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【完結】 機械仕掛けの薔薇〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
12.合意であなたを拘束する

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COME RUBARE INFORMAZIONI 情報を盗む方法

 昼まえ。

 出勤するとオフィスはあわただしい様子だった。


「またクラッキングです」


 早い時間帯に出勤していたローズブレイドが、目の前を通りすぎながら告げる。

 アレクシスの心臓が跳ね上がった。

 またダニエルだろうか。

 調査が打ち切られたので活動を再開したのか。


 泳がせるつもりかもしれないという可能性も伝えたのに。


「例のスパイですかね。金髪に司祭服の」

 目の前をなんどか行き来したあと、ローズブレイドがそう話しかけてくる。

「どうかな……調査が打ち切られたことなんか知ってるのか」

 アレクシスは答えた。

 平静をよそおいつつ自身のデスクに向かう。


「内通者がいればそのくらいの情報は簡単でしょ」


 ローズブレイドが応じる。

 アレクシスはかすかに頬を(こわ)ばらせた。

 その内通者が自分だとバレているわけではない。こいつはそういうことを言っているのではない。

 ダニエルに伝えた情報も、仕事の雑談の範囲ととれるものだ。

 機密に関することを漏らしたわけではない。

 そう自身に言い聞かせた。

「ここだけの話」

 ローズブレイドが声を潜める。

 ムダに耳元に顔を近づけてきたので、アレクシスはわずかに身体を引いた。


「上の指示で、銘々(めいめい)にちがう情報を教えてます」


 アレクシスは目を見開いた。

 PCの操作パネルに目線を向けた格好で固まる。

「スパイにどの情報が伝わっているかで、内通者が分かる。調査が打ち切られたってのも、実はウソです」

 アレクシスの足元から、スッと血の気が引いた。

 もしかして自分は、ダニエルといっしょに()められていたのか。

 いまごろダニエルのもとに、軍関係者が出向いているのか。

 そこまで一気に想像して、アレクシスはデスクのまえで立ちすくんだ。

「なぁんて」

 ローズブレイドが上目遣いで目を合わせる。

「信じました?」

 アレクシスは同僚のヘーゼル色の大きな目を見つめた。

 かなり遅れて、ゆっくりと息を吐く。

 つい情報を漏らしたという前提で返事をしそうになった。

 ちがうだろう。

 自分はただこいつの任務上の雑談を聞いただけで、だれにもそれを話してはいない。

 その前提で話さなくてはと自身に言い含める。


「……冗談か? おもしろくもない」


 アレクシスは同僚から顔をそらした。

「ウケませんでした? 大尉なら “うまい方法だな” とか言ってくれると思ったのに」

「で? それはほんとうなのか、それともまるっきり冗談か」

「いくら大尉でも言うわけないでしょ。ほんとうに作戦なら」

 ローズブレイドが、ニッと口の端を上げる。

 どちらととればいいのか。

 ややこしい駆け引きがすでに面倒くさくなっている。

 やはり自分に諜報(ちょうほう)は向いてないのだと分かる。



「大尉なら、一回寝てくれたら言ってもいいかな」


 

 ローズブレイドが、もういちど上目遣いでこちらを見る。

 アレクシスは目元を強ばらせた。

「おまえ殺さ……」

「ってのは冗談だけど」

 ほぼ同時の発言だった。ローズブレイドが声を上げて笑う。

 ダニエルの物騒(ぶっそう)なもの言いを知って挑発してきたかのように感じた。

 そんなわけはないか。

 同僚のやや童顔の顔を、アレクシスはつい凝視した。

「殺されるって何」

 ローズブレイドが怪訝(けげん)な表情をする。

「いや……」

「浮気したら殺すとか言う人とつき合ってるんですか? 大尉、いまどんな人とつき合ってるんです」

 ローズブレイドが顔をしかめる。

「受付の女の子でしたっけ。それとも衛生部のちょっと童顔の人? マーケットのウエイトレスでしたっけ」

 いまは美青年スパイだ。

 まさかそう返すわけにはいかずアレクシスは眉をよせた。

「大尉って、ちょっととっかえ引っかえな印象ありますよね」

 そこまでひどくはない。

 アレクシスは内心で反論した。

「おまえ仕事の邪魔しに来てるのか? いいかげん自分のデスクにもどれ」

 アレクシスはPCを起動させつつ椅子に座った。

 「welcome」の文字が空中に現れる。

 自身のIDを打ちこもうとして、はたと背後から覗き見るローズブレイドが気になった。

「……何見てる」

「クラッキングの被害がないか気になって」

「自分で対処する」


 言いながら、なるほど打ちこむところをさりげなく見れば他人のIDを盗むことができるなと考えた。

 ローズブレイドのものはそれでいけそうな気がする。

 だがジンデル准将のものはどうする。


 ふだん直接話す上官はせいぜい中佐だ。

 よほど重要な件でもないかぎり准将の執務室まで押しかけるわけにもいくまい。

 ダニエルはそういう場合どうするんだ。アレクシスは頬杖(ほおづえ)をついた。

「どうしました? ID忘れたとか?」

 ローズブレイドが手元を覗きこむ。

「おまえ……」

 アレクシスは口を開いた。

「例のスパイのDNAデータが、IDを入れても出ないと言ってたな」

「言いましたよ。大尉もためしにやったでしょ?」

「もういちどやってみてくれるか?」

 ここで、というふうにアレクシスは空中のキーボードを指さした。

「何のためにです」

 ローズブレイドが真顔で返す。

 アレクシスは眉をよせた。われながら下手すぎるか。


 情報を盗む方法すら教えずに、ダニエルは何をさせたいのか。


「クラッキングの被害を確認し終えたらやってみますけど、おなじじゃないですかね。“該当(N o t)する( A p p)デー(l i c)タなし(a b l e)” と出るだけ」

 ローズブレイドが肩をすくめる。


 ほぼ敵国ともいえる国のスパイのDNAデータが、なぜこちらの国でストップをかけられているのか。

 そういえばこいつは疑問には思わないんだろうかとアレクシスは思った。


 いまのところそこまでを言及するセリフはないが。


「……おまえは、何でこちらの国の機密だと判断したんだっけ」

「あのときは直感と言いましたが、あとで確認できる部分は確認しましたよ。少なくとも他国のサーバーは経由してません」


 将校クラスですら入りこめない機密か。


 アレクシスはPCの画面を見つめた。

 どの地位なら見ることは可能なのか。

 異常なほどしつこくさぐろうとしたら、こんどは自身がスパイの疑いをかけられるだろうか。


 一か八か。

 どの機関が逮捕に出張ってくるかで、機密あつかいの理由が分かるかもしれないが。





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