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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
一年生の章 武術劇

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談話室にて


「うーん……どうしようかな」

 

 私は手に持った紙とにらめっこしながらうんうん唸る。

 今日は社交クラブのパーティの日で、ハンカルがそちらに行っている間、不参加組の私とファリシュタとラクスは談話室で作戦会議をすることにした。

 

「ディアナ、なにかあったの?」

 

 談話室の小上がりの台の上で一人唸っていると、飲み物を取りに行ってくれていたファリシュタとラクスが、お茶セットとお菓子を手に帰ってきた。

 

「学院側から練習室として使っていい教室が書かれた手紙が届いたんだけど……」

「なんだ? なんか変な場所なのか?」


 ラクスがテーブルにお茶セットを置きながら聞いてくる。

 

「ううん。教室は三階の日当たりのいい小教室だから場所はいいんだけど、肝心のマイ……拡声筒の貸し出しが遅れそうだって」

 

 私はそう言って手にした手紙をふるふると振る。学院側からと言っているが、ソヤリから届いた手紙だ。そこには許可の降りた教室の番号と「今貸し出せる拡声筒がないから年明けまで待つように」という内容が書かれていた。

 

「年明けになったらマズイのか?」

「計画ではね、中間テストが終わった十二の月の半ばあたりに勧誘のための劇を披露しようかと思ってたんだよね」

 

 私の計画はこうだ。

 まず私とラクスである程度盛り上がるシーンを練習する。ファリシュタやハンカルに音出しや携帯灯を使った演出を練習してもらう。

 中間テスト終わりに談話室で寮の学生を集めて劇を観てもらい、メンバーの募集をする。

 それを終業式までに何度か行いメンバーを増やし、入会申請書に署名をもらって学院側に提出! そして来年度から演劇クラブ始動! やっほぅ!

 

「っていう予定だったの」


 それを聞いたラクスが目を丸くして口を開く。

 

「劇の発表って何度もするのか?」

「だって役者は私とラクスだけだし、しかもラクスは今から芝居の練習をするんだよ? そんな二人が一回発表したくらいで、今まで劇を観たことない学生の興味を惹けるとは思わないよ」

「まぁ確かに……」

「拡声筒なしで発表することはできないの?」

 

 ファリシュタがお茶を淹れながら私にそう問い掛けると、向かいのラクスがそれを聞いてあ、と声を出した。

 

「そうだよ。旅芸人たちはなにも使わずに劇をやってたぞ?」

 

 そう言うラクスに私は首を振る。

 

「旅芸人は外で演劇をするための練習を積んできたからできるけど、あの声量ではっきり喋ること自体、結構難しいことなんだよ。この談話室は室内だけどこれだけ大きいんだもん、演劇を始めたばかりの人がこの部屋全体に響くような声を出すのは無理だと思う」

 

 もちろん舞台で声量は大切だ。お腹から出す声には厚みがあるし、迫力もでる。でも演劇経験ゼロのラクスの声量を短時間で成長させるのは無理があるし、そっちの練習よりも滑舌良く、わかりやすい発声で台詞を喋る練習に時間を使いたい。

 

 だから拡声筒は劇の発表には必須なのだ。

 

「劇を観たことのない学生にはインパクトが必要だと思う。『これが劇なのか』『面白そうだな』って思わせるためには、拡声筒で直接脳に響かせるくらいのことはしないとね」

「インパクトか……」

 

 ラクスはそれを聞いて納得したようだ。

 

「じゃあ劇の発表は年明けってことか?」

「そうだねぇ。それしかなさそう。まぁそれまでにいいものができるように練習するしかないか」

「そういえば劇の練習ってなにをすればいいんだ?」

「ラクスはまずは基礎練習だね」

 

 私はそう言って一枚の紙を彼に渡す。

 

「ラクス用の練習メニューを書いてみた。まずは基礎体力作りと発声練習ね」

「準備体操、腹筋、背筋、腕立て……ってなんじゃこりゃ! 劇の練習するんじゃないのか?」

「最低限の体力がないと劇はできないから。ラクスは体鍛えてると思うしこれくらい軽いもんでしょ?」

「……まぁそうだけど、この発声練習っていうのは?」

「台詞を観てる人たちみんなにわかりやすく伝えるには滑舌良く、はっきり喋ることが必要なんだよ。そのために発声練習をするの」

「それはわかるけど、この文字の羅列はなんだ?」

 

 ラクスのメニューには私が考えた滑舌を鍛える練習文字が書いてある。

 恵麻時代にやった「あいうえおあお、かきくけこかこ……」や「あいうえお、いうえおあ、、うえおあい……」という発声練習の定番メニューをこの世界の基礎文字に合わせて作ってみたのだ。

 ラクスは顔を傾げながらそれをゆっくり読んでいる。

 

「ラクスには腹式呼吸での発声方法を教えるから、それを使ってその言葉を練習してみて」

「むぅ……なんか難しいこと言われてる気がするぞ」

「ラクスは勘がいいから大丈夫だよ」

 

 感覚派のラクスは実践して覚えてもらう方が早い気がするので、あとで寮の前庭で教えることになった。

 

「そういえばディアナ、台本はできた?」

「あーうん……まだ迷い中……」

 

 私はお茶をずずっと飲みながらファリシュタに答える。実はまだ台本が完成していないのだ。私は脇に置いている荷物からクィルガーの本を手に取ってテーブルの上に乗せて表紙をめくった。

 

「私とラクスでやれる場面で、盛り上がりもあるところって考えると難しいんだよねぇ」

 

 クィルガーの物語の登場人物は圧倒的に男性が多い。この前みたいに私が村長や兵士の役をやってもいいけれど、正直全く迫力が出ない。

 

「ハンカルとラクスがいればクィルガーと兵士の格好いいシーンとか行けるかもって思ってたんだけど、私とラクスじゃねぇ」

「ディアナにあう登場人物って攫われる村の娘くらいしかいないもんね」

「そうなんだよファリシュタ。クィルガーと兵士と村の娘だったら物語の最後のシーンがやれたんだけど」

「いっそのこと全く違う話でやるとか?」


 ラクスの言葉に私はむーんと口を尖らす。

 

「確かに二人でやる劇には向いてない題材なんだけど……でもなぁ、本当にこの『砂漠の騎士クィルガー物語』は面白いんだよ。この作家の人に出会ったらサインもらいたいくらい」

 

 と、私がそう言ったところでガタン! となにかをぶつける音がした。

 後ろを振り向くと、隣の小上がりに座った男子生徒がこちらに背を向けてもぞもぞと動いている。よく見るとテーブルの下に伸びた膝をさすっていた。

 

 ぶつけたのかな?

 

 私は顔を戻して二人に向き直る。ラクスはテーブルの上に置かれたお菓子をつまみながら、うんうん頷く。

 

「確かに面白いもんなぁこの本。読書が苦手な俺でも最後まで読めたんだ。奇跡の本だぞこれ」

「奇跡なんだ……」

「そうだぞファリシュタ。俺は本を読み出すと二ページ目には眠たくなるんだ」

 

 と至極真面目な顔で向かいのファリシュタに言い切るので、それに思わず二人で吹き出してしまう。

 

「笑い事じゃないぞ」

「いやあラクスらしいと思って」

「ふふふ、そうだね」

 

 私たちの反応にラクスがむぅ、とふくれた顔になる。

 

「とりあえずもう少し練ってみてダメそうなら他の話を考えるよ」

「台本を考えるっていうのも大変なんだね」

「うん。でも演劇をするにあたって一番重要なものだし、頑張るよ」


 そう話していると、後ろからとても小さな独り言が聞こえた。

 

「台本……演劇……?」

 

 私は振り返らずにその声が聞こえた方向に意識を向ける。多分さっきの男子生徒だ。エルフの耳でないと聞こえないくらいの小さな声に耳がピクリと動く。

 

「……劇ってあの劇?」

 

 ボソボソと喋る声は聞き取りにくいが、どうやら私たちの言ってることに反応しているようだ。

 

 もしかして、演劇に興味持ってくれたのかな?

 

 チラリと見ると男子生徒は私たちに背を向けて、一人でテーブルに本とノートを広げてカリカリとなにかを書いていた。紺色の帽子からクセのあるクリクリの黒い長髪が伸びている。

 

 勉強熱心な子なのだろうか。

 

 ふとその向こう側に視線を向けると、奥の小上がりの台にマリアーラ王女が座っているのが見えた。周りには数人の学生がいる。

 

 マリアーラ王女は王族なのに今日の社交パーティには参加してないんだね。

 

 王族は全員参加するものだと思っていたが、違ったようだ。

 

「ディアナ? どうかしたの?」

「ううん、なんでもない。そういえばそろそろハンカル帰ってくるかな」

「あ、ほんとだ。もうこんな時間か。社交パーティも終わってるころかな」

 

 そんなことを三人で話していると、寮の入り口からどやどやと騒ぐ声が近付いてきて、扉が開きっ放しの談話室までその声が響いてきた。いつもと違う雰囲気に談話室の中にいる生徒たちが驚いてそちらに注目する。

 私たちも身を乗り出して談話室の扉の方を見た。

 

 扉の向こう側、ちょうど寮の玄関ホールがある場所にイバン王子とティエラルダ王女の姿が見えた。周りにはそのお付きの学生がたくさんいる。

 

「私納得いきませんわ。イバン様はお姉様に非があるとおっしゃいますの?」

「そうではない。ただ俺はストルティーナ様の言い分には無理があると言っただけだ」

「お姉様のおっしゃることが間違っていると⁉」

 

 ティエラルダ王女はそのキツい目つきでイバン王子を睨みつけると、

 

「イバン様には失望いたしましたわ!」

 

 と言い放って、お付きの人とともに階段を駆け上がっていった。イバン王子はそれを眺めてフゥッと息をつく。

 

「やれやれ、ストルティーナ様に似て気の強い女性だ」

「気にすることはありません、イバン様。あれはどう見てもストルティーナ様の思い込みかと」

「ああ、わかっている。ただレンファイに対する彼女の態度がこれ以上悪化しないか心配だ」

 

 イバン王子はそう言って階段をゆっくり上がっていった。

 

「……なにかあったのかな」

 

 一緒に見ていたファリシュタが心配そうな声を出す。

 

「ティエラルダ様がめちゃくちゃキレてたね」

「イバン様に向かってあんな剣幕で怒るとか、よくやるなあ」

 

 ラクスがげんなりした顔で肩をすくめる。確かに、私だけじゃなく大国の王子にまであんな態度を取れるティエラルダ王女はある意味すごい。

 

「あ、ハンカルだ。おーい!」

 

 談話室の扉の側にハンカルの姿を見つけてラクスが手を振って声をかける。

 ハンカルはそれに気付いて私たちの小上がりに近付いてきた。心なしか彼の顔がげっそりしている。

 

「おかえり、ハンカル」

「ああ……」

「なんでそんなに疲れてんだ? なんかあったのか?」

 

 ハンカルはラクスの横に座るとふぅ、とため息をついた。ハンカル用に用意していたカップにファリシュタがお茶を注いで、ハンカルに渡す。

 

「ああ、ありがとうファリシュタ」

 

 ハンカルはそう言ってお茶をごくごくと一気に飲み干す。こんなことするハンカルは珍しい。

 

「はぁ……、今日は疲れたよ」

「社交パーティでなんかあったの?」

「大変な目にあった……」

 

 お茶を飲んで少し落ち着いたハンカルは、社交パーティの会場であった事件について語り出した。

 

 

 

 

演劇クラブ(仮)の今後の予定についてでした。

社交パーティに行っていたハンカルがお疲れの様子。

何かあったようです。


次は社交パーティでの騒ぎ、です。

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