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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓
六年生の章 ミュージカル

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クラブ長としての言葉


 衣装係のメンバーは展示された衣装の前でなにやら話し込んでいた。

 

「イリーナ、なにしてるの?」

「あらディアナ、いらっしゃい。今ちょうど最後の質問の時間を設けていたのです。わたくしに聞きたいことがあれば今のうちに聞いて、と」

 

 イリーナが笑いながらそう言うと、側にいたラウレッタとハラルとエイミが困ったように眉を下げる。

 

「イリーナ先輩に聞きたいことが多すぎて大変なのです」

「来年になったらまた新しく知りたいことが出てくるかもしれませんし……」

「あら、貴女たちには教えられることは教えたでしょう? それを忘れなければ大丈夫ですわ」

 

 後輩たちの声を聞いて首を傾げるイリーナにメイユウがくすりと笑う。

 

「イリーナ先輩は精神的にも私たちの支えになっていましたから、先輩がいなくなると思うと心細いんですよ。私も技術的な問題よりそっちの方が心配で……」

「んまぁ、そうですの? あれだけの忙しい毎日をこなしてきたのですから、もっと自信を持って欲しいですわね」

「ふふ、でもみんなの気持ちも少しはわかるよ。私もイリーナの逞しさに支えられてきたから」

 

 彼女はいつでもどこでも前向きで、弱音を吐かない。出来るかどうか間に合うかどうか、などを考えて悩まない。間に合わせるためにはどうするかを考え、すぐに行動に移る人なのだ。そういうことが出来る人は実はそれほど多くない。

 私がそういったことを言うとイリーナはさらに首を傾げた。

 

「わたくしはやろうと思ったことをただ実行しているだけなのですけれど……そのように思われているとは考えていませんでした」

「自分で考えた服を作り、売ってきたイリーナ先輩の力を思えば、そのあとを私が継げるのか不安なのです」

「メイユウはわたくしの元でとても真面目に服作りを学んできましたし、刺繍の腕はわたくしより上ですのよ。自信を持って」

 

 イリーナにそう言われてもメイユウは眉を下げて笑ったままだ。確かに大人しくて繊細なメイユウにイリーナの代わりは出来ないかもしれない。

 

 だけど、それでいいと思うんだけどな。

 

「メイユウ、イリーナの代わりと務めようなんて思わなくていいんじゃない?」

「ディアナ先輩?」

「確かにイリーナには新しい道を切り開いていく力強さがあるけど、メイユウにはメイユウの力があるでしょう? 繊細な刺繍やデザインは誰にも真似出来ないし、伝統を守っていこうっていう心も持ってる。だったらイリーナが作ってきた衣装係の道のりを守って次に伝えることを目標にしたらいいんだと思うよ」

「イリーナ先輩の作った道を守って、次に伝える……」

 

 私の言葉を聞いたメイユウはそう繰り返してイリーナの方を見る。

 

「ディアナの言う通りですわ。メイユウにはメイユウの力があるのです。それは他のみなさんも一緒ですわよ。それぞれにきちんと力は備わっているのです。わたくしが鍛えたのですからそれは間違いないですわ。ですから自信を持ってと言っているのです」

 

 彼女はそう言うとメンバーの言いところを一つ一つ挙げ始めた。それを聞いて四人の顔が綻ぶ。

 

「今年の公演会の反響を見ればまた来年も新しいメンバーが入ってくることは確実ですわ。その方達にも衣装作りの基本と楽しさを伝えていって欲しい。それがわたくしの願いです」

「……わかりました、先輩。その言葉を胸に頑張ってみます」

「私も。イリーナ先輩の教えは忘れません」

「私もです」

「私も!」

「ふふ、ありがとう。これからのあなたたちの活躍に期待していますわ。わたくしはディアナの劇団の方にいますから、本当に困ることがあったら相談してくださいな。それくらいは許してくださいますわよね? ディアナ」

「もちろん。私もこの王都にいるし、なにかあれば協力するから」

 

 私とイリーナの言葉に四人はほっとした表情を浮かべた。衣装は演劇には欠かせない重要な役割がある。彼らにはどんどん服を作ってその技術を継承していってもらいたい。

 衣装係との話を終えてその場を離れようとすると、スッとメイユウが近付いてきて声を掛けてきた。

 

「ディアナ先輩、少しだけいいですか?」

「うん、どうしたの?」

「あの……先輩には前に相談していたことなので報告しておこうかと……実は家の跡取りから外れることが出来たのです」

「え、そうなの? 本当に?」

 

 メイユウは長男であるという理由で家の跡取りになって妻を迎えるよう親から言われていたのだが、どうしても結婚出来ない理由があって悩んでいた。

 

「はい。レンファイ様の視察が延期になっている間に、姉が自分の子どもを跡取りにすると言ってくれたんです。私には自由に生きたらいいと……」

「そうなんだ。お父様は納得したの?」

「かなりごねていましたが、姉は私が今学院でディアナ先輩の作った演劇クラブで活動していることを父に伝えて、私はそっちで活躍した方が絶対にいいんだと説得してくれて……最終的に認めてくれたんです」

「あ、じゃあメイユウはこれからも……」

 

 私がそう言って目をパチパチさせると、メイユウは真剣な顔になって姿勢を正した。

 

「ディアナ先輩、私はこれからも衣装作りを続けていきたい。ディアナ先輩の元で働きたいんです。どうか劇団に入れてください」

「メイユウ……」

「姉の思いに、私は応えたい。服作りに私の一生を捧げたいと思っています。その……まだ力不足かもしれませんが、その分努力しますので」

「ううん、力不足なんかじゃないよ。そっか……自分の道決めたんだね。わかった。メイユウの気持ちは受け取ったよ。イリーナと相談するけど、私は是非来て欲しいって思ってる」

「ほ、本当ですか?」

「うん。メイユウの力は本物だもん。だから来年度はそのつもりでこっちに来てね」

「はい! ありがとうございます!」

 

 彼はそう言って美しい笑顔を作り、メンバーの方へ戻っていった。

 

 元々メイユウには劇団に来て欲しいなって思ってたんだよね。早く決まってよかった。

 

 それから私は舞台美術係のメンバーの元へ行き、公演会での演出について話をした。そこで話題に上がったのが予定になかったフィナーレでの白い光だ。あれはなんだったのかとメンバーたちが聞くので、私は咄嗟に自分が事前に仕掛けていたものだと説明する。

 

 まさか魔女に向かって飛んだ光だなんて言えないし、透明の魔石を置いたのは私だから嘘はついてない。

 

「なんとディアナ先輩が作ったものだったのですか……! 感動しました。あれはどのような魔石装具なのですか?」

「あー……その、それは秘密。あれは私の魔石術の力が必要なものだから他では使えないの」

 

 私はサルキーの興奮した顔にそう答えると、すぐに話題を変える。

 

「あの大きな劇場でよくあれだけの演出が出来たと思うよ。本当に素晴らしかった。最高だったよ」

「シムディアクラブの助っ人がいなければ出来ませんでした。彼らには感謝しかありません」

 

 サルキーの言葉に頷き、私は「来年も舞台美術の人たちがたくさん欲しいね」と言ってヴィヴィに声を掛ける。すると彼女の目に力が入ってないことに気付いて首を捻った。

 

「どうしたの? ヴィヴィ」

「いえ別に……」

「ああ、ヴィヴィ先輩は今失恋中で元気がないんですよ」

 

 彼女の弟子のように隣に控えていたリージンのその答えに私は目を見開く。

 

「ええ! 失恋⁉ 一体どこの誰に⁉」

「先輩、そんなに大声で聞かないであげてください。相手はそこにいますから」

「ふぁ⁉」

 

 まるでヤティリのような声を上げた私は、リージンの視線の先にいる人を確かめる。そこにはハンカルと談笑するダニエルがいた。

 

「え……嘘でしょ。もしかしてダニエル?」

「ヴィヴィ先輩だけじゃないですよ。ダニエル先輩が国に帰ってそっちの人と結婚すると聞いて失恋してるメンバーはうちにたくさんいるんですから」

「ええ!」

「……失恋じゃないって言ってるじゃない、リージン」

 

 私たちの会話にヴィヴィが不機嫌な声で入ってくる。

 

「ダニエル先輩はなんでも言うこと聞いてくれるし、頼れる人だったから……劇団に入らないって聞いてガッカリしてるだけ」

「そうなんだ。確かにヴィヴィはダニエルに懐いてたもんね」

 

 どうやら大人気だったダニエルが国に帰ってしまうということを知ってショックを受けているメンバーが多いらしい。

 

 舞台美術係の頼れるお父さん、ダニエルの存在は思った以上に大きかったね。でもその気持ちはわかるよ。

 

 私も出来ればダニエルには劇団に来て欲しかった。彼のような人と人の間に入れる人材は貴重なのだ。

 

「まあヴィヴィにはリージンっていう弟子がいるんだから、これからは彼を頼ったらいいんじゃない?」

「リージンはダメ、安心感がない」

「そ、そんなぁ」

 

 ヴィヴィの言葉にショックを受けるリージンを見て私は尋ねる。

 

「どんなところが安心感がないの?」

「……体格」


 その彼女の答えに私とリージンはずっこけた。

 

「見た目ですか!」

「あはは、それは大変だね。リージン、今から体鍛えないと」

「そんな無茶な……僕は体に肉がつくタイプじゃないんですよ……」

 

 そう言って項垂れたリージンは「国に帰ったら体を大きくする方法を見つけないと……」とぶつぶつ呟く。彼が一体なにを目指したいのかよくわからないが、私は応援だけはしておいた。

 それから音出し隊の方に向かった私はすぐにナミクに助けを求められた。彼女が指差す方を見れば、ツァイナを挟んでボニートとアマート、そしてフーウェイとワンファンが睨み合っている。

 

「またいつものザガルディ対リンシャークの喧嘩?」

「そうです。今日はこの前の公演でいい活躍をしたのはどっちかで揉めてます」

「ツァイナはなんで間に挟まれてるの?」

「ツァイナにその判断を下して欲しいとお願いしてるみたいですけど、ツァイナは決められないって断ってます」

 

 そんなことを話しているうちに両者の言い合いはヒートアップしていく。

 

「どちらが優れていたかなんて決まっている。ほとんどミスのなかった私たちだ」

「嘘を吐くな。ボニートが何回かミスしたのは知っているし、リズムもずれていたじゃないか。なにより音が綺麗だったのは俺たちだ」

 

 ボニートとフーウェイはそう言って睨み合う。と、そこにギタラが現れて宥め始めた。だがこの一年ですっかりギタラのキャラが浸透したのか両者とも全く彼を相手にしない。ペイっとその場からすぐ外に押し出されたギタラは「なんだか私の扱いが軽くないか⁉」と文句を言う。

 

「……いつも通りの流れだね。ナミク」

「はい。いつも通りです。で、このあと……」

 

 そのあともわーわーと言い合いをする両者の間でツァイナの目つきがどんどん悪くなっていき、ついに彼女がキレた。

 

「貴方たち、そんな言い合いが出来るほど上手いと思ってるの?」

 

 その低い声にピタリと言い合いが止まる。

 

「ツァイナ先輩……」

「ボニート、貴方のミスは全部覚えてるわ。何回も練習してと言っていたところ、直ってなかったね」

「うっ」

「アマート、貴方は音の精度がまだまだ甘い。もっと綺麗に叩いて」

「はいっ」

「フーウェイは音は綺麗だけど走りがちよ。周りの音を聞くことを覚えなさい」

「う……はい」

「ワンファンは適当に流している時があるわ。もっと真剣に向き合って」

「ひえっはいぃ!」

 

 ギロリと睨まれながら言われた言葉に四人はピリッと姿勢を正した。

 

「……ナミク、私が助けに来なくてもよかったんじゃない?」

「まあ一応、違う展開になったら困るなと思いまして」

 

 ドス黒いオーラを出すツァイナの前で恐縮する四人を見ながら私は肩を竦める。音出し隊の揉め事は大抵ああやって収まるのだ。ここにいるツァイナが一番の実力者なのでそれに敵う人がいないためである。

 

 実力主義である音出し隊については、来年も大丈夫そうだね。

 

 作曲者のエルノには来年もこちらの手助けをして欲しいとお願いしている。それに指導者として目覚めたツァイナがいれば問題ないだろう。

 それからしばらく他のメンバーとも話をしていると、部屋の隅の小上がりにいたヤティリに手招きされた。

 

「ヤティリがそこに座ってるのを見るのも今日が最後だね」

「ま、まあね……また次の場所でも居場所を探さなきゃ。あ、それでこれからのことなんだけど、一度うちの館に戻ったあと本当にディアナの家にお世話になっていいの?」

「うん。劇団員が入る予定の館の調整がまだ出来てなくて……すぐにそっちに移れそうにないからヤティリとファリシュタにはうちに来てもらうつもりで準備してるよ」

 

 ハンカル、ラクス、エルノ、イリーナは一度国に帰って準備を整えたあとにこちらに来る予定なのだが、特殊貴族のファリシュタと国に帰る気がないヤティリはそのままうちに来てもらって、しばらく過ごしてもらう予定なのだ。

 

「こっちで働くための契約書類に関してはその時にサインしてもらうから」

「わ、わかった……」

「迎えの馬車もうちから派遣するから、それに乗ってきてね」

「うう……緊張する」

「そういえば叔父さんにはちゃんと知らせたの? ヤティリのこと」

「うん。それは手紙で知らせたけど……ちょっと遅かったみたい」

「へ?」

「叔父さんもう家出したあとだった……多分今頃アルタカシークに着いてると思う」

「ええ! どうするの?」

「僕の居場所は一応伝えておいたから、そのうち連絡が来るんじゃないかな。まあ大丈夫だよ、しぶとい人だから」

 

 どこかで生きてはいると淡々と言うヤティリに私はため息を吐く。

 

 ダメだ……やっぱり変わり者過ぎる。まあ私が関わる人じゃないからいいんだけど。

 

 その後お茶会は盛り上がり、私は役者の新メンバーたちとも思う存分交流して最後の時間を楽しんだ。一年の頑張りが報われたこの日はやっぱり特別で、みんなの顔も明るい。

 そしてお茶会の終わりの時間が近付いたところで、私はメンバーに集まってもらって来年のクラブ長と副クラブ長の発表をする。

 同じ小上がりにマーラとチェシルに上がってもらってハンカルと私がその場に立つと、みんながこちらを見上げた。

 

「来年はマーラにクラブ長を、チェシルに副クラブ長を務めてもらいたいと思ってます。みなさん、新しいクラブ長の言うことをよく聞いて、さらに素晴らしい劇を作り上げてください」

 

 私がそう言ってマーラに視線を移すと、彼女は緊張した面持ちで一歩前に出る。

 

「正直言うと、ディアナ先輩のあとを引き継げるのか不安もあります。でも私は自分の実力をよくわかってますし、一人で進もうなんて最初から思っていません。今までディアナ先輩が作ってくださった道を途切れさせないように、みんなに助けてもらいながらやっていこうと思っています。私はなによりみなさんの力を信じています」

 

 マーラはそう言うと私をチラリと見てニッと笑う。


「だってこのディアナ先輩に鍛えられたメンバーなんですから」

 

 その言葉にメンバーたちが次々と笑い出す。

 

「それはどう意味かな? マーラ」

 

 私がわざとらしく口を尖らせると彼女は胸を張って言った。

 

「先輩のあの指導に耐えられた私たちには相当な根性があるってことです。私に先輩のような新しいことは出来ませんが、今まで培ったものを後輩に教えていくことは出来るかなって。だから来年一年よろしくお願いします!」

 

 マーラがそう言って軽い恭順の礼をとると、メンバーたちから拍手が起こった。そのあと副クラブ長予定のチェシルも「クラブ長の補佐は任せてください」と挨拶をし、その流れで現副クラブ長のハンカルもお礼の挨拶をした。それにもみんなから拍手が送られる。

 

「——じゃあ最後にクラブ長であるディアナから最後の挨拶を」

 

 彼にそう促されて私は一歩前へ出る。一呼吸置くようにメンバーたちを見回すと、これまでのいろんなことが思い出されて胸が熱くなった。

 

「……私が学院で初めて劇を披露したのは一年生の冬でした。ここにいるハンカル、ラクス、ファリシュタ、それにイバン様とケヴィン先輩……その六人だけで『クィルガー物語』を演じました。当時はまだ踊りも歌もなくて、音出しも二つしかなくてとても地味でしたが、お客さんからは拍手をもらえてとても嬉しかったことを覚えています」

 

 そう言ってハンカル、ラクス、ファリシュタを見ると三人とも懐かしそうな顔をして微笑む。

 

「それから演劇クラブが出来て、初期メンバーが入ってくれて大教室で初めての演劇公演会を行いました。イバン様とレンファイ様の活躍もあってとても好評で……それから三年、四年と音出しと踊りを極めていきました。特に四年の劇でファリシュタが歌を歌った時は……本当に時が止まったように感じました」

「ああ……懐かしいな」

「ディアナには内緒にしてやったんだよな」

「うん。あれはものすごく緊張した……」

 

 三人の呟きに私は微笑みながらうんうんと頷く。あの時のことを思い出して目の奥がジンとしてくる。

 

「五年生の時は私に監視がついてしまって……思ったような練習が出来なくなってしまったけど、それでもみんなが協力して素晴らしい劇を作り上げてくれました。カランビアという国がなくなってしまったため、あのフィヤト物語は今後上演出来るかはわかりませんが、私の中では間違いなく記憶に残る最高の演目でした。フィヤトを演じられたことはこの先も忘れません」

 

 そう話すと、メンバーの中から鼻を啜る音が聞こえ出す。ふと見ると、横でマーラが大粒の涙を流していた。

 

「そして今年も、私がここに来れる時間が限られてしまって、みんなには迷惑を掛けたと思います。特に新メンバーの人たちとはあまり関われなくてごめんなさい。でもその分それぞれの係の先輩たちが頑張ってくれて、去年よりさらに成長出来たと思います。本当にありがとう。みんなが一人一人考えて動いてくれたお陰で、今年も最高の劇が出来上がりました」

 

 私はそこでふう、と息を吐く。自分の目が赤くなっているのを感じながら、続きを話す。

 

「ここに入学した時、演劇をしたいと思っているのは私一人でした。それから六年経って……今ここにはたくさんの仲間がいます。それがどれほど奇跡的なことか、嬉しいことか……だからずっとお礼を言いたくて。ここまで私を連れてきてくれたのはみんなです。私の夢は私一人では叶えられなかった。最高の景色を見せてくれて本当にありがとう」

 

 涙を溜めてそう言うと、「ディアナ先輩ぃ」「お礼を言いたいのはこちらです」という声が上がる。

 

「ここで得たものはたくさんあります。それを今度は劇団というものに詰め込んで、また新しい道を進もうと思っています。演劇は私にたくさんの力を与えてくれました。それを、さらにたくさんの人々に伝えていくつもりです。もちろんみんなの活躍をこれからも心から願ってます。今までありがとうございました」

 

 私がそう言葉を締めくくって恭順の礼をすると、大きな拍手が湧き起こり、ラクスとファリシュタが小上がりに上がってきて私に抱き着いた。見ると二人とも涙を流している。

 

「こっちこそありがとな! ディアナのお陰で新しくて楽しいことばかりだった!」

「ディアナぁぁ……うう……っ」

「ラクス……ファリシュタ……」

 

 二人の言葉に我慢していたものがこぼれ落ちていく。すると横にいたマーラが大声で泣き出した。

 

「ディアナ先輩ぃぃぃやっぱり寂しいですぅぅ」

「こらマーラ、泣き過ぎよ」

「チェシルも泣いてるじゃない……っ」

「マーラがそんなに泣くから……!」

 

 マーラは声を上げながらチェシルと一緒に泣き始め、他のメンバーも涙を拭ったり私に声を掛けてくれたりしている。その中で私は笑って泣いた。

 それは少し寂しくて、とても幸せな時間だった。

 

 ありがとう。私本当に演劇クラブを作って良かった……みんなと出会えて良かったよ……!

 

 

 

 

クラブでの最後の日。

ディアナの奮闘を支えてくれた仲間たち。

嬉しくて寂しくてたくさんの涙が

こぼれました。


次は アルスランの思惑、です。

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