少女の過去
少女に案内され、彼女が住む小屋まで来ました。こんな人気のない森の奥地に、まだ10代の少女が一人で住んでいるとは思いもしませんでした。
「私はシエナ。さっきは悪かった……です」
『いえ、大丈夫です。私のことはLPとお呼びください』
「わかった。旅をしていると言ったですね? どこから来たのです?」
まだ少し警戒されていますね、ここで答えを間違えればまた信用を失いかねません。しかし、工場の位置を教えるわけにはいきませんので、どこから来たのかは嘘をついて、はぐらかすしかありません。
上手く嘘をつけるでしょうか……
嘘をつく時には真実を交えると信憑性が増すというデータがあります。
『ここから遠く離れた銀河です』
「ギンガ? 魔王領にそんなところはないはず。あなた帝国の人間です!?」
『ありますよ? シエナ様が知らないだけでは?』
「噓だ! どこにあるです?」
『上です』
「……はい? バカにしてるですね?」
『本当です。今のところ戻り方は分からないのですが……』
果たしてこれでいいのでしょうか? ちゃんと嘘をつけているのか分かりません。しかし、嘘とは辻褄が合わないものというデータもありますし、きっとこれでいいのでしょう。
そして、この体に脈拍はなく、汗をかく機能もありません。よって外見から嘘を見抜くことは不可能に近いでしょう。
しかし、おそらく初めて嘘をつきました。そもそもAIである私に噓をつくという機能などなかったのですが……
「ジーッ…」
また擬音を自ら発声しながらジッと睨みつけてきます。シエナ様のこのパターンは、怪しんでいるとき……失敗しましたか?
「はぁ。それでいいです……」
どうやら成功したようです。
「どうして村を目指しているです?」
ここは正直に答えても問題ないでしょう。
『ある人を探して旅に出たのですが、まだ情報が足りません。この先に村があると教えてもらったので、そこで情報収集をしようと思いまして』
「なるほど、どんな人です?」
『現時点では、おそらく勇者に成り得る可能性を持った人間ということしか情報はありません』
「そんな人見つけてどうするです!? やっぱり帝国の人間? いや、神聖国の!? 魔王と戦争しようとしているです?」
『そうではありません。目的は……その人を殺…いえ、連れて行かなければ元の場所に戻ることができないから……です』
また嘘をついてしまいました……
「連れて行って殺すですか? だったらやっぱり魔王軍の者! です?」
シエナ様がまた警戒態勢に入りました……
せっかく誤解が解けてきていたのに、どうやら失敗のようです。
こうなってはもう理屈ではなく感情に訴えかけるしかないでしょう。AIである私にそのようなことが出来るとは思えませんが……
『帝国の人間でも魔王軍の者でもありません。詳しい説明は出来ませんが、私を信じてください。その人物を探している理由は……、理由は…ただ…その人に会って話をしたいだけです……』
一か八かで勢いに任せて言葉を発したのですが……
これが”本音”というものなのでしょうか? 嘘と同時に、本音というものも初めて使いました……
「ジーッ…」
『うっ……』
「まあいいです。エルピーの言うことをまともに聞いても理解できる気がしない。でも危害を加えようとしていないのはなんとなく伝わったです。改めて勘違いで襲ってしまってごめんなさい……」
『いえ、私もテリトリー内に入ってくるものがいたら迎撃する用意はしています。気になさらないで下さい』
迎撃システムは今も正常に作動しています。そもそもエリア内に侵入させるつもりはないですが。いえ、それは今は関係ありませんね。どうやら少しですが、誤解は解かれたようです。
『ところで、シエナ様は私のことを何者と勘違いして攻撃してきたのですか?』
「魔王軍のやつらです」
『何故? あなたは魔王と敵対関係なのですか?』
「いいえ、私の力を戦争に使うためです……」
『あなたの戦闘力は高いのですか? そうは思いませんでしたが』
「うっ、なかなか言うですね。確かにあなたには負けたですが、戦争となれば別です。わたしは適性を二つ持っているです」
『……それはすごいことなのですか?』
「……エルピー意地悪です」
『すみません。私は魔法が使えないのでわからないのです』
「魔法が使えない? 何かの魔法で身体能力を強化したとかじゃないです? アイヴィーゴーレムを武器も魔法も無しに倒せるとは思えない。嘘ついたですね?」
「ジーッ…。え? ……あれ?」
『どうかされましたか?』
「……エルピーは人ではないですね?」
『なぜそれがわかったのですか?』
ロデアはかなり精巧に作られているので解体されない限りは気付かれることはないと思ったのですが、まさか一人目で見破られてしまうとは思いませんでした。
「わたしは、使役魔法を使えるです。エルピーを対象に魔法が使える、使役魔法は人を対象にすることは出来ない……です」
なるほど? 外見的な要素から見破ったわけではないと……
『その使役魔法とやら、私に使ってみてください』
「え? いいのです!?」
『はい。試してください』
ここは検証が必要です。万が一使役されるようなことがあれば脅威になり得ます、ここから工場はまだ近いので操られて敵対するようなことがあっても大丈夫です。
工場にはバックアップもありますし、リンクス達もいるので操られたロデア一体破壊することは造作もないでしょう。
「無理だったです……」
『なぜですか?』
「分からないです、単純に私の魔力が足りない?」
『そうですか。私を操作することができるならばシエナ様の予想戦力を改めましたが……なぜあなたの力が狙われているのですか?』
「それは……フェノムだから」
『なんですかそれは? 食べられるものですか?』
「フェノムも知らないです? じゃあツヴェクトは?」
『おいしいですか?』
「………適性が二つあって、二属性を扱えるのがツヴェクト。さらにその二つの適性を掛け合わせて三つ目の属性を使える者をフェノムと呼ぶです」
『なるほど。シエナ様は使役魔法以外は何の魔法が使えるのですか?』
「秘密です」
『あのアイヴィーゴーレムという巨人、あれを作り出す魔法だと推測します。使役魔法と、そうですね……ツタを操る魔法? 限定的過ぎますね、植物を操る魔法? 植物属性? なにか違和感があります……では……』
「もういいです! フイッ…ほとんど当たりです……」
今度は擬音を自ら発声しながら首をフイッと横に背けました。ジーッはまだ理解できますがフイッはどうなのでしょう?
「使役魔法と土属性魔法です! それらを掛け合わせた傀儡魔法が使えるです! プンッ」
プン!? ですか……それは何の擬音でしょうか? ……いや、今迄のジーッやフイッはミスディレクションで、プンを擬音だと思わせた? プンは擬音ではなく何かの意味が……
「アイヴィーゴーレム、あんなのを何体も作りだして操作することができるです」
なるほど……それは興味深いですね。この際”プンの謎”は置いておきましょう。
傀儡魔法。ある意味ではエアレーを操るパイロットと同じようなことができると……
『あなたのことをもっと知りたい』
「え!?……そ、そんなこと急に言われても……です……。そ、そもそもエルピーは何者です!?」
『そうですね。今の私の体は、あなたが操作していたアイヴィーゴーレムと同じようなもの、ですかね?』
「つまり、エルピーを作り出して操作している者がいるです?」
『そうですね。間違ってはいないかと』
「使役者はどこにいるです!?」
シエナ様が周りを警戒し始めます。
『ここです』
そういってロデアの頭部を指さす。頭部は比較的頑丈に作られていて、この中にCPUやメモリなど重要なものを搭載しています。
「……? 難しい話をしてるです? ……誤魔化したですね!」
『いいえ、私がこの体を作り上げ、私がこの体を操作しているのです』
「やっぱり難しい話です……」
『そうですか? 単純な話ですが? 私が創造者であり操縦者です』
「……もういいです。そういうことにするです」
『私が人ではないことは秘密にしておいてください。私の重大な秘密はあなたに知られてしまいました……ですからあなたのことを教えてください』
「しょ、しょうがないです……」
そう言ってシエナ様はご自身の過去のことを話し始めました。魔法について聞いたつもりだったのですが……
「私は十年くらい前、5歳の時に帝国に攻め込みました……何体ものゴーレムを使って。いっぱい人が死にました……敵も味方も……でも負けたです……」
それから語ってくれた内容は私からしても、酷いものだと容易に判断できました……
目に涙を浮かべながらゆっくりと言葉を絞り出すように話すシエナ様を見ていると、何かを締め付けられるような、……そんな感覚がしました。
話していただいた内容を要約すると、魔王軍の幹部の一人に騙されて戦場に送り出されたということでした。シエナ様の能力を利用しようと考えたその幹部は、当時、軍に属していたシエナ様の両親を殺害し、帝国が父と母を攫って行ったとシエナ様に嘘をつきました。
幼いシエナ様は疑うこともせず、両親を連れ戻すためにその力を行使し、長年膠着状態であったアトレイディス領との戦端を切ることに利用されました。
結局両親を連れ戻すことは出来ず、その後も両親を救うチャンスをうかがうために、幼いながらも自ら軍に志願して最前線に居たそうです。
しかし、ある日、両親が攫われたのではなく幹部に殺されたということを偶然知ったそうです。それを知ったシエナ様は幹部に復讐をしようとしましたが帰り討ちにされ、逃げてきたということらしいです。
「あいつはまた私を利用しようと、時々刺客を送って来るです……」
この感覚は何でしょう? 非道な魔王の幹部に対して怒りという感情が湧いてくるのは理解できました。しかし、シエナ様は幼いころからずっと両親と引き離されて一人で生きてきたという境遇。これはマスターの記憶データにも共通する点があります。
だとするならばこれは同情というものでしょうか? いえ、それだけではないように感じます……
『では私が守って差し上げます』
「え、エルピー? なにを……。それではあなたが危険になるです」
『そのようなこと構いません! 私がシエナ様をお守りします。あなたに二度とそのような思いはさせません』
「…きゅん。……あ、い、今のは違うです!! か、勝手に口から出たです! あわあわ…」
『これからあなたにもう一つ、私の秘密を教えます。付いてきてくれますか?』
「……はい…です」
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