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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
五年生の章 推理アクション劇

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吐き出せる場所


 テスト期間が終わり、スラヴェナが再び戻ってくる日になった。彼女が来る前にと呼び出された副学院長室の中で、私はオリム先生から事業計画書の入った封筒を貰う。

 

「ソヤリからです。気になるところにはメモを入れていると言っていました」

 

 そう言われて封筒の中をチラッと覗くと、事業計画書の書類の間にいくつかメモが入っているのが見えた。

 

 ……アルスラン様かな。今回はすぐに見てくれたんだ。

 

 そう思うだけで嬉しいが、同時に今は泣きそうになってしまう。私はすぐに封筒の口を閉じて鞄にしまうと、オリム先生に問いかける。

 

「ソヤリさんはお元気そうでしたか?」

「彼は表情には出しませんから本当のところはわかりませんが、いつもと変わりない様子でしたよ。彼自身は元気そうでした」

 

 オリム先生は少し含みのある言い方でそう答える。ソヤリ自身は元気そうだが、そうじゃない人がいるというのが伝わってくる。今私の後ろにはルザとイシークがいるので、そういう言い方しかできないのだろう。

 

 ソヤリさんは元気だけど、アルスラン様はそうじゃないってことか……。

 

 前に書いて渡したリラクゼーションの方法だけではダメだったのだろうか。他にもなにかアルスラン様が元気になるものがないかと考えていると、オリム先生が呆れたように笑う。

 

「ディアナ、私はそちらより貴女の方が心配です。ソヤリも気にしていましたよ」

「……ソヤリさんも私の状況を知っているのですか?」

「貴女の不調やテストの結果は向こうには伝えないといけませんからね」

 

 その言い方だとアルスラン様にも話はいっているようだ。学院の成績については毎年報告していたので仕方がない。

 

 がっかりしちゃったかな……アルスラン様。

 

「私は……多分、時間が必要なんだと思います。だから大丈夫だとソヤリさんに伝えてください」

「ディアナ……」

「もうすぐ冬休みも来ますし、家に帰って家族に会えれば元気になると思うので。……それよりオリム先生、ソヤリさんやお父様は相変わらず忙しいのですよね?」

「え? ええ、そうですね。ようやく夏頃の混乱は収まってきたようですが、新しい体制にしたことで起こる問題が新たに出てきて、そちらに時間を割かれているようです」

「……それは、単に人手不足というのもあるのではないですか?」

 

 そもそもアルスラン様の手足となる側近が二人だけというのが無理がある気がする。ソヤリやクィルガーのフォローができる人がいないと、結局二人がアルスラン様のことを見れる時間が減ってしまう。

 

「それは大いにあるでしょうね。しかしあの二人をフォローできる人材を確保するのは難しいでしょう。彼らには守るべき秘密がたくさんありますから」

 

 あの二人の仕事を手伝うということは、アルスラン様にも近づくということだ。王の間の魔法陣という最大の秘密を守ろうとするならば、そういう人物はいない方がいいというのもわかる。

 

 だけど正直、もう限界な気はするよ……。

 

「……オリム先生、これは私が言えるようなことではないのですが……一つ提案があります」

「なんでしょうか?」

「五大老のどなたかに……手伝っていただくというのは考えられないですか?」

「五大老にですか?」

 

 私の言葉にオリム先生は目を丸くする。

 

「はい。五大老は元々この国のトップにいた方々ですし、誰よりも執務については詳しいでしょう? それに信頼度はどの執務官よりも高いのではないですか?」

 

 五大老はアルスラン様の秘密を知っている。もう引退しているので体力的にはキツいかもしれないが、ソヤリとクィルガーのフォローくらいならしてもらえるかもしれない。

 

「それは……考えてもいませんでしたね。確かに彼らは暇を持て余していますし、案外いい提案かもしれません。ただ、現役の執務官たちには嫌がられるでしょうが」

「あ……そうですね。すみません、そっちの方は考えていませんでした」

 

 確かにかつての上司が現場に戻ってくるとなると、今の執務長官たちは嫌がるだろう。五大老は自分たちが引退する前に執務官たちをしごき上げたと言っていたから。

 

「ふふ、でもまぁ提案くらいはしてみますよ。なにより彼らは我々と同じ志を持っていますから、そちらの心配事も解消できそうですし」

 

 オリム先生はそう言って悪戯っぽく笑う。どうやら私の「五大老に手伝ってもらってアルスラン様の健康状況を改善して欲しい」という意図は伝わったらしい。

 先生の返事を聞いてホッと胸を撫で下ろす。五大老に任せることができれば、アルスラン様の健康はなんとかなるかもしれない。

 

「……ディアナは、それでいいのですか?」

「え?」

「いえ、なんでもありません。今日から予定通りに監視が戻りますが、本当に平気なのですか?」

「はい。結局彼女がいてもいなくても状況は変わりませんでしたから、大丈夫だと思います」

 

 私は眉を下げてにこりと笑い、副学院長室をあとにした。

 テストが終わるとクラブ活動の時間がしっかり取れるようになる。私は自分の中の寂しさや不安をかき消すように練習に打ち込み、夜は疲れ果てて寝るという日々を送るが、心の中は晴れないままだった。

 もう自分でもどうすればいいのかわからないなと半分諦めた気持ちになっていた時に、魔石装具工房に呼び出された。呼び出し人はテクナ先生とラギナ、どちらもである。

 

 二人同時に用があるなんて珍しいね。

 

 二人が私に会いたがっていると言ってきたガラーブは「どうせ面倒なことだろうから、適当にあしらっておけよ」と嫌そうな顔をしていたが、ずっと寮と学院の往復する日々だったので私はちょっと嬉しかった。

 いい気分転換になるかもしれないという心持ちで工房に行ったのだが、私を待っていたのは最高潮に機嫌の悪い二人と、よくぞ来てくれました! と泣いて迎え入れてくれた職員たちだった。

 案内されたテクナ先生の研究室の中で、私は職員の人たちに事情を聞く。

 

「あの……これは?」

「実は先日からこの二人の言い争いが止まらなくなりまして、我々も収めようと頑張ったのですがその甲斐もなく、誰かこの二人を止める人がいないかと思ってディアナ様にお願いした次第です」

 

 どうやら今ここにいる職員は中位貴族以下の人たちのようで、私に申し訳なさそうにそう言ってくる。

 

「え……なぜ私なのですか? 二人の仲をどうにかするならうちの寮長さんにお願いすればいいじゃないですか」

「ガラーブ様にはすでにお願いしました。そして、すぐに『駄目だこれは』と言って帰ってしまわれました」

 

 ちょっと! 寮長さんなにやってんの!

 

「自分の夫と子どものことじゃないですか……!」

「『ああなったらしばらく放っておくしかない』と言われまして……しかしこれ以上このままだと仕事に支障が出るのです。いつも二人の面倒を見ている高位貴族の職員も不在で……お願いします、お二人のお気に入りであるディアナ様でしたらなんとかできるかもしれません」

 

 その言葉に続いて他の職員からも「お願いします!」「工房を救ってください」とお願いされてしまう。

 

 いやいやいや、寮長さんにも収められなかったものを私がどうこうできるわけないじゃない。

 

「……ちなみに二人はなんで喧嘩してるんですか?」

「テクナ様が担当されている研究がうまく進まず、それについて自分も関わりたいと言ったラギナ様に『お前は首をつっこむな』と返されて、そこからなぜか言い争いがヒートアップしまして……今に至ります」

「それくらいの言い合いなら今までもありそうですけど」

「ええ、ありました。何度も。けれどもなぜか今回はそれが長引いているのです。今ではもうなぜ自分たちがこうなっているのかわかっていらっしゃらないかもしれません」

「ええー……」

 

 職員の人たちの説明に呆れていると、テクナ先生がぴくりと片眉を上げた。

 

「そこまでアホじゃねぇよ俺は。今回はこいつがなぜか全然引かないのが悪い。ったく、王から直々に頼まれてるもんを娘だからってほいほい見せるわけにはいかないんだよ。それくらいこいつだってわかってるはずだ」

 

 先生にジロリと睨まれたラギナは同じように睨み返して口を開く。

 

「それくらいは私もわかってる。でもさ、魔石装具作りは一人でやるもんじゃないでしょ? チーム力が必要なんだって言ったのは父さんだよ。大事な仕事だから誰にも言えないのはわかるけど、それで上手く行かないんならチームでやっていいか聞くくらいはしたらいいじゃないって言ってるの」

「忙しい王にそんなこと言えるか。これは俺が頼まれた仕事だ。最後まで俺がやる」

「そうやって父さんがそっちにばっか時間を割くと工房のみんなが困るんだってば! なんでそれがわかんないのよ!」

「俺がいなくたって工房は回るようにしてるだろ。それで上手くいかないのは働いているやつが悪い」

「はあああ⁉ それが工場長の言う台詞? 工房が上手くいってないのは一番上の責任でしょうが!」

「お前、去年任された研究が上手くいかなくて俺に取り上げられたから怒ってるだけなんだろ。工場のことまで巻き込むな」

「そんなしょうもないことでここまで怒るわけないでしょ! 馬鹿! クソ馬鹿親父!」

「親に向かってなんてこと言うんだこの馬鹿娘!」

「あんたに育てられてこうなったんでしょうが!」

「あんたとはなんだゴラァ!」

「お二人ともお止めください!」

「ラギナ様っ物を投げないで!」

 

 今にも殴り合いの喧嘩を始めそうな二人を職員たちが必死に止める。私はその様子を半眼で見つめながら「これは酷いね……」とポツリと呟いた。どう見ても大した喧嘩ではないのに口が悪いせいで無駄にヒートアップしてるとしか思えない。

 

 この二人を止める方法ね……なくはないかな。

 

 私は興奮している二人の間にてくてくと歩いていって、二人の顔を交互に見た。

 

「あのー、お取り込み中悪いのですが、私の話を聞いてもらってもいいですか?」

「こんなことにディアナは首をつっこまなくていいよ」

「そうだぞ。お前はこの馬鹿娘と違って面白い人間なんだから、こいつなんて放っておいたらいい」

「誰が面白くない人間よ」

「お前に決まってんだろ」

「ちょっと待ってください! ストップストップ!」

 

 また喧嘩を始めそうな二人の間に割り込んで、私はピッと人差し指を立てる。

 

「いいですか、お二人がなんで喧嘩になってるのか深いところは知りませんが、こんな不毛な状況でいることが一番工房のためにはならないと思います。そうですよね?」

 

 私がそう言って周りの職員の人たちに視線を送ると、彼らは一斉にうんうんと頷く。

 

「とにかく今は二人の仲直りが最優先事項です。というわけで、今すぐ、ここで、二人とも謝ってください。それで仲直りしましょう」

「はああ? そんなこと簡単にできるわけないじゃないディアナ!」

「そうだぞ。大体なんで俺が謝らないといけないんだよ」

「テクナ先生は、ラギナに酷い物言いをしたことと、工場の人たちが悪いと言ったことについて謝る必要があると思います。逆にラギナは親に向かって馬鹿って言ったことを謝りましょう。それはいけないことです」

 

 私が冷静にズバッと指摘すると、二人はむぐっと口を閉じる。同じ反応をするなんてやっぱり血の繋がりがある親子である。

 

「私の言ってることはなにか間違っていますか?」

「い、いや……その……」

「間違っては……いないと思うけど……」

 

 私が言ったのはさっきの二人の言い合いの中身についてだ。それについてお互い謝罪して、この不毛な喧嘩を一旦終わらせることが今必要なことだと思う。

 だが今さら素直に謝ることはできないらしく、二人ともむむむとヘの字口になったまま動かない。

 

 仕方がないなぁ、もう。

 

「じゃあお二人にご褒美をあげましょう」

「は?」

「ご褒美ってなに? ディアナがくれるの?」

「はい。お二人が今、ここで謝って仲直りをしてくれたら……工房で作った魔石装具の宣伝を一度だけ引き受けます」

「なに⁉」

「宣伝って……ディアナが魔石装具を売り込んでくれるってこと⁉」

「そうです。場所は魔石装具の新作発表会になると思いますが、そこで特別に学生たちに売り込みをしますよ」

 

 三年の時に新しい携帯灯の売り込みを手伝ったことがある。あの時に口の上手い私の宣伝はとても喜ばれたのだ。

 

「私が宣伝すれば売り上げはかなり伸びます。今年発表する新商品があれば注目度も上がりますし、工房にとってもすごく良いご褒美になると思いますが、どうしますか? 仲直りしますか? しませんか?」

「する! するするすぐにする!」

「その褒美はいただいた!」

 

 二人は勢いよくそう返事をして、いきなりお互いに向かい合ったと思うと大声で「ごめん!」「すまん!」と謝った。

 

「今はとりあえず仲直りってことで!」

「そうだな。なんの問題もない! ガハハハハ」

 

 そう言って笑い合った二人はそのまま私の方を向く。

 

「で、今の話は本当なんだろうな? ディアナ」

「ねえねえ、今からその打ち合わせしてもいい? 紹介して欲しい商品があるんだけど」

「あ、ずりぃぞ。俺だって候補はある」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。もう、ふふふ」

 

 あまりの展開の速さに私や周りの職員も笑い出す。こんなに上手くいくとは思っていなかったが、二人の変化が面白すぎてツボに入ってしまう。私はたまらずお腹を抱えて爆笑する。

 

「……おい、笑いすぎだろ」

「……なんか恥ずかしいんだけど」

 

 今さら恥ずかしがっている二人を見てさらにおかしくなり、私は思いっきり笑った。全く貴族らしくない二人のやり取りを見て、呆れて、微笑ましくて、心の底から力が抜ける。それが、引き金になった。

 

「……ふ……んぐ……」

「ディアナ様?」

「えっディアナ?」

 

 気がつけば私の目から大量の涙が溢れ出していた。拭っても拭っても止まらない。堰を切ったようにとめどなくこぼれてくる。ラギナとルザが慌てて駆け寄り、私の姿を隠してくれて、テクナ先生に言われて職員たちが慌てて部屋から出ていく。

 

「ディアナ……どうしたの? どこか痛いの?」

「う……うぐ……違います。大丈夫……」

「全然大丈夫じゃないじゃない! え、どういうこと? ルザ」

 

 ラギナは私の背中に手を回してルザに説明を求める。最近私が不調だったことを知ったラギナは「なんでそんな大事なこと言わないの! 私たちの喧嘩なんてどうでも良いことじゃない!」と怒ったあと、「父さんちょっと奥の部屋借りるから!」と言って私の手を引いて隣の部屋へ向かう。

 

「ラギナ様、私も」

「ルザとイシークはとりあえずそっちにいて。父さん、盗み聞きしないでよ」

「するかよ!」

 

 隣の部屋は狭い物置き部屋になっていて、ちょうど出窓があったのでそのベンチ部分に座らされる。しばらくして少し落ち着いた私にラギナが静かな声で問いかけた。

 

「ディアナ、なにがあったの。私に言えることがあったら言って」

「ラギナ……」

 

 彼女の真っ直ぐな目に見つめられて、私はポツポツと今まで誰にも言えなかったことを吐き出した。

 近しい人にも学院にいる人にも言えなかったことが、なぜか彼女には素直に言えた。もしかしたら彼女だったら「そんなの大したことないよ!」と言ってくれるような気がしたからかもしれない。

 私はみんなと一緒に生きて死ねないこと。大事な人が増えれば増えるほどいつかやってくる別れが辛いこと。楽しい時間を過ごす度に寂しい感情が湧き出てくることを話した。

 止まらない涙とともに、今まで内に抱えてたものが次々と溢れ出てくる。

 

「ディアナ……そんな大事なこと、今まで誰にも言ってなかったの?」

「だって……誰に言っても仕方ないことじゃないですか。この世でエルフは私一人ですし、この気持ちは……誰にもわからないことですから」

「……」

 

 ラギナはなにも言わずに私の背を撫でてくれる。少ししてから彼女が口を開いた。

 

「そうだね……正直私にもディアナの苦しみはわからないよ。わかるなんて言えない」

「……」

「だから……火に会いに行こう」

「え?」

 

 よくわからなくてラギナの方を向くと、彼女は私の目を正面から見て頷く。

 

「うん、火に会いに行こう、ディアナ。聖火に会えば、きっとなにか感じられると思うから」

 

 ラギナは私の頬をぐしぐしと撫でて涙を拭い、ニカっと笑った。

 

 

 

 

遠慮のない親子のやり取りが引き金になりました。

ディアナの悩みを聞き出したラギナはとある提案をします。


次は 超高温と聖なる火、です。

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