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Début.0 プロローグ



----本日は足元が悪い中

お越しいただきありがとうございました!




MCを終え頭を深々と下げステージ袖に捌ける。



なんとなくアイドルを始めて4年が経っていた。

バイトせずに食っていける程には界隈では

そこそこ有名になったし

可愛い衣装に包まれ満足してる。



---でもね始めた時の熱い気持ちを私は忘れて無いよ。

"世界で一番のアイドルになりたい。"





現実的に足りない顔面を

丸々整形できるお金なんてある訳無くて

そもそもダウンタイムでライブに穴を開けれる程

時間的余裕も無い。だって地下アイドルだもん。



見た目は中の上くらい。



【才能】と【努力】は5段階評価。

その掛け算が市場価値だと思う。



才能はそうだな

(3)くらいはあると思う。

努力は(4)くらいしてる自負はある。

3×4・・・・




合計は12か。





日本には10000人を超えるアイドルが居て 

才能が(5) 努力が(5)の女の子には

もちろん勝てる訳がない。

大体の努力はメジャーアイドルの才能が4くらいはある。

(3)くらいは努力されたら私とトントン。



----メジャーアイドルって日本に何人いるんだよ!!!


・顔

・スタイル

・歌 

・ダンス


世の中には努力だけでは

どうしようも無いものがたくさんある。

現実がちょっとずつ見えてきたし限界も感じてる。




ーーーそろそろ潮時か



メイクを直し唇をツンと尖らせると



「 今日も世界一可愛い! 」



と自分に"おまじない"を掛け

物販会場へと足運んだ。



「本日はご来場ありがとうございました!

10枚セットで購入の際はポイントが2倍になります!

初見様はチェキが無料になっております!

ライブを見て気になった方は是非お声かけください!」



マネージャーの鈴木さんは今日も商魂けたたましい。




「「「パティーエンド物販始めます!」」」



メンバーと声を揃え 挨拶をすると

特典会が始りチェキをそれぞれが撮っていく


「今日も楽しかったよ」


「いつもありがとう」


「あそこのダンス今日もズレてたね」



今日が最後だと思うと

いつもウザイと感じた"ファン"ですら愛しく感じて

涙が溢れた。



----いけねぇ。メンヘラみたいじゃんか。

こうゆうカマチョみたいなアイドルが一番嫌いなんだよ



【清く正しく美しく なんてたってアイドルだもん】



「ひ、ひびきちゃんどうしたの?!

・・・・くっつくの嫌だった?」



デビュー時から支えてくれるオタク

"郡城さん"が心配そうに顔を覗き込む。



「ううん。本当にいつもありがとう。本当に大好き!」



郡城さんは照れ臭く笑う。



「これからも俺達頑張るからさ。無理すんなよ!」



郡城さんは大学生。

オタクの中でもシュッとしてて

優しい言葉をいつも掛けてくれるから

たまに好きになりそうになる。



「ありがとうね!」



本音を押し殺し笑顔を作り手を振った。



---だって私はアイドルだから



地下アイドルでもプロである意識を諦めない。



トンッと掌と掌が触れ合うと

確かな絆を感じる事が出来る。

この仕事が嫌になったわけじゃない。



----むしろ大好き。





でもたまに"不安が支配して死にたくなる"



----思い描いた"場所"って奴に辿り着けなかった

アイドルの末路ってこんな感じなんだな。




これから何を目標にして行こうかなぁ

ぽっかりと胸に穴が空いても大丈夫かな?

辞めたら辞めたで不安になるんだろうな。




「ひびきさん最後です!」



鈴木さんの声がする。



今日も飲みにいくのだろうか?

笑顔が露骨でめちゃくちゃキモい。



「はじめまして。ひびきさんTwitter見てきました」



派手な服装で紫のパーカーを深々と被った

20代前半くらいのちょっと

イケてる感じの男性が目の前に立つ。



「今日はありがとう!

えっと・・・初めてかな?

お名前はなんていうんですか?」



台本に書かれた台詞の様に

テンプレ化された言葉で話す。



「そうたです。リプとか送ってたの分かりますか?」



よくあるこの質問

ファンが増えてきたのは大体一年前。

ライブアイドルとして動画がプチバズしてから

動員がドッと増え

紙にオタクの名前を書いてまとめても

追いつかなくなっていた。




「あ!分かるよ!いつも応援ありがとうね!」



慣れた"優しい嘘"でその場を凌ぐ

所謂疑似恋愛の演出だ。




「え!覚えててくれたんだ!

それじゃあの時のファボしたのも分かる?!

それからこれDMで送ったんだよ。

あとね配信の時1000円のクマ投げたのもボク。

・・・・・わかる?!」



少しずつ声が荒くなって行きその目は狂気を増して行く。



---あ、ガチ恋だぁ・・・・。



こうゆう人は一定数居る。

でもその都度 全力の笑顔と愛嬌でファンにしてきた。

やばくても潤んだ瞳でお願いして教育してきた。 




----だから、今日もきっと大丈夫。




そんな淡い予想は簡単に裏切られた。

むしろ私が裏切ったのかもしれない。



「あはは。いつもありがとうね そう”じ”くん!」



名前を間違えた事に気付くのは

顔を見れば簡単に分かる事だった。



----やってしまった・・・。








そこからは一瞬だった。









[グサッ・・・・・]




----え・・・?



ツンとした激痛が走り体が熱い。

その場に倒れ込むと暖かく優しい

赤い世界ひびきの視界を包む。





「お前が悪いんだ!俺がどんな思いで

推したと思ってるんだ!クソが!クソが!クソがぁ!!!」





---あぁ私これで終わりか。



不思議な事に"生を諦める"と痛みが消えていく。







脳がブレーカーを落とし

ゆっくりと眠りにつくような感覚だった。










・・・・・・・・プツン。







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