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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓
一年生の章 武術劇

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社交パーティでの騒ぎ


「俺はグルチェや他のウヤトの者たちから離れていろんな国の学生と話しながら会場のあちこちを回っていたんだが、パーティの終盤になってとある場所で騒ぎが起きたんだ」

 

 ハンカルの言葉にラクスが反応する。

 

「騒ぎ?」

「ああ、パーティの会場には食べ物が並んだテーブルや、歓談するためのスペースが設けられているんだが、その他にもシムディアクラブや魔石装具クラブの展示スペースがあったんだ」

「へぇ、他のクラブの展示なんてあるんだな」

「それがあることで、他クラブの生徒もパーティに参加しやすくなるかららしい」

 

 ハンカルの説明によると、シムディアクラブでは今シーズンで一番熱かった試合の模様を解説したり、今注目のメンバーの紹介をしていて、魔石装具クラブでは開発中の注目の新作魔石装具の展示をしてその使い方を説明したりしていたらしい。

 

 新作魔石装具か……ちょっと見にいきたかったな。

 

「で、パーティの終盤、その魔石装具クラブの展示スペースの前から大きな音と悲鳴が聞こえたんだ」

 

 ボン! というなにかが爆発したような音がしてハンカルがその音がした方を見ると、魔石装具クラブの展示スペースの前で誰かが騒いでいる声がした。

 生徒たちは何事かとその場所へ集まる。たまたまその近くにいたハンカルもその生徒たちに混じって様子を見にいった。

 

 すると水の入った大きな水槽のようなものの前でストルティーナ王女とレンファイ王女が揉めていた。レンファイ王女の横にはイバン王子が、展示スペースの方には魔石装具クラブのメンバーたちがいたらしい。

 ストルティーナ王女は顔を真っ赤にしてレンファイ王女に向かって叫んだ。

 

「わたくしにこんな熱湯をかけるなんてどういうことですの⁉」

「申し訳ありません、ストルティーナ様。お怪我はありませんか?」

「髪も服もびしょ濡れになってある意味大怪我ですわ!」

「すぐに替えのものを用意いたします」

 

 冷静に対処しようとするレンファイ王女に対して、ストルティーナ王女の怒りは増していく。

 

「あなた、このパーティの主催者であるわたくしに恥をかかせるためにわざとやったのではなくて⁉」

「ストルティーナ様、そんなことはないと思う。レンファイも同じようにびしょ濡れになっているのだぞ?」

 

 すかさずフォローしに入ってきたイバン王子も、よく見たら少し濡れていた。

 

「それより二人とも早く着替えを。おい、其方らのマントを早く」

 

 イバン王子はそう言って二人の周りにいたお付きの学生たちに指示を出す。王族の女性がびしょ濡れになった姿を周りに見せるわけにはいかないからだ。

 

 おお……さすがイバン王子。ジェントルマンだ。

 

 私はハンカルの話を聞きながら感心する。

 だがマントをかけてもらったストルティーナ王女がそのイバン王子の言動にさらにキレた。

 

「わたくしの言ってることが間違っていると言うの? レンファイがその魔石装具に触れた途端大量の熱湯が吹き出してわたくしにかかったのですよ⁉ これはわたくしに対する攻撃ですわ!」

 

 頭からマントを被ったストルティーナ王女が目を釣り上げてそう叫ぶ。攻撃という物騒な言葉を聞いて周りの学生の空気がざわつく。

 そんな中レンファイ王女が表情を変えることなく口を開いた。

 

「そのような意図は全くありません。なぜ私が触れた魔石装具から大量の熱湯が出たのかはわかりませんが、ストルティーナ様に敵意がないことは我が名にかけて誓いましょう」

 

 その言葉に周りの学生がどよめいた。

 

 私はその話を聞いて首を傾げる。

 

「どういうこと?」

「レンファイ王女が我が名にかけてということは、大国リンシャークの名にかけるということだ。つまり国としてサマリー国の王女に対して敵意はないと表明したということなんだ」

「うわぁ……めちゃくちゃ大事になってるな」

 

 ラクスが引きつった顔でそう呟く。

 

 レンファイ王女がそう言ったことでストルティーナ王女は一旦落ち着いたらしいが、魔石装具クラブのメンバーに聞いてもなぜ突然熱湯が出たのかがわからない。

 レンファイ王女が触った魔石装具を他の生徒が触ってみたりしたが普通の水しか出なかったらしい。

 その状況に業を煮やしたストルティーナ王女がまたイライラし始め、レンファイ王女に向かってとんでもないことを言い出した。

 

「原因が分からないなんて有り得ませんわ! レンファイが故意ではないというのなら、その原因を突き止めるまでこの件を調査することを求めます!」

「ストルティーナ様、それは魔石装具クラブがやることであってレンファイがすることでは……」

「まぁイバンはいつもレンファイを庇うのね! そうやって自分たちは優位であると示したいのでしょう? 大国の者同士、価値観は一緒ということなのね」

「そんなことは」

「イバン、それくらいで」

「レンファイ……」

「わかりました、ストルティーナ様。原因がわかるまで私が調査をいたしましょう」

「フン。それならば今この会場にいる者たちも全員調査対象に入れてちょうだい」

「会場にいる生徒たちを疑うのですか?」

「当たり前でしょう? ただの魔石装具の暴走ではなく誰かが仕組んだ攻撃かもしれないじゃない」

 

 それを聞いて私たちは目を見開く。

 

「え……ただの魔石装具の不具合かもしれないのに大事件みたいな扱いになってるじゃないか」

「そうなんだよラクス。その言葉に驚いたのはパーティに参加していた俺たちだ。勝手に調査対象になってしまったからな」

 

 しかしその場を収めるには社交クラブのクラブ長であるストルティーナ王女の言い分を聞いたほうがいいと判断したレンファイ王女が、自分のお付きの学生たちに指示を出し始めた。

 

 その結果、その会場にいた者たちは全員簡単な事情聴取を受けることになったらしい。それが済むまでは会場から出ないようにと言われて。

 

「俺はまだ早めに終わったからよかったけど、今でもまだ会場では事情聴取が続いているんじゃないかな」

「それは……本当に大変な目にあったねハンカル」

「お疲れさま」

 

 私に続いてファリシュタがそう言ってハンカルのカップにお茶を注ぐ。

 

「ああ、ありがとうファリシュタ」

 

 ハンカルはそう言って淹れてもらったお茶に口をつける。

 

「そういえばさっきティエラルダ様がイバン様に突っかかってたのはなんだったんだ?」

 

 ラクスのその言葉にハンカルが答える。

 

「どうやらイバン様が会場から寮に帰る時に、お付きの学生とストルティーナ様の言い分について話していたのを、同じく会場から帰る途中だったティエラルダ様に聞かれたらしい」

 

 絶対レンファイ王女が故意にやったのではないと言い切るイバン王子に、ティエラルダ王女が姉のことを馬鹿にされたと思って突っかかっていったのだという。

 

 なんというか、わかっていたけど思い込みの激しい姉妹だね……。

 

「レンファイ様も大変なことになったね……」

「そうだな。ただあのようなことになっても冷静にその場を収めようとする姿はさすがだった」

「そんな人が故意にそんな騒ぎを起こすなんて考えられないよねぇ」

「ディアナ、あまり大きな声でそれを言わない方がいい」

「え?」

 

 ハンカルは私にそう言うと周りに目線を動かして声をひそめた。

 

「どこでサマリー国の者が聞いているかわからないからな。レンファイ様を庇う発言はあまりしない方がいいぞ」

「確かに、変に絡まれそうだもんな」

 

 ラクスも小声でそう言う。

 

「この件に関しては解決するまでそっとしておいた方が良さそうだ」

 

 ハンカルのその言葉を聞いて私はむーんと口を尖らす。実際に会場にいなかったからわからないが、話を聞く限りただの魔石装具の暴走のような気がする。

 

「ハンカル、その魔石装具って触ってみた?」

「ああ、水の出る魔石装具がどんなものか興味があったからな」

 

 水の出る魔石装具は携帯灯と同じ形をしていて、筒のスライドを開けると下に赤い魔石がはまっている。それに触れると先端から水がドバドバ出てくる仕組みらしい。

 

「先端を覗くと中に深い青色の奇石がはまっていてそこから水が溢れてくるんだ。不思議な石だったよ」

「赤い魔石に触れてなくても水が出てるの?」

「そうだな、そんなに量は出ないがチョロチョロと湧き出ていたよ」

「じゃあ持ち歩く時も常に水がポタポタ溢れちゃうってこと?」

「いやそんなことはなかったぞ? あ、そういえば蓋みたいなものがついていたな」

 

 蓋をしていれば水はそれ以上溢れないってことだろうか。

 

「魔石装具の仕組みがよくわかんないから私たちが考えても仕方ないか……」

「確か今週から魔石装具学の授業が始まるんだったよな?」

 

 ラクスの言葉にハンカルが頷く。

 

「気になることがあったらその時に先生に聞いた方がいいかもな」

「そうだね」

 

 ハンカルと私がそう言って頷いていると、ファリシュタが口を開いた。

 

「そういえば演劇の役に立ちそうな話は聞けた?」

 

 その言葉にハンカルがあ、という顔になる。

 

「そういえばその情報を集めにいってたんだった」

「ハンカルが忘れるなんて珍しいな」

 

 はははと笑ってラクスがツッコむ。それを聞いてバツの悪そうな顔をしたハンカルがポリポリと頬をかいた。

 

「それが吹っ飛ぶくらいの騒ぎだったからな……。でも他国の学生からいろんな話は聞けたぞ」

「そうなの? どんなだった? 学生が興味あることがなにかわかった?」

 

 私はワクワクして身を乗り出す。

 

「まず話題に上がったのは君だよ、ディアナ」

「へ?」

「とても優秀な一年生がいるってことで同じ寮の俺がなぜか質問攻めにあったよ。ディアナの噂は本当か? ってね」

「ええええ」

 

 そんな場所で自分の名前が上がってるとは思わなかった。

 

「そりゃ王族でもないのにイバン王子と同等の力を持ってるとわかったら噂にはなるよ」

「それにしても噂が回るの早くない?」

「どうやら珍しい話題ほど噂が広がるスピードは速いみたいだ。あとはレンファイ王女の結婚相手が誰になるのかとか、どこの国の王子が花嫁候補を探しているらしいとか、そういう婚姻関係の話題が多かったよ」

「婚姻関係かぁ……やっぱりお年頃の人たちの話題ってそうなるんだねぇ」

「グルチェも同じこと言ってた」

 

 その話を聞いていたファリシュタがなにか考え込むように言った。

 

「じゃあ演劇のお話もそういう物語のものがいいのかな?」

「そうだねぇ。ベストセラーの三位にも悲恋物語が入ってたし、恋愛ものはテッパンだね」

「てっぱん?」

「やって間違いはないものってこと」

 

 それを聞いていたラクスが慌てたように言う。

 

「え、ちょっと待ってくれ、演劇で恋愛物語をやるのか?」

「やっぱり恥ずかしい? ラクス」

「そりゃそうだろ。本として読むのと、劇としてみんなの前で発表するのとじゃ全然違うじゃないか」

「そうだな。特に男性はあまりそういう本を読まないしな」

 

 そういえば図書館にあった恋愛物語も極端に数が少なかったね。王様もあまり好んで読むものではないようだ。

 

「まぁ確かに……。それにラクスと私で恋愛物語の劇をしたって見た目が幼すぎて似合わないだろうし」

 

 私がそう言うとみんなその場面を思い浮かべたのか、ラクスとファリシュタは顔を赤くしてるし、ハンカルは微妙な顔になる。

 

「と、とにかく恋愛物語は俺は嫌だぞ」

「わかったよラクス、それはしないから。ハンカル、他にはなにかなかった?」

 

 私がそう言うとハンカルは顎に手を当てて考える。

 

「そうだなぁ、あとは学生の愚痴っぽい話しかなかったな。一年生は特に授業が難しいとか、慣れない寮生活がしんどくなってきたとかそういう話が多かった」

「確かにそろそろ集団生活に馴染めない子はしんどくなってくる時期だよね」

「俺は全然平気だけどな!」

 

 とラクスがカラカラと笑う。それをじとっとした目で見ながらハンカルが言った。

 

「俺も同室のやつに振り回されてて疲れるって話をしといた」

「え! 俺ってハンカルのこと振り回してるのか?」

「無自覚なのか……」

「頑張れハンカル」

 

 ハァとため息をつくハンカルに私は握り拳を作って励ましの言葉をかける。そのやりとりを見てファリシュタがクスクスと笑った。

 

 そういえばあれからファリシュタと同室の子の話を聞いてないけど、どうなったんだろう?

 

 私がそう思いながらファリシュタを見ると、その視線に気付いたのかファリシュタが笑顔のまま言った。

 

「私は相部屋でもよく眠れるタイプだし、最近は演劇クラブのことを考えるのが楽しいから充実してるよ」

「本当?」

「うん」

 

 その言葉に少し安心する。きっと状況は改善してはいないだろうけど、ファリシュタが元気であればそれでいい。

 

 

 私たちはそのあと、寮の前庭で腹式呼吸の練習をした。ラクスはやはり勘がよく、すぐにコツを掴んだようだ。お腹を押さえながら喉に負担をかけずに発声する練習をしている。

 

「おお、なんか楽に大きな声が出るぞ」

 

 その状況が面白かったらしく、そのあともしばらく声を出し続けた。

 

 この調子なら台詞をハキハキ喋るくらいはすぐにできるかもしれないね。

 

 私はそう思いながら夕方の赤い空を見上げた。空には羊雲らしきものが見える。

 入学してから一ヶ月以上が経って、季節はすっかり秋になっていた。

 

 

 

 

社交パーティでは王族同士のいざこざがありました。

巻き込まれたハンカル、お疲れ様です。

恋愛劇は却下されました。


次は魔石装具学、です。

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