表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】 機械仕掛けの薔薇〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
12.合意であなたを拘束する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/63

PACTA SUNT SERVANDA 合意であなたを拘束する

 この国で、諜報や防諜を行う機関はいくつかある。


 首相直轄の特殊作戦執行部、外務省管轄の情報局と情報局保安部、政府通信本部、内務省管轄の国家犯罪捜査局、そして軍部に属する国防情報参謀部。

 関連の機関となるとそれぞれにいくつかあるが、主な機関はこんなところか。

 なかには軍部で育った人間が配属されている機関もある。


 夜間勤務の日。

 オフィス内の同僚がほとんどいなくなった時間帯を見計らって、アレクシスはダニエルの膨大なDNAデータをPCの検索エンジンにコピペした。

 “該当(N o t)する( A p p)デー(l i c)タなし(a b l e)” の表示が出たら、その上から自身のIDを書きこむ。

 それをひたすら繰り返してみた。


 これで何かが出るだろうか。


 どこの機関が逮捕または接触してくるかで、このデータを機密にしたい省庁が分かる。

 それさえ分かれば、機密にされている理由は見当がつけられるはずだ。


 他国のスパイのデータを機密あつかいにする理由は何か。

 ダニエルが答えないのなら、これしかあるまい。


 カシャ、カシャと古典的な内蔵音を立てて、アレクシスはひたすら空中のキーボードを操作した。

 基本的にはIDを書きこみ、また書きこみの繰り返しなので数十回もくりかえすと飽きてくる。

 頬杖(ほおづえ)をついた。

 惰性で指先を動かす。

 何となくむかしからあるホラー話を思い出すなと思う。

 古城で特定の行為を決められた回数行うとゴーストが出るとか出ないとか、そういうたぐいの。


 書きこみ、また書きこみ。


 徐々に冷静になってきた。

 いまの自分の姿を想像して、うっすらとバカらしくなる。


 おなじ検索をしつこくやっているくらいで、果たして実働部隊をよこす機関はあるのか。

 不意にそう思ってしまい手を止めた。

 仮眠をとっていた同僚がオフィスにもどる。

 入れかわりで仮眠をとるか。そう考えた。

 共有のディスプレイにある出勤名簿の表示を「勤務中」から「仮眠中」に書き変える。

 席を立った。

 オフィスを出て、LEDのあかりで煌々(こうこう)と照らされた廊下を横切り、トイレに入る。



 用を足してトイレから出ようとすると、とつぜんトイレ内のあかりが消えた。



 周囲を見回す。

 停電だろうかと眉をよせる。いまどき聞いたことはない。

 窓から見える施設内の照明灯は無事だ。

 トイレ内だけなのか。


 ふいに、背中に硬いものがあたる感触を覚えた。


 同時にかすかな靴音と人の気配。

 だれかがうしろにいると気づいた。

 背中にあたっているものは銃か。両手を挙げる。


「機関名は?」


 アレクシスが問うよりさきに、背後の人物がそう質問した。

 それはこちらのセリフだとアレクシスは内心で返した。

 もし狙いどおりスパイの疑惑を持たれたのなら、この質問はごもっともだが。

 若い男性の声だ。

 声の聞こえる位置から察するに、背丈は自身よりやや低めなのだろうか。

 わざと身体をかがめている可能性もあるが。

「そちらこそどこの機関だ。ここは陸軍の施設内だが」

「聞かれたことだけに答えろ」

 背後の人物が、抑揚(よくよう)をおさえた声で言う。

「……機関は国防省AFC。所属は陸軍」

 軍部の通称ではなく、公文書に記されるほうの名称でアレクシスは答えた。


「アレクシス・パガーニ大尉」


 背後の人物がそう口にする。

 もう氏名と階級を知られていたのか。

 手を挙げたまま、アレクシスはイヤな汗をかいた。

 軍の施設内だ。さきほど「仮眠」と書いてきた共有の出勤名簿を見ても、氏名などかんたんに分かる。

「……何のわけで私は銃なんか突きつけられているんだ。きみは強盗か何かか」

 アレクシスは(とぼ)けてそう問うてみた。

 背後の人物は黙っていた。

 じっと後頭部を見すえられている気がする。


「きみこそどこの機関だ?」

「パガーニ大尉」


 背後の人物は、抑揚のない声でもういちどそう呼びかけた。

 わざと特徴のつかみづらい話し方をしているようだ。

 素性を知られないようにか。

 なぜかくす必要があるのか。


 そもそもこの背後の人物は、どうやって軍の施設内に入ったのか。


 いくらおなじ国内機関でも、ちがう機関の人間が施設玄関のDNAチェックを通ることはできない。

 事前に一回のみの登録をすることになる。

 外部から来訪者があるさいはブレインマシンに連絡事項として入ってくるものなのだが、連絡はあっただろうか。

 ふと一つの答えに行きあたり、アレクシスは動揺して手をゆらした。

 うしろに突きつけられた硬いものが、グッと押しつけられる。



 もともと、おなじ施設内にいた。



 その考えにたどりつき、目を見開く。

 背後にいるのはおなじ陸軍の人間か。

 しかも素性を隠したがるということは。


「……機関は国防省AFC。きみも陸軍の人間か」


 アレクシスはそう問うた。

 背後の人物は、何も答えない。銃口と思われるものをさらに押しつけて身体をよせる。


「あなたがスパイとつながっていることは、すでに把握(はあく)している」


 心臓に冷水を流しこまれたかのような、きつい悪寒と緊張感を覚えた。

 血の気が引くのを感じる。

「いまのところは情報漏洩にもならないレベルなので見逃すが」

 目眩(めまい)がしそうなほどの動揺をこらえつつ、アレクシスは懸命に頭を働かせた。

 ダニエルに流した「情報」がすべて知られている。

 それとも(かま)をかけられているのか。

「何のことだ」

 アレクシスは、いちおうそう(とぼ)けてみせた。

 背後の人物が声をひそめる。 


「恋人が心配なら、余計なことはしないほうがいい」


 アレクシスは頬を(こわ)ばらせた。

「十数えるまでふり向くな」

 背後の人物がそう告げて背中から離れる。

 かすかな靴音を立てて出入口へと遠ざかった。

 明かりがつく。

 どうする、とアレクシスは白いタイルの床を見つめた。

 銃は。

 ロッカーのなかか。

 逆らって顔を見るのはかんたんだが、ダニエルにとばっちりが及ぶだろうか。

 出入口のドアが開閉される音がする。

 アレクシスは手を下ろしてゆっくりとふり向いた。

 陸軍の諜報担当だ。おそらく。

 国防情報参謀部に属するも、ふだんは一般の将校にまぎれて軍内部にいる。


 こちらの諜報員は、すべてつかんでいる。

 アレクシスはもういちど血の気が引くのを感じた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ