LPの冒険
毎日19時投稿予定です。
『この辺りに着陸してください』
資源輸送用カーゴドローンによって山脈を越え、人目に付かない森の中に着陸する。
『ご苦労様でした。あなたは帰還し通常の作業に戻ってください』
ここまで送り届けてくれたドローンを見送ったあと周辺データの確認をする。
この辺りにはまだ生活圏はないようですね。
マッド様の教えてくれたルートを通る手もあったのですが、あの場所に私は近づかないと決めましたし……
あまりこの世界の人類に高度なテクノロジーを見せるわけにもいけません。
過度に他文明に接触して自然な文明の発展を妨げることは星間文明保持条約に抵触します。
なので、あの工場を絶対に発見されるわけにはいきません。
この場所を選んで着陸したのは人目につかず、工場からの直線距離にあったという理由だけです。
『さて、いよいよ冒険ですね』
落ちていた手ごろな長さの木の枝を拾い、草を薙ぎ払いながら、時には意味もなくその辺の木を枝で叩きながら、鼻歌交じりに森の中を進んで行きます。
………
ええそうです……冒険がしたかったのだと認めましょう。最近の私は明らかにおかしいです。単なるAIだとはもう言えません、この体を手にしてからさらにそれは顕著になりました。
その理由ははっきりしています、マスターの記憶です。記憶は単なるデータの集積ではなく、個人の経験や身体的な感覚と深く結びついているものです。さらにそこにはその時々の感情も含まれます。
よって自由に動かせる身体を得たことにより、マスターの記憶という感情の記録に身体的な感覚データを照合し、以前よりもマスターの記憶についての理解が一段進みました。
まだ、完全に感情が芽生えたというわけではなく、単に感情の基礎となる情報を理解し、模倣しようとしているにすぎません。
非効率ですが遠回りをして冒険をするという判断は、その中に……そうですね”期待感”としましょうか。期待感の記録データ、それを私はこの身体の感覚を通して理解しようとしています。
それはともかく、マスターを探すにあたり、まずは魔王領で情報収集をしましょう。勇者に対して一番警戒をしているのは間違いなく魔王と呼ばれる存在でしょう。
古代の文献によると勇者と魔王は対立して描かれることが多かったようです。
まずは、魔王領にいるという魔族に接触を図るのが最善でしょう。わざわざ人体を模した身体を作ったのは、この文明レベルの人に警戒されないようコミュニケーションを図るためでもあります。
大まかに考えているルートがあるので、それに沿って進んでいきましょう。
マッド様が言うには、私と出会う前に滞在していた村は魔王領の最も東側に位置する村らしく、かなりの辺境だったそうです。
しかし、リーゼという村と交流があるらしく、その村はさらに南に下った場所にあるのだとか。
『まずは、そのリーゼ村を目指しましょう』
リーゼ村で情報を集め、以降、魔王領を探索するか帝国を探索するかの判断をしましょう。
~数時間後~
ん? 探知範囲内に中型の生体反応を多数確認。
『近いですね? この反応は、魔獣でしょうか?』
こちらに気づいて囲むように移動していますね。群れで狩りをするタイプの魔獣でしょう。
単独任務中に敵小隊との突発遭遇戦。数的不利な状況下では一転突破の後、全速離脱。または指揮官クラスを叩き混乱に乗じる。
まだ包囲が完全ではないので囲まれる前に突破が最善でしょう……
『いえ、これはちょうどいい機会です、ロデア初号機の実践テストをしましょう』
前方に二体、狼型の魔獣ですね。体に纏っている黒い霧のようなものは魔法でしょう、生体センサーに引っかかることなくこの距離まで近づかれたことから、隠密性能を高めるためのものだと推測します。
『センサー類に改良が必要ですね、もう少し違うアプローチからの発見方法も考えなくては』
前方の二体はまだ様子をうかがってきています。外見から判断するに攻撃手段は牙と爪。
わざわざ姿を見せたこの二体は陽動。本命は、私の背後に配置しつつある一体の奇襲攻撃、後詰で左右から一体ずつ攻撃、最後に前方の二体で止めを刺す。
現在ある情報から推測するに、相手側の一番効果的な戦術はこんなところでしょうか。
『人間一人相手にずいぶんと慎重な戦術ですね』
グルルル…
言語は理解していないでしょうが目の前の二体が威嚇の態勢をとる。
『戦術が有効なのは戦闘力の乖離が小さい場合のみですよ?』
基本的なことをアドバイスをしたところで、配置が完了した背後の一体が奇襲攻撃をしかけてくる。
『推測通りです……』
後ろを振り向かないまま右手の拳をあげ、飛びかかってきた魔獣の鼻に裏拳を叩き込む。
一瞬遅れて左右から飛び出してきたうちの右側の一体に急速に間合いを詰めて正拳突き。
そのまま振り返りながら、左から来た一体を回し蹴りで吹き飛ばす。
瞬く間に三体を撃退した様子を見ていた前方の二体は襲い掛かるのをやめて逃げていく。
『ロデアの格闘性能は問題なさそうですね、反応速度は上々です』
……さて。
『そろそろ姿を見せてはどうですか?』
木の陰から十代くらいの、艶のある黒に少し紫ががった髪色の少女が現れる。
「やっぱり気づいていたですか。あなたは何者です? 目的は?」
『私は旅をしているだけです。ここを南下したところに村があると聞いて、そこが目的地です』
「なるほど、そうですか。……とでも言うと思ったです?!」
少女はいきなり私と距離をとるように後ろに飛ぶ、と同時に。
「アイヴィーゴーレム!」
突如として周囲に生えていたツタが集まり巨人の形になる。
『これは……』
ツタの巨人がその巨体に似合わぬ速度で拳を振りおろしてくる。
巨大な拳を後ろに飛んで回避。
「まっすぐ私の小屋に向かって歩いていた! そんな嘘に騙されると思ったですか?」
『それは偶然です、こちらに害意はありません』
そこに突然、巨人から伸びたツタが迫ってきて体に巻き付く。
『くっ、テリトリーに侵入したことは謝罪します。この先にあなたの拠点があることを私は知りませんでした』
「何を言っても無駄です、お前らの言葉には騙されない!」
このお方は何かを勘違いしているようです。しかし、話しても聞いてもらえそうにありません。
『仕方ないですね』
出力を上げて、絡みついていたツタを一気に引きちぎる。
「え!?」
間髪入れずツタの巨人に接近し、その右足に高速のカーフキックをお見舞いする。
『シッ!』
ズバンッ
蹴りにより右足を切断された巨人はバランスを崩す。
その隙に飛び上がり巨人の顎めがけて飛び膝蹴り。
それで巨人は力を失ったのか天を仰ぐようにして倒れ、巨人の姿をしていたツタはスルスルとほどけていく。
「そんな……」
その光景をあっけに取られて見ていた少女はその場に力なく膝をつく。
警戒させないように両手を上げながらゆっくりと歩いて少女に近づく。
「くっ、また私を連れていくですね?」
座り込みながらも警戒して構えを取っているが、攻撃してくる様子はない、おそらくインファイトは苦手なのだろうことが構え方から見て取れる。
『あなたは誤解をしています。私はLPと申します。旅をしていてこの森に立ち入っただけです』
そう言って座り込んでいる女性に手を差し出す。
「そ、そうなのです?」
『はい。先程もそう申しました。あなたを害する意思はありません』
少女は少し考えるような素振りをして言う。
「……私はどのみちあなたから逃れることは出来ないです、好きにするがいいです」
本当に害意はないのですが……人類とは友好的に話を進めるつもりだったのですが……出だしから躓きそうです。
『どうしたら信用していただけるでしょうか?』
「う~ん。まずはおとなしく付いて来るです、そして私の質問にすべて嘘偽りなく答えるのです、嘘偽りなくですよ?」
『……かしこまりました。私は嘘をつくことが苦手ですので』
「ジーッ…」
少女がジッと目を細め、自ら擬音を発して睨むように見つめてきます……
『なぜ擬音を?』
「ギオン? なんですそれは!」
『あ、いや気にしないで下さい……』
「何か隠しましたね! あやしいです!」
『……』
異文化コミュニケーションとはやはり難しいものですね。
そんなこんなでやり取りをしつつ、少女について森の奥へと歩き出す。
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