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【完結】 機械仕掛けの薔薇〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
11.ロザリオの祈り──千年紀カウントダウン

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CRUSTUM RESPICIENS AD ASTRA 星を見上げるパイ

 常夜灯のオレンジ色のあかりが、寝室の足元を照らす。

 うす暗い室内でベッドにあおむけになり、アレクシスは(ひたい)に手をあてた。

 情交の余韻で、心地のよい眠たさを感じる。

 軽く息を吐いた。

 ダニエルがイタズラをしたそうな表情でこちらのしぐさを見る。

 全裸の体をもそもそと動かすと、アレクシスの顔の上におおいかぶさり口づけてきた。


 駅で軽く飲食をしたあと、アレクシスの自宅であらためてデリバリーを頼んだ。

 いまどきは自分で調理をするという人間は少ない。

 家庭を持っていてさえも、料理をするのは趣味を兼ねている者くらいだと思う。

 何をやらせても器用そうに見えるダニエルは、料理だけは異様に苦手らしかった。

 なぜかまともに作れるのがスターゲイジーパイだけなのだが、あの猟奇的(りょうきてき)な見た目がアレクシスは子供のころから受け入れられない。

 クリスマスを祝えなかったおわびに作ると言われたが、やんわりと断った。

 せっかくの恋人の手料理なのだが。


 ダニエルが唇を離す。

 わきに退けられていた毛布を二人の体にかけ、なかでぴったりと体をつけてくる。

「……ベッド、買いかえようか」

 いままでになんどか言ったセリフだが、アレクシスはあらためてそう尋ねた。

「いらない」

 ダニエルが裸の胸に(ほお)をこすりつける。

「くっついて寝る口実がなくなる」

 アレクシスの手の位置を毛布のなかでさぐると、ダニエルは指をからめて握った。

「分かってないな」

 そうと続ける。


 口実だったのか。


 アレクシスは天井を見上げた。

 それともこれもたぶらかす手口なのだろうか。手先をつなぎ止めておくための。

 ダニエルの肩が目に入る。

 傷を負った箇所には先日はうすい保護パッドが貼られていたが、今日は何も貼られていない素肌だ。


「保護パッドはもう取ってもいいってさ。おりをみて傷痕(きずあと)を消す治療を受けることになるけど」


 アレクシスは、傷のあったあたりをなでた。

「銃の傷痕なんかあったら善良な市民になりすましにくいからね」

 ダニエルが微笑する。

 アレクシスは、ダニエルの顔を見た。

 傷痕があれば興醒(きょうざ)めされてハニートラップにかけにくくなるから。

 そういう意味だろうかと考える。

「……そうか」

 アレクシスは作り笑いでそう答えた。

 もういちどダニエルの肩をなでる。


 (たま)を受けた箇所がもう少しずれていたら、頭部にあたっていたかもしれない。

 いまさらながらそう考え怖くなる。


 そんな危険な仕事は辞められないか。そう言っては彼の気にさわるだろうか。


 チェルカシアの軍隊は、除隊することができるのだとダニエルは言っていた。

 除隊して、こちらの国の人間にならないか。

 そう言ったら、くだらないことを言う犬だと見限って離れていくだろうか。


「……ちゃんとした医者に診せてるんだな」


 アレクシスは、言いたいことを呑みこんでそう言った。

「軍医長が直々に診てくれた」

「チェルカシア軍の? 大使館にでも常駐してるのか?」

 そう問うと、ダニエルは答えず肩に毛布をかけた。


(ひげ)を伸ばした威圧的なご老人で」

「うちの軍医長もだ。どこでも軍医長というのはおなじなのかな」


 はは、とアレクシスは笑った。

 ダニエルは何も答えず、毛布を顔の下半分まで引き上げる。


「……もう情報をつかんでるかもしれんが」


 ダニエルが目を(つむ)る。

 眠たいのだろうかと思ったが、アレクシスは切り出した。

 軍部の情報を彼に流すのは、いまだ躊躇(ちゅうちょ)する気持ちがある。

 たぶん彼との縁が切れても引っかかりはずっとつづくだろう。


 だがその一方で、逮捕されてほしくない感情と、彼の役に立ってつなぎ止めておきたい感情とがある。


 特別警察がすべてアンドロイドの隊員になったさいに、軍部も同じようにすべきではと提案した議員は、いまのアレクシスには正解に思える。

 いくらDNAレベルで適性があるといっても、生身の人間にはこうして想定外の感情と行動がつきものだ。


「おまえについての調査は、打ち切りになったらしい」


 ダニエルは無言だった。

 眠ってしまったのかと思ったが、だいぶ時間を置いてから「そう」と答える。

「……つかんでたか」

「情報ありがと。好きだよ」

 ダニエルが言う。

 どうせつかんでいたんだろうなとアレクシスは思った。


「同僚は、おまえを泳がせる判断を上がした可能性も挙げてたが……」

「同僚ってだれ?」


 ダニエルが目を開け上目遣いでこちらを見る。

 アレクシスは顔をしかめた。

「いや……」

「寝たら殺すよ? あっちを」

 真顔でそれだけを言うと、ダニエルはこちらの胸元に頬をすりよせてふたたび目を瞑った。


 猟奇的なパイが得意料理な上に、浮気をしたら過激な処置をしようとする恋人。

 何でこんなのが好きなんだと、アレクシスはやわらかな金髪を見つめた。


 そういえば。


 初恋のあの女の子を見かけなくなったのは、クリスマスがすぎて少ししたころじゃなかったか。


 初等部の昼食で、クリスマスの祝いと伝統学習を兼ねてメニューに入れられたスターゲイジーパイ。

 切り分けたパイを乗せた皿を、あの子にさしだされた。

 料理のあまりの猟奇さにアレクシスは引いたが、あの子はにっこりと笑い「ザリガニのバージョンもあるんだよね」と平然と。

 アレクシスは、ゆっくりと額に手をあてた。


 なつかしいエピソードが(よみが)えったのはうれしいが、何だこの思い出。


 どことなく性格までダニエルに似てるような。


 子供のころの思い出だ。

 何かの記憶とごっちゃになっているのか。

 ダニエルが少し体をずらす。アレクシスに密着したまま枕に頭部をのせると、すうっと寝息を立てはじめた。





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