東部方面司令官
短いので今日は2話投稿します。
毎日19時投稿予定です。
魔王領、国境戦線東部方面司令部。そこは魔王領の南東に位置し、帝国との主戦線の一つである。その場所で一人の男が伝令を受け取る。
「ベノク様。報告いたします! 山脈の麓にある森の中に、例の少女が住んでいたと思わしき小屋を発見しました、しかし、すでに姿はなく……」
その報告にベノクと呼ばれた男はいらだつ。
「あの小娘め、どこにいきおった!」
彼が探していたのは傀儡魔法を使うフェノムの少女。
「痕跡を辿りましたが、山脈の麓で急に消えており、おそらくは魔獣にでも食い殺されたのかと……」
「許可もなくくたばりおって!」
この男の名はベノク・トートベンズ。魔王軍の幹部の一人である。
ベノクは報告に来た兵士を下がらせ一人呟く。
「忌々しい。今度こそ捕まえてやろうと思ったのだが、すでに死んでおったとは」
ベノクは再三、逃げ出した少女に刺客を送り込んでいたが、彼女の必死の抵抗により、ことごとく失敗してきた。今回ばかりはと自身の部下を大量に投入して捜索させていたのだ。
「散々手こずらせた上に、くたばるとは勝手なやつだ!」
ベノクが苛立つ理由は彼女の力を今回の作戦のあてにしていたからだ。
東側の国境戦線を任されていたベノクは、現在膠着状態である帝国との戦争の火ぶたを自らが開くと意気込んでいた。
十年ほど前にもフェノムの少女を利用して攻勢に出たのだが、双方に多くの死者を出し、痛み分けとなっていた。
そのことにより帝国側は増員を決定し、帝国側の守りがさらに固くなっていた。
そんな自らの失態を帳消しにするために、ベノクはここからさらに東にある洞窟を抜け帝国に攻め入る橋頭保を確保するという作戦を立てたのであった。
東部戦線はもともと帝国の守備が薄いところであった。深い森があるため大規模な侵攻は不可能で、帝国側は要所を守り抜くために戦線を限定していた。
前回の奇襲で増員はされたものの、そのほとんどが主戦線に送られていた。
長年膠着状態が続いていたことにより帝国は兵の動員を渋っていた。アトレイディス騎士団のみで長年国境を守ることができていたために帝国は慢心していたのだ。
ベノクは前回の侵攻から斥候を増やし、洞窟側に帝国の騎士が配置されていないことを突き止めた。
そこで今回、洞窟を抜けその一帯を確保し新たな攻撃拠点を作ろうというのだ。
一年ほど前に送った斥候からの報告では洞窟内でケイブサーペントを撃退して引き返してきたとあった。
「今回は失敗するわけにはいかぬ、洞窟を抜けた先まで情報がいる。作戦実行の前に再び斥候を送るように手配しろ」
ベノクは傍に控えていた部下にそう告げる。
今まで魔王軍が洞窟側から侵攻しなかった理由に、大軍を移動させるコストと、洞窟前を固められれば攻め込むのが難しいというものがあった。
しかし、今回はその両方が解決できる。前回の奇襲で帝国の兵は主戦線に集中せざるを得ない。
そしてもう一つ。
「この”黒の秘石”を使い大量のスケルトンの軍勢を率いて洞窟を抜ける!」
前回の戦闘で双方に死者を多数出したため、大量の死体が戦場には残っていた。ベノクはそのほとんどを帝国、魔王軍、関係なく回収させていたのだ。
黒の秘石。それは魔力を貯め込む性質のあるクロガネを使用したものであった。魔力濃度の高い場所にあるクロガネは、何百年も高い魔力濃度にさらされることで自然に魔力と反応し、その内に魔力を貯め込むように変化する。通常はクロガネは硬すぎて採掘できないのだが、稀に小さな塊が発掘されることがある。それを”黒の秘石”と呼んでいた。
使役魔法と闇属性魔法を掛け合わせた死霊魔法を使うフェノムであるベノクは、この黒の秘石を手に入れ、その石に長年魔力を注ぎ続けていた。
そうしてついに大量のスケルトンを召喚する条件は整った。
「千体以上のスケルトンを一度に召喚し、それを維持しても有り余るこの魔力! フハハ…」
黒の秘石がはめ込まれた禍々しい杖を掲げながらベノクは高らかに笑う。
「……しかし、あれがいればさらに確実なものであったというのに」
笑みをスッと消し、再び傀儡魔法の少女を思い浮かべ舌をならす。
「チッ…いないならば仕方がない、すでに準備は整った」
現在は魔王軍も前線に防衛のための最低限しか兵を送っていない。しかし、新たに前線拠点を得ることになれば戦況は一変する。
「今回の作戦をもって魔王軍は帝国に攻め入る足掛かりを得る、それを成すのはこの私! ベノク・トートベンズである!」
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