストーンリザードへと放つ。
ブシュー…
岩のように固い鱗をものともせず一撃で首を落とす。
「ジークハルト様!? なぜここに!?」
「それはこっちのセリフだ。それよりも礼は?」
「……ありがとうございます」
「フンッ! 当然だ!」
「……」
「また俺の勝ちだな」
「危ない!」
キサラの叫びと共に俺の真横を風が通り抜け、背後に迫っていたストーンリザードの首を落とす。
「これでチャラですか?」
「チッ…平民は平民らしく俺に守られていろ」
「はい! 助けていただき本当にありがとうございます」
いつもの無表情に近かった顔とは違う、柔らかい、俺に初めて見せる笑顔で礼を言ってくる。
「なッ!? なんだお前! 誰だ!」
「え? どういうことですか?」
「お前が俺に素直に礼を言うなどありえない! 今日のお前は変だぞ!」
「失礼ですね。私は他人の厚意には素直に礼を返します」
「こ、好意だと!? 俺は貴族として当然のことをしたまでだ! 決してお前に対する好意で助けたのではない!」
「ふふ…そうですね。ジークハルト様」
「あっ……」
「……すきだ」
「え!?」
「……え?」
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