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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓
六年生の章 ミュージカル

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最終話 エピローグ


 ガラガラと馬車が道を走る音が響く。その揺れる馬車の中で私はヴァレーリアと窓の外に広がる旧王都の景色を眺めていた。そう、ここは封鎖街の中である。

 

「……本当に昔の街並みがそのまま残っているのね。王都の外れにこんなところがあったなんて」

「砂に埋もれてたことがいい方向に転んだって遺跡隊から聞きました。歴史的な価値はかなりありそうですよね」

 

 ルザとイシークは御者台にいるので馬車の中は二人きりだ。こんな風にヴァレーリアと二人で出掛けることなんて今までなかったため、私はさっきから上機嫌である。

 

「まさかお母様にも来てもらえるなんて思ってなかったので嬉しいです」

「それはこちらの台詞よ。私もディアナの演技を見られるなんて思ってなかったわ。しかもこんな特別な場所で」

「まあ一人芝居なのであまり迫力はないかもしれませんが、雰囲気を楽しんでくださいね」

「そうねぇ、楽しめたらいいけど、状況的に出来るかしら」

 

 そう言ってヴァレーリアは困ったように笑う。

 

「お父様もいるので大丈夫ですよ。その、アルスラン様もいらっしゃいますが……」

「本当に驚いたわ。まさか私が現王アルスラン様と一緒にディアナの舞台を観ることになるなんて」

「私も驚きましたよ。こんなご褒美がもらえるなんて思ってませんでしたから」

 

 実はこれから私は円形劇場に向かい、そこで歌と一人芝居を披露することになっている。この催しはもちろん極秘のもので、そこには私に前世の記憶があると知っている人たちだけしか招待されていない。

 つまりクィルガー、ヴァレーリア、アルスラン様、ソヤリの四人だけだ。ルザやイシークでさえ劇場外で待機になる。

 

 本当に、こんなご褒美をもらえるとは思わなかったな……。

 

 先日学院を卒業した私は、そういえばテルヴァの捕縛作戦の功績に対する褒美をまだ申し出ていないことに気付き、どうしようか考えた結果「円形劇場で歌ってみたい」とクィルガーに話したのだ。私はエルフであるためお客さんの前では歌えない。そのためこの前の公演会も姿を見せずに裏で歌った。

 

「公演会でみんなが歌っている姿を見て『ああ、この舞台で歌えたらどんなに気持ちいいんだろう』って思ってたんですよ。だからあの場所で一度だけ思いっきり歌ってみたいんです。それがご褒美ではダメでしょうか?」

 

 クィルガーはその話をアルスラン様に伝えてくれたのだが、それがなぜか「観客込み」で許可された。そして私の前世を知っている四人の前で歌を披露することになったのだ。

 そうして四の月の終わりに、私はヴァレーリアと封鎖外の円形劇場にこうして向かうことになった。そこで披露するのは歌と一人芝居だ。歌だけでは物足りないかもと思った私が演目を増やしたのである。

 

 やる内容は決まってるけど、上手く出来るかな。

 

 一応それなりに練習してきたが、かなり久しぶりに披露するものなので上手く出来るか少し不安だ。

 しばらく進むと旧王都の中心部に入り、周りから見回りの騎士たちの姿が消えた。今日この辺りはすでに人払いがされているのである。

 

「あ、見えてきましたね。お母様、あれが円形劇場です」

「まぁ……なんて大きな建物。ああ、本当にザガルディの競技場と似てるのね」

「競技場と違って楕円形ではないですけどね」

 

 馬車は円形劇場の奥へと入っていき、出入り口のある長方形の建物の横に停まる。そこに一台馬車が停まっているのを見て、私は自分のドゥタークを持ってヴァレーリアと馬車を降りた。

 

「予定通り、あちらはもう到着してるみたいですね」

「ふう、少し緊張してきたわ」

 

 ルザとイシークを馬車に残し、私たちは出入り口の扉を開けて建物の中に入る。外にも中にも誰もおらず、シンと静まり返った廊下を少し歩いて、すぐに左側にある扉を潜った。

 

「こっちが舞台裏に繋がっているんです。部屋がいっぱいあって、衣装を保管したり練習に使ったり出来るんですよ」

「まぁ……中はこんな風になってるのね。意外と広いわ。魔石術がない時代にこんな建物を作っていたなんて」

「すごいですよねぇ。柱や壁の装飾もなかなか凝ってますし」

 

 廊下を真っ直ぐに進み、突き当たりを右に曲がると舞台袖の小部屋に着く。その先に出ると円形劇場の舞台が広がっていた。

 

「ああ、来たか」

 

 その舞台の真ん中にアルスラン様とクィルガーとソヤリが立っていて、私たちが来たことに気付いたクィルガーがこちらに向かって手を上げた。私たちはそれに笑顔で答えて歩いていき、少し手前で跪く。

 

「アルスラン様、こちらが私の妻のヴァレーリアです」

「お初にお目にかかります。クィルガーの妻、ヴァレーリアでございます」

「ああ、話はよく聞いている。顔を上げよ」

 

 それからアルスラン様とヴァレーリアはいくつかやり取りをし、初めましての挨拶を終える。ちなみにヴァレーリアとソヤリは社交の場で何度か顔を合わせたことがあるらしい。

 アルスラン様の許可をもらって立ち上がると、クィルガーが私に尋ねる。

 

「俺たちはどこで観ていたらいいんだ?」

「そうですね……公演会の時と同じ場所でいいと思うんですけど、もし観にくかったらそれより前の席に来てもいいかもしれません」

 

 それを聞いたアルスラン様が、客席の方を振り返って顎に手を当てた。

 

「前の場所も観やすかったが、少し舞台まで距離があったからな……今日は其方しかおらぬし、もっと前の方でいいのではないか? そうでないと、其方の姿が小さすぎる」

「あ、でしたら一番前の方の席まで来ちゃいます? それなら私の顔まで見れると思いますけど。舞台と同じ高さのあの席とか……」

「そうだな、その辺りにしよう」

「ではその辺りに洗浄をかけてまいります」

 

 アルスラン様の言葉を聞いてソヤリがササっと客席に向かっていく。それを眺めながら私はアルスラン様に問いかけた。

 

「今日の体調はいかがですか?」

「問題ない。すこぶる好調だ」

「そのようですね、顔色が良いです」

「今日はなにをするのだ?」

「歌と一人芝居というものをします。歌は私が好きな歌を中心に何曲か披露して、一人芝居は前の世界で飽きるほど練習したものなんですが、それをお見せします。短い劇なのでそんなに時間は掛かりません」

「一人でも劇が出来るのか」

「もちろん出来ますよ。一人で複数の役を演じて、物語が進むんです。公演会で観たものと比べると地味ですけど想像が膨らむ演劇です」

「ふむ、そうなのか……演劇にはいろいろとあるのだな」

「そうなんです、演劇は奥が深いんです!」

 

 私がふっふっふんと胸を張ると、アルスラン様はフッと目元を緩める。

 

「では楽しみにしている」

「はい、楽しんでくださいね」

 

 客席の方へ向かうアルスラン様を笑顔のまま見送っていると、後ろでクィルガーとヴァレーリアが話しているのが聞こえた。

 

「……クィルガー、アルスラン様とディアナっていつもあんな感じで話してるの?」

「ん? そうだな……概ねあんな感じだが」

「そ、そう……」

 

 と少々戸惑う声を出しつつ、彼らも客席の方へ向かう。

 

「あ、パンムーもあっちで観るんじゃないの?」

「ム? パム……パッパムー!」

 

 私の声に寝ぼけたままスカーフから出てきたパンムーが状況を把握して、慌ててヴァレーリアの元へ駆け出して行った。それを見届けて私は一人で下手の舞台袖へと下がる。

 

 ふう、さすがにちょっと緊張するね。

 

 人前で演技をするのは慣れているが、一人芝居となるとまた違う緊張感がある。まるでコンクールに出場した時のようだ。

 私はドゥタークを包みから出すと、いつものようにリラックスする運動をして一人で気合を入れる。

 

 とにかく練習した通りに出来たらいい。あとはこの時間を楽しんで。

 

「よし、思いっきり行こう」

 

 深呼吸したあとに手をぎゅっと握り締めて、私は舞台へと足を踏み出した。私の姿が舞台に現れると、公演会の時のように四人が拍手で迎えてくれる。それに口元を緩めながら張り出し舞台の真ん中まで歩いて行き、そこで立ち止まってぺこりとお辞儀をする。こちらの礼ではない、前世のお辞儀だ。

 

「本日はお集まりいただきありがとうございます。これから私の大好きな歌と、とある劇を披露したいと思っています。短い時間ですが、最後までお付き合いください」

 

 そう言う私の声が劇場に響き渡る。この構造の会場なら拡声筒がなくても十分に響くのだ。私の挨拶に前に座っている四人がまた拍手をしてくれた。

 まずは歌だ。ドゥタークを構え、四年の劇でファリシュタが歌った歌を披露する。初めて録音筒に録音した歌。世界を称える賛美歌。王の間で響かせた歌がここではさらに美しく響く。

 

 うわぁ……気持ちいい。なにこれ。

 

 その音の広がりに私は歌いながら目を見開いた。まるでこの会場自体が大きなスピーカーのようだ。その響き方のあまりの気持ちよさに、私は笑顔になって歌い続ける。

 次はガラッと変わってアップテンポの楽しい歌を歌う。六年前、氷から目覚めた時に美しい声になってることが嬉しくて興奮して歌った曲。パンムーや他のマイヤンたちも一緒になって踊った曲だ。

 

「パムー、パムーっ」

 

 それを聞いたパンムーがヴァレーリアの頭の上であの時のように歌って踊り出した。それを見て笑いながら私も歌って踊る。

 私が好きな歌は明るい歌が多い。それらを全力で歌い、踊る。それは本当に楽しい時間だった。

 

 こんな会場で歌えるなんて夢みたい。

 

 そしてたくさんの歌を歌いきった私は、最後に目覚め唄を歌った。その歌を静かに歌い始めると、アルスラン様の表情が変わる。今回この機会をくれた彼に、この歌でお礼がしたかったのだ。

 

 おはよう おはよう 目をあけて

 おはよう おはよう さあおきて

 

 明るいひかり しあわせな風

 君のせかいが ここにあるよ

 

 おはよう おはよう 目をあけて

 おはよう おはよう さあおきて

 

 おはよう おはよう かわいい子

 おはよう おはよう さあおきて

 

 ひかりを浴びて なにをしようか

 君のせかいは 明るいよ

 

 おはよう おはよう いとしい子

 おはよう おはよう さあおきて

 

 この曲は弟妹たちにも歌っているものなので、それを知っているヴァレーリアやクィルガーも嬉しそうな顔をする。心を込めてそれを歌い切った私は、その場で深くお辞儀をした。

 それから一度舞台袖に下がり、そこにドゥタークを置いて私は再び舞台へと上がる。

 

「今から披露する劇のタイトルは『少女たちの革命』といって、複数の少女たちが困難に出会い、それに立ち向かって成長する物語です。今回はそのうちの二人の少女の物語を選んで、作り直しました。それではご覧ください」

 

 そう言って私は演技を始める。

 この劇は前世のとあるコンクールで演じたものだった。その競技会は前もって劇の台本が渡され、それを読み込んでコンクール当日にその中から指定された場面を演じるというやり方をしていた。

 私はその台本を何度も読み、登場人物全ての台詞を頭に叩き込んで、どの場面が試験に出ても問題ないように準備をして臨んだ。そのお陰か今でもその物語を細部まで覚えていたのである。


 ああ……懐かしいな。

 

 舞台で演じながら私は不思議な感覚に陥った。今はもう別の世界の別の人生を歩んでいるのに、演じるとあの時のことがはっきりと思い出される。

 

 あの時は必死だったもんね……これが最後のコンクールって決めてたから。

 

 そう、今演じているものは、前世の私が十四歳の時にやったもの。

 あの夢を諦めるきっかけになったコンクールで披露したものだ。

 

 生まれ変わっても、この劇は忘れることができなかったんだよね……。

 

 良くも悪くも記憶に残ってしまったこの劇を、私はもう一度ここで演じることにした。どうしても、そうしたかったのだ。演じているうちにあのコンクール当日の映像が頭に蘇ってくる。

 その日まで必死に練習してほとんど眠れなかったこと。

 クマが酷いとメイクしてくれた母に怒られたこと。

 緊張しすぎて朝ごはんを食べたら気持ち悪くなったこと。

 会場まで辿り着いてもずっと台本を読んでいたこと。

 絶対に受かるんだと必死に自分を奮い立たせていたこと。

 

 そして、本番直前にあの子の演技を見たこと。

 

 思い出しながら、泣きそうになる。惨めで、悔しかったあの時の気持ち。どんな顔をして家まで戻ったのか覚えていない。そこから部屋に篭ってずっと泣いていた。

 惨敗で終わった、最後のコンクール。私の幼いころからの夢は、あそこで終わった。

 

 あれからいろいろあったな……次にプロデュースの夢を見つけて走って……死んで。こっちの世界に来てからも百年追われて氷に閉じ込められて……一千年後に目覚めたら今度はテルヴァに狙われて。

 

 全くもって上手く行ったことのほとんどない人生だった。それでも私はまだこうして生きている。生きて、ここまで来た。

 そこでちょうどシーンが切り替わり、とある場面に移る。それはちょうどコンクールで演じたところだった。そこをあの時とは全く違う気持ちで私は演じる。

 見ている人に登場人物の気持ちが伝わるように、繊細に、大胆に。それから演じられる幸せを少しだけ込めて。

 

 その場面を演じながら私はチラリと客席を見た。そこには私が大好きな人たちが座っている。私の全てを知って、受け入れてくれた人たち。

 その人たちの視線は冷めたものではなく、とても温かなものだった。私はその眼差しを受けてふわりと微笑む。

 

 ああ、嬉しい。私は幸せだ。


 その気持ちで胸を一杯にさせながら、最後のシーンに入り、そしてラストまで演じ切る。

 私がその一人芝居を演じ終えると、観ていた四人が一斉に大きな拍手をしてくれた。その音に包まれながら、私は深々と頭を下げる。

 

 はぁ……やりきったね。気持ちよかった。

 

 前と違って大きな充実感に包まれた私は、顔を上げて四人の顔を見つめる。そこにあるのは、優しい笑顔だ。

 これから何百年あとになるかわからないが、次に死ぬ間際に頭に浮かぶのは、きっと今日のこの映像に違いない。

 その幸せな空気を目一杯吸い込んで、私は笑う。

 

「私の劇はこれでお終いです。ご観覧ありがとうございました」

 

 

 

 

娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜

はこれにて完結です。

最後まで読んでくださりありがとうございました。


活動報告にて今後の続編や番外編について書いてますので

是非そちらもご覧ください(名前のリンク先から読むことができます)

ここまで読んで「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけたなら、

ブックマーク登録とレビュー、広告下にある☆☆☆☆☆を押していただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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完結おめでとうございます! 書籍化、コミカライズ化の発表から辿り着き、寝食忘れ一気に読ませていただきました。 一人ぼっちのエルフになったディアナが、家族や仲間と過ごすエピローグまで。命の期限や、本音の…
[一言] 完結おめでとうございます!! そして ありがとうございます!! 途中で更新されなくなる小説も多いなか 準備期間も含め3年間も 大変だったと思います 早速SSもみれて幸せです  ありがとう…
[良い点] 完結おめでとうございます 最後まで劇でしめるなんて凄くディアナらしい終わりかたですごくよかったです 最初からずーっと一貫して積み重ねられてきたものが綺麗にまとまっていって、本当に面白かっ…
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