表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】 機械仕掛けの薔薇〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
EPILOGUS

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/63

SIMUI IN PROXIMO SAECULO 次の世紀もいっしょに

 自動的についたあかりが寝室を照らす。


 アレクシスの肩に顔をよせていたダニエルが、毛布のなかでモソモソと体を動かした。

 密着していた全裸の肌が少し離れていく。

 ダニエルは窓ぎわに手をのばし、AIが閉めたカーテンの端をめくった。

 ほそい指には、さきほど渡した指輪がはめられている。

 外はもう暗い。

 窓から見えるビル街にあかりが(とも)り、宝石をこぼしたような夜景が覗き見える。


「こっちのマンションの方が夜景がきれいだね。やっぱりこっちに来る形でよかった」


 ダニエルが微笑する。

「夜景なんてそんなに違ったか?」

「違ったよ」

 ダニエルはもういちどモソモソと動くと、二人でかけた毛布に口元まで(もぐ)った。

「どうせくっついて寝るんだ。僕のベッドは置いてくるって言ったのに」

 まだ情交の熱ののこる脚を絡ませ、体を密着させてくる。

 人一人通れるほどのあいだを空けて置かれたダニエルのベッドは、まだマットレスすら敷かれていない。

「何かあったときに必要かもしれないだろ」

 ダニエルの金髪を()くようにしてなでる。

「たとえば」

 そう言いかけ、アレクシスは口をつぐんだ。

 たとえば、ケガをしたダニエルを介抱(かいほう)しなければならないときとか。

 気分のいい話題ではないな。アレクシスはしばらく黙ってから苦笑でごまかした。

 ダニエルが、胸元に(ほお)をこすりつけてくる。


「そんなもの運びこんでも、こっちのベッドで寝るからね」


 ダニエルが毛布のなかをさぐり、アレクシスの手に指を絡めて握る。

 アレクシスは、ダニエルの肩に貼られたうすい医療用パッドをながめた。


「……傷跡を消す治療、もうはじまってたんだな」


 合成アミノ酸を含んだパッドと言っていたか。

 ダニエルの伴侶(はんりょ)というあつかいで医務室に呼ばれ、軍医長に直々の説明を受けた。

 彼が診療をサボらないようきちんと連れて来いと釘を刺されたが。

「二、三ヵ月すればすっかり消えるってさ」

 ダニエルが胸元に顔を擦りよせてあまえる。

「僕はあんまり消したくないけど」

「何で」


「あなたが僕にどれだけ入れこんでるかが分かった思い出のケガだ」


 ダニエルのサラサラとした金髪を見つめる。

 銃で撃たれケガをした彼を、雪の吹きこむ冷たい倉庫で強姦した。

 完全に頭に血が昇っていた。

 相手につかみかかりムリやりに意見を変えさせようとするダダっ子のような心理だったと思う。

 それまで通りの仲のいい恋人にムリにでも戻ってほしかった。

 そこまでダニエルから離れたくなかったのだといまさらながら思う。




 思えばダニエルには、子供のころにもいちど去られているのだ。


 六歳のころのある朝。

 育てられていた軍の居住施設から長い廊下を渡り、教育施設の交流ルームへと向かった。

 いつも通りの朝だった。

 クリスマス近くにおなじ教育施設にあらわれた金髪のかわいい少女が、その日も変わらずいるものだと思いルーム内を見回した。

 年齢がちがうのでクラスルームはちがっていたが、施設内は年のちがう者同士もできるかぎり交流できるように配慮されていた。


 春直前のその日の朝、その子の姿はなかった。


 あしたはいるのだろうと何日か思い続けたので、喪失感はゆるいもので済んだが。


 二十年もまえに一時期だけをすごした子が、おなじようにこちらを想いつづけてくれていたなど、とんでもなく奇跡的なことなのでは。


 ダニエルがおもむろに上体を起こす。こちらの顔を覗きこんだ。

「代わりにあたらしい跡をつけてくれる? アレクシス」

 イタズラっぽく口の端を上げる。

 一年間いっしょに過ごしたいつもの彼だ。

 ちょっとしたイタズラが好きで、淫乱でかわいい。


 やはり主導権を握っているのは自分ではないか。そう思いこまされる。


 じっさいは彼の手の上で(ころ)がされているのだろうか。

 やわらかな唇に口づける。

 ダニエルが身につけた薔薇(ばら)とシトラスの香りがした。

 体中が欲情に(あお)られる。

 ダニエルを抱きしめてベッドの上で反転し、体の下に組み敷いた。

 一年間、二人で毎晩のように密着して眠ったベッドが(きし)む。

 さきほどまで抱いていた体に、ふたたび激しく口づけの雨を降らせた。

 跡をつけるたびにダニエルが甘くふるえる息を吐く。

 指輪をはめた手を押さえつけ、指を絡ませて握る。

 あたらしい跡を体中につけてやる。

 これからも。

 何年も。

 一生。



 二度と自身に対して、正体をごまかすことなどできないように。



「アレクシス」

 ダニエルがおおきく(あご)をそらす。恍惚(こうこつ)とした目で天井を見上げた。

 指輪をはめた手を握り返す。

 こんどこそ離さない。

「アレクシス」

 「好き」とうわごとのようになんどもつぶやくダニエルが愛おしい。


 いっそもう離れることができないよう永遠につながっていられたら。


「離れないでくれ」

 愛おしさで脳が(とろ)けそうになりながら、アレクシスはそう懇願していた。

「永遠に」

 熱をもった息を吐く。

 プロポーズの言葉は何にしたらいいか、ここのところずっと考えていた。

 指輪を渡すさいに「結婚してくれ」とは言ったが、彼に対して告げたい言葉は、もっとちがう気がしていた。

 ダニエルが首に腕を回す。「好き」とつぶやいてアレクシスの肩に顔を埋めた。


 このまま永遠に密着していたい。


「永遠に」

 ダニエルのほそい体を抱きしめる。

「永遠に離さない」

 彼がどんなまやかしの行動をしようが。

 どんなにニセモノの彼を演じようが。

 そうしていままで守ってくれた分、こんどはこちらが守るから。



 永遠に離れないで。次の世紀もいっしょにいてほしい。







 FINIS

 Con todo me amore.














最後までお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ