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【完結】 機械仕掛けの薔薇〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
20.起こりうるすべてに備えよ

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IN OMNIA PARATUS 起こりうるすべてに備えよ I

 遺伝子認証で勝手に解錠し、ダニエルがアレクシスのマンション内にずかずかと入って来たのは、ローズブレイドが帰って一時間ほどしたころだった。

 その間ブレインマシンには激怒した内容のメールが入れられ、「そこを動くな」としめくくられていた。

 盗聴システムを仕掛けていたことすら取り(つくろ)う気もないのは、それだけ怒っているのか、それとも彼のなかでは仕掛けてとうぜんという認識なのか。

 あらわれたダニエルは、めずらしく軍服姿だった。

 やはり参謀部での仕事を詰めていたのか。

 五日ぶりに見る恋人の顔が、はげしい怒気をおびた顔とは。

 怒りで眇められた青い目と紅潮した(ほお)が、ふとどきながらもきれいだと思ってしまった。


「言いたいことはあるか」


 リビングのソファに神妙に座ったアレクシスを、ダニエルは見下ろして険しい目つきで睨みつけた。

「……きれいだな」

 思わずそうつぶやく。

 ダニエルはしばらく無言で見下ろしてから、ソファの座面に片(ひざ)をつきアレクシスの部屋着の胸倉をつかんだ。


「それが貴様の浮気が発覚した場合の手口か!」

「は?」


 服の胸元をがっちりとつかみ、怒りに満ちた顔を鼻先まで近づける。

 いかん。ローズ少佐モードだとアレクシスは思った。

 一年間いっしょに過ごしたかわいくも淫らな恋人の顔と、教会で清廉な様子で聖書を読み上げる顔と。

 どちらがほんとうの顔かと思っていたが、あんがいこれが彼の本性なのか。

「落ちつけ」

「この好き者が!」

 ダニエルが服をグイッと引っぱる。


「すまん。おまえと格好から香りから似た感じだったから自制できなかった」

「かわいいことを言ってもムダだ!」


 ダニエルが声を上げる。

 どの辺がかわいかったんだ。アレクシスは困惑した。

「ともかく私はいくらでも謝る。だからローズブレイドに過激なことはするな」

「そちらがあった」

 ダニエルは胸倉をつかむのをやめてアレクシスから離れると、上着のなかのガンホルダーをさぐった。

 銃を取りだして、弾数を確認する。

「ローズブレイドのふだんの居所はどこ? いまから殺ってくる」

「いやっ……ちょっ、待ておまえ」

 アレクシスは立ち上がり、きびすを返したダニエルの腕をつかんだ。

 万が一こちらに銃口を向けられてはと思い、両手首をつかむ。ダニエルが抵抗したので、しっかりと押さえようとうしろから抱きすくめる格好になった。


「待て。愛してるから」


 ダニエルはしばらく無言で床を見つめていた。眉間にしわがよっている。

 さきほどよりも少し複雑な表情になっているのを、アレクシスは落ちついてくれたのだと解釈した。

「ダニエル」

「……浮気を責められたさいの対処がずいぶんと巧みだな、パガーニ大尉」

「え?」

 何のことだ。アレクシスは恋人の顔をおそるおそる覗きこんだ。

「さすがはイタリア男」

 ダニエルがそう言いこちらの手をふり払うと、いったん銃をしまう。

 遺伝子提供者がイタリア系らしいというだけで、イタリアで育ったわけではないんだが。

 アレクシスは顔をゆがめた。

 ダニエルは一人掛けソファに座ると、横におおきく脚を曲げて組んだ。(あご)をしゃくり、冷徹な高級将校という雰囲気で睨みつける。

 着ているものでスイッチが入るタイプなんだろうか。なるほどと思ってしまう。


「僕に似た格好と似た香り? わざとに決まってるだろう」


 いまいましげに言う。

「五日も会ってないのも知ってたかもね。あなたのことだから、オフィスでも人恋しそうな顔して勘づかれたのかもしれないし」

 ダニエルはさらに険しく眉間にしわをよせた。 

「それで? 僕に表情まで似せて、そのくせ清純ぶって “あんまり経験ないからやさしくして。” そんな感じ?」

「……見てたのか」

 アレクシスは眉をよせた。

「音声だけで見当つくよ。様子がおかしいと思って録音を追ったから来るのがいまごろになった」

「……おまえも何なんだGPS盗聴って」

「そんなもので不安を(あお)られて、ぐらついた(すき)をつかれるとか」

 ダニエルが舌打ちする。

「バカ」

 開き直りだろうか。それでも好きなんだが。

 ダニエルはため息をついた。横におおきく曲げた脚の上に頬杖(ほおづえ)をつく。

「これはべつの諜報担当の任務だから、僕の任務以上に言えなかった。だからぜったいに内密だ、アレクシス」

 そう前置きをする。



「あれの本名は、ユリシーズ・アシュベリー。同盟国のスパイだ。本物のジョシュア・ローズブレイドは、そちらの国にいる」



「え……」

 アレクシスは目を見開きソファから腰を浮かせた。

「なん……?」

「教育過程から実務に配属されるタイミングで亡命したらしい。あちらの国は、情報と彼のIDと引きかえに市民権をあたえた」

 「そしてスパイと入れ代わった」とダニエルが説明する。


「あれの目的は、あなたのDNAデータだ。施設玄関の遺伝子チェックを避けてたろう」


 遺伝子認証で玄関口のドアが開いた瞬間、いつも横を通り抜けていた彼の姿をアレクシスは思い出した。


 二秒が惜しかったわけではないのか。


「以前は、本物のジョシュア・ローズブレイドのデータを使っていたらしい。最近になって同盟国におなじデータがあることで一部エラーが出たんだ。本国の細工が終わるまで、とりあえずはべつのデータを使って遣りすごすかもしれないと思っていた」

 ダニエルが眉間のしわをさらにきつくする。


「分かった? 寝たら殺すと言った意味が」





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