二十三話・ウォルター
その後、何度かキメラの魔獣たちと戦った。
互いに決まった数と内訳の手駒を出して、どちらかが全滅するまで争うような訓練である。
アリス自身が敵の魔獣に近づく機会はなかったので、別に危険なことはなにもなかった。
それでも二体ほど爆発して大いに驚いたが。
「あーあ、疲れた……」
そう言って、アリスは召喚獣を消した。
模擬戦はもう終わりである。
キメラの死体軍団にはあまり搦め手が通じず、かなり苦戦をしてしまった。
ため息を吐いたところで、そのキメラが歩み寄ってくる。
「お疲れ様です。ところで……その、影? いえ、召喚獣……とは、なんでしょうか?」
歩きながら、そんなことを聞いてきた。
何と言われてもアリスだって知らないので、適当に答えることにする。
「あー……。古代文明の兵器らしいですよ」
「なるほど……。古代文明…………古代文明?」
そんなの教科書に載ってない、というような顔でキメラが聞き返してきた。
アリスは何も答えず、ふふんと鼻を鳴らす。
模擬戦では負けが込んだが、架空の知識でマウントを取るのは気持ちがいい。
「まぁ知らないのは無理がありません。聖教国が誇る大聖堂の極秘研究ですからね」
するとキメラはすっかり信じてしまったようだ。
一応神官だったアリスが、大聖堂の研究と言ったせいだろう。
こんな、ノインでも信じないような嘘をありがたがって手を合わせ始める。
「ありがたきことです。ところでその……古代文明とは、どのようなものなのですか?」
「どのようなって……そりゃあ、なんか、船が空を飛んだりするんですよ」
「船が空を? それはもう船ではないのでは?」
船は海を渡るものだからだ。
ごもっともな指摘にたじろぎつつも、アリスはなんとか受け流す。
「空と海は古代人にとっては同じでした。その証拠に、雲海、という言葉は空をゆく古代人が生み出したものです」
「そうだったのですか……?」
調子づいて、驚愕するキメラに色々と教えてやる。
あまりにすらすらと嘘が出てくるので、我ながらドン引きしていた。
そこで背後からサティアが話しかけてくる。
「そしてあなたは……古代文明の末裔で、兵装を受け継いだ……最後の、プリンセスってわけ、よね?」
ぱちん、とウインクする。
なぜか乗ってきて、センスのない設定を生やされた。
アリスは急に恥ずかしくなって、生まれたばかりの古代文明を滅ぼすことにする。
「いや……こんなゴミみたいな文明あるわけがないでしょう」
「…………?」
キメラはひたすらに困惑した様子で、眉をひそめていた。
ちなみに、正確には歴史をたどれば古代文明はある。
しかしどれもそこまで発展せずに滅びていたようだ。
言わずもがな喪失期のせいである。
「サティア、少しいいか?」
と、そこでアッシュが話しかけてくる。
サティアが振り向いて、そのまま二人で相談し始めた。
「…………」
なんの話をしているのだろう、と思って聞き耳を立てる。
どうも彼は黒炎の運用でうまくいかない部分があり悩んでいるようだ。
「なるほど。あなたは、灰で、炎に質量を与えて……操ってるのね」
「そうだ。だが、今の運用だと十分な重さを付与できない」
彼は暴走を避けるため、一瞬で炎を出して消す。
また、短い間隔で火を使うことも避けていた。
だからこそ、質量を与えるための時間が足りずに困っている。
「炎より先に……灰を、用意することは、できないの?」
ややあってサティアがそんなことを聞いた。
アッシュは目を瞬かせて、少し考え込んだ後で頷いた。
「試してみたい。悪いが付き合ってもらえるか?」
「いいけど、また後で。とりあえず今は……ゴーストのところに、行ってよ」
「分かった」
そんな会話の後、アッシュはいずこかへと歩いていった。
ふと気になってサティアに聞いてみる。
「あの人、何をしに行ったんですか?」
「寄生解除の、訓練を……手伝いに行ったわ」
ノインやゴーストと一緒にするのだろう。
様子が気になったので、アリスも見てくることに決めた。
「休憩がてら、私も見てきますね」
「うん」
あっさりと許可が降りた。
別の訓練を申し付けられるかと思ったが、そんなことはなさそうだ。
アリスはぺこりと頭を下げて、アッシュの背中を追い始めた。
―――
アッシュと連れ立って庭の奥へと進む。
すると不自然に荒れ果てた一角へと行き着く。
その地面には芝や生垣はなく、地面がむき出しになっていた。
「あいかわらず、殺風景な場所ですね」
ぼそりとつぶやいた。
アッシュは軽く頷いたものの、黙ったままである。
「…………」
どうにも寂れた場所で、目につくのはぽつりと建てられた小さな小屋くらいだ。
ちなみに、この小屋は『火を放つこと』のルールを破るための場所だと予想されている。
ゴーストはここで、訓練の合間にミケリセンが寄らぬよう見張っているのかもしれない。
「こんにちは〜」
アリスはゴーストたちを見つけて話しかけた。
今はノインと二人で組手をしているようで、返事が返ってこない。
「…………」
やはり無言のまま、アッシュが組手を見ている。
ノインは素手だが、血の刃で斬りつけたり、放ったりして攻撃を仕掛けている。
対してゴーストはそれを淡々とかわして、軽い手刀で反撃をするだけだ。
「……客が来た。ここまでだ」
そう言って、急にゴーストは動きを止めた。
勢い余ったノインが刃を振り下ろす。
が、それもするりと回避してしまった。
地面に叩きつけられて血液が散らばる。
でも特に土が削れたりはしていない。
組手の安全には配慮してあるようだ。
「あ……こんにちは……」
こちらに気がつくと、ノインは肩で息をしながら挨拶をした。
アッシュは軽く会釈を返して、ゴーストに話しかける。
「分かっているだろうが、この子は戦わない」
「そう聞いている。しかし、自衛もできない状態で放置すべきではない」
ノインのことだ。
さっきの血の術を使った戦法であっても、下位魔獣に多少対抗するくらいが限界である。
もう彼女は普通の少女でしかないのだから。
でもそれを知った上でゴーストは鍛えてくれていたようだ。
「…………」
アッシュはちらりとノインに目を向けて、頭を下げた。
「そういうことなら、心強い。ありがとう」
「ありがとう、ではない。お前はこの子に何も教えなかったのか?」
その声は少しだけ責めるような色を帯びていた。
アッシュはゴーストをまっすぐに見据えながら、ゆっくりと言葉を返す。
「対魔獣の基本戦術は教えた。あとは、彼女には文字を」
「なるほど。まぁ、それが間違いだとは思わない。……すまなかった」
なにやら和解したようだった。
話題が滑らかに寄生解除訓練へと移行する。
ゴーストが簡潔に説明をしてくれた。
「アッシュが拘束して、ノインは一定の距離を保ちつつ血を抜く。これを可能な限り円滑に行う」
具体的にどれくらいの距離を保つのか、などの説明がある。
ふむふむと頷きながらアリスは話を聞いていた。
でも最後に一つだけ尋ねる。
「そういえば、私は?」
「お前は……なにもない。なぜ来たんだ?」
言われて、自分は見学だったと思い出す。
曖昧に笑って誤魔化しておく。
「あ、見物です」
「なるほど」
そうして訓練が始まる運びになった。
アッシュとノインが配置につく。
ゴーストがポーチから瓶詰めの寄生体を取り出した。
「これ、なにに寄生させるんです?」
アリスは聞いた。
ゴーストが答える。
「そこの魔獣だ」
そこでアッシュが歩み寄ってくる。
左手で、鋼線で縛り上げたワーウルフを引きずりながら。
それを見て、アリスは気圧されつつも質問をする。
「これ、死んでるじゃないですか」
つまり、引きずられている魔獣は頭が半分潰れていたのだ。
まさかこんな死んだ魔獣に寄生するとは思えなかった。
しかしアッシュはゆっくりと首を横に振る。
「死んでいるが、キメラの魔術で動かしている。まだ体も固まってない。案外騙されるんじゃないか?」
寄生体が、という意味だ。
脳を奪えない状態を作るため、このような設定で試しているのだろうが。
アリスはグロテスクな光景に眉をひそめる他なかった。
「始めるぞ。離れておけ」
彼はそう言ってポーチから瓶を取り出す。
中には生白い蟲の寄生体が閉じ込められている。
そのまま瓶の蓋を外したので、アリスは急いで退避をした。
中身を解放すると、ほどなくして縛られたワーウルフがもがき始める。
「おお……」
アリスは目を瞬かせる。
固唾を呑んで見守っていると、寄生魔獣はみるみる姿を変えていく。
すぐに拘束を引きちぎった。
そして、驚く間もなくアッシュに襲いかかる。
「…………」
彼はそれを完全にいなしている。
脳がないせいか動きは粗雑なものだったが。
何度も何度も叩きつけられる爪を、淡々と受けては流している。
「ノイン、準備を」
そう言って、アッシュは剣を振り寄生魔獣の体を引き裂く。
続いて剣を捨てたかと思うと、素早く懐に入って組打ちを仕掛けた。
瞬く間に手足を粉々にして……完全に制圧したところでノインが駆け寄ってきた。
「…………」
そして、先ほどアッシュが斬った部分から血を抜いていく。
だが血を奪ったあともまだ魔術を使っているらしい。
きつく唇を引き結んで、ノインは真剣な表情で寄生された魔獣を睨んでいた。
「これは何をしてるんですか?」
疑問に思ってゴーストに問いかけた。
血を抜くだけだと思っていたのに、随分長く魔術を使っているから。
「血流を操作している。必要な場所にだけ血を巡らせ、そうでない場所には流さないように」
「なるほど」
返ってきた答えに頷く。
確かに、言われてみればそうである。
いくら頭などに血を残しても、血流が止まれば死んでしまう。
「でも、大変だったでしょう?」
そう尋ねるとゴーストは肯定した。
深く頷いてみせる。
どうも想像の通りかなり大変であったらしい。
「そうだな。血流の操作には特に、長い時間がかかった」
「よくやりましたね、ノインちゃんは」
なんて言っていると、その内に寄生体が飛び出てくる。
近くにいる存在……つまりアッシュに狙いを定めたようだ。
勢いよく飛びかかるも、あえなく空中で掴み取りされてしまった。
「……おや、寄生させる必要もありませんでしたね」
事前の話では、アッシュの体に移動させるということだったはずだ。
でもその必要もなく生け捕りにしてしまった。
別にわざわざ寄生させるつもりはなく、もし失敗して寄生されても保険がある、というくらいの考えなのだろう。
アリスはそれに少しだけ安堵した。
と、考えているとアッシュがノインに声をかけた。
「こちらで状態を確認する。君は少し休憩していい」
「はい、お願いします」
ノインが頭を下げた。
彼はそのまま寄生されていた魔獣を調べ始める。
この方法で寄生体を抜いた場合、どんな状態になるかを見ているのだろう。
「どうですか? 安全そうです?」
と、尋ねつつアッシュに近づく。
手元を覗き込もうとしたが、無言でやんわりと押し返されてしまった。
「なんです」
「…………」
やはり何も答えない。
しかしなにか理由があるのだろう、と考えて引き下がった。
すると彼はようやく口を開く。
「損傷は最低限だった。脊椎に巣食っているようだが、この抜け方なら死ぬことはない」
「そうですか。よかったです」
アリスは答えて見学を続ける。
何度か同じような訓練が繰り返された。
しかし集中力の問題か、回数を重ねるほどに血液操作が上手くはいかなくなってくる。
それでも他の二人と言葉を交わしながら、アドバイスを受けて頑張っているようだった。
「…………」
アリスはそれを黙って見ていた。
シドを捕獲する時、役に立ちそうな影を試したりしながら。
―――
こうして一日目が終わりを迎えた。
アッシュはアリスのもとで魔物の抑制処置を受けている。
彼は寄生解除訓練の後もサティアと右腕の訓練をしていたので、それなりに自我が摩耗した様子だ。
「……あなた、本当はかなり限界なんじゃないですか」
拠点の庭園の一角で、二人で座り込んでそう聞いた。
アッシュは焦点が合わない目でぼんやりと虚空を見ていたが、やがてゆっくりとアリスに視線を向ける。
「今日は右腕を使いすぎた。危うく見えるのなら、そのせいだ」
「今日とかそういう問題ではなく。せめて、一日くらい休むべきじゃないですか?」
そう言うとアッシュはだんまりになる。
しばらくなにかを考えていたようだ。
じろりと睨みながら答えを待っていると、やがて彼は口を開く。
「分かった。なら、お前が判断してくれ」
「え?」
「お前が、もう無理だと思ったら止めてほしい。その時に休む」
返ってきた答えに驚いて目を瞬かせた。
どうせまた大丈夫とか問題ないとか言うと思ったのだ。
でも思いがけず信頼されているような答えをもらえて、アリスは少し気を良くする。
「はい。あなたは加減知らずなので、私が見守っていてあげますね」
すると彼は頭を下げた。
だからいい気分で処置を続ける。
自分の感応能力を強化して、アッシュの精神に干渉するような処置だ。
こうして彼の精神に混じる不純物……つまり、魔物の侵食を押さえつけていく。
アリスは機嫌が良かったので、いつもより念入りにやってやることにした。
特に右腕の器官は厄ネタなので徹底的にだ。
そして、その最中にふと気づいたことがあった。
「あの。あなたの、右腕に……なにかいるような気がします」
魔物の侵食の中に、別の意識を感じるのだ。
声もなく、眠っているようだが……一瞬だけ小さな気配を感じ取った。
「なにか?」
アッシュが聞き返してくる。
その表情は、少しだけ張り詰めているように見えた。
「もしかすると誰か、かもしれません。でも……よく分かりませんでした。心当たりはありますか?」
と、聞いてから気がつく。
もしかしたら元の右腕の持ち主かもしれないと。
本当にそうなら聞かない方がよかっただろう。
でも、肉体の一部に意識が残ることがあるなんて……アリスには想像もつかない話だった。
「心当たりはある」
しばしの沈黙を経てそう答えた。
まずいことを聞いたかと思いながらも、もう少し探りを入れてみる。
「……腕のこと、ですかね?」
「それだけじゃない。俺は、人の魂を取り込んできた」
ということだった。
肉体を移植した上に、魂まで取り込んでいるならこんなことだってあるのかもしれない。
「…………」
だが彼はもうなにかを言おうとはしなかった。
半ば呆然としたような表情で、小さな呟きを漏らした。
「……ウォルター」
そしてその声を聞いていた者がいた。
「ウォルター? とは?」
キメラだった。
アッシュの後ろに立っていて、ひとりごとを聞いていたのだ。
「すみません。私、封印をしようと思って来たのですが……先に今の話を伺ってもいいですか?」
そう言って、彼女はアッシュのことをじっと見つめていた。
言い逃れや嘘は許さないという固い意志を感じる。
「あなたの事情は聞き及んでいます。誰の魂を取り込もうが詮索はいたしません。しかし、私は……その名前に縁がありまして」
アッシュは何も答えない。
キメラだけが一方的に話している。
そして彼女は杖を置いた。
膝を折って、アッシュに目線を合わせて瞳を覗き込む。
そのままさらに言葉を重ねた。
「まず。ウォルターという人物を、あなたは殺したのですか?」
恐ろしいほどの無表情である。
瞬きすらせずに、食い入るように見つめながらの言葉だ。
なんだか怖くなって、二人の間からそれとなく離れる。
アッシュは怯んだ様子もなく答えた。
「そうだ」
「……その方の姓を聞かせてください」
「ラインハルト。ウォルター=ラインハルトだ」
キメラの瞳の、瞳孔が開いた気がした。
激情に駆られてか、痙攣のように右手が跳ねる。
しかし掴みかかりはしなかった。
そのまま、彼女はいくつかの問いを重ねた。
アリスは固唾を呑んで成り行きを見守る。
「…………」
質問は見た目や年齢、出身地や家族構成に関してだ。
そして生き別れた姉を探していた……と、そこまで聞いて確信を得たようだ。
キメラは震える手で杖を握る。
そして、その杖を振り抜いてアッシュの頭部を強打した。
「な、なにを……」
アリスは立って、キメラをきっと睨みつける。
けれど構う様子はない。
完全に無視をして、倒れ込んだアッシュを無言で殴り続けている。
しかも頭ばかりを。
流石に看過できないと思って、なんとか止めようとアリスは自分の杖を握る。
「……俺を殺すのか?」
でも、その前にアッシュが口を開いた。
彼は抵抗もせずに、どうでもよさそうな顔で仰向けに倒れている。
顔が血まみれだったが、それも気にしていないように見える。
ようやく、キメラが手を止めた。
「ウォルターは、私の弟です。あなたには、弟のために死んでもらう必要がある」
キメラは底知れぬ憎悪と共に、そんな言葉を言い放つ。
そしてこれが理由だった。
アッシュを殺そうとする明確な動機だ。
「…………」
こうまで悪意に満ちた運命があっていいのか、とアリスは思う。
彼は絶対に望んで魂を奪ったりはしなかったはずだ。
なのに過去は決して、アッシュを逃しはしない。
止めにも入れず呆然としていると、彼は皮肉げに鼻を鳴らした。
「なるほど。そういう縁か。……よりによって、君が」
一瞬だけ瞳を伏せて、やがてアッシュはキメラをまっすぐに見据える。
小馬鹿にしたような表情だった。
「キメラ、あいつのことは……仕方がなかった」
そして、そんな言葉を口にした。
アリスは耳を疑う。
自分が殺した相手に対して、仕方がなかった……なんてことを言う人ではない。
「お前、何を言っている?」
狼狽と憎悪がないまぜになった表情でキメラが問う。
アッシュはやはり、馬鹿にしたような顔で答えた。
「ウォルターは神の教えを否定した。だから殺すしかなかった」
あまりにも、悪趣味な嘘だった。
アリスは目を見張る。
どんなつもりでこんなことを言っているのかが分からない。
「アッシュさん……!」
言葉にできない思いを込めて呼びかけた。
彼は一瞬だけアリスに目を向けたが、すぐにキメラへ視線を戻す。
その彼女は怒りに打ち震えていた。
「……お前」
低く抑えた声で呼びかけた。
しかしこらえきれなかったのか、全ての憎悪をぶちまけるような声でアッシュを怒鳴りつける。
「そ、そんな……そんな、ふざけた理由でっ……!!」
「ふざけた? ……心外だ。だって、君は」
彼は何かを言いかけたが、また杖で殴られた。
鈍い音がしてアッシュは倒れる。
一切の躊躇なくさらに杖が振るわれる。
しかしその杖は止められた。
他ならぬアッシュの手で。
そして、彼はゆっくりと言葉を重ねた。
「…………君は、同じ理由で何百人も殺した」
小馬鹿にしたような表情は鳴りを潜めていた。
ぞっとするような冷たい目でキメラを見据えて、淡々と、刺すような声で問いを投げかける。
「これが下らないなら、なぜ君はやめなかった? 人を殺してまで布教したかったか? それで誰が幸せになった? それに、お前も神のために殺したなら、なぜ俺に報復を望む?」
キメラが目を見開く。
これまで見過ごしていた、致命的な何かに気がついたように。
弾かれたように杖から手を離した。
そのまま三歩後ずさる。
彼女は、心の底から怯えきった目をしていた。
「…………!」
逃げるような反応を見せたキメラに対し、一切の容赦なくアッシュは核心を口にする。
「……おい。お前、まさか自分に復讐する資格があると思っているのか、キメラ?」




