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この世界  作者: 御影 零
~運命の始まり~

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第24章  つなぎめ

 極夜(キョクヤ)は自分を抑えようと必死だった。今すぐ人間の中に入りたい。入って人間の闇を広げてやりたい。そして人間が憎しみや嫉妬を抱き、悶え苦しむ姿が見たい。そんな感情が洪水のように自分に押し寄せてくる。しかし、極夜は自分を見失わないように必死に抑え込もうとしていた。今回は縁の教育だ。自分の為ではない。落ち着け、落ち着くんだ。そう自分に言い聞かせていた。


 縁(ヨスガ)は極夜を見て恐ろしいと思った。どうしてかわからないが、どうしても恐ろしかった。しかし、極夜が自分を抑えようとしているのはわかった。自分を抑えようとしている極夜を見ているうちに、段々と恐ろしさが薄らいでいき、自分を抑えようと必死な極夜のことが心配になってきた。


「ねぇ、極夜。大丈夫?」


そう言って、縁はふり払われるかなと思いながら極夜の腕にそっと触れた。


 極夜は触れられた事に気づき縁を見ると、とても心配そうに自分を見つめていた。この顔を見て、極夜は少し自分が落ち着きを取り戻せたような気がした。


「なんだ、大丈夫だ。心配するな。」


極夜はそう言うとゆっくりと深く深呼吸をした。


「さぁ、始めるか。」


 極夜はそう言うと、建物のへりに腰かけ、縁を隣に座らせた。縁はもう恐れを感じていなかった。縁自身も何に恐れを感じたのかはわからなかった。しかし、いつもの極夜に戻ったことに安心し、すぐに極夜の隣に座った。


「縁、音波に人間界のことは教えてもらったと思うが、聞くと見るのとでは全然違うはずだ。まず、今は明るいだろう?これが昼だ。しかし、もう少ししたら暗くなり夜になる。」

「うん!教えてもらったよ。ほとんどの人間は昼は起きていて、夜には寝るんでしょ?」

「そうだ。悪魔にとっての昼は好みの人間を探す時間だ。そして、人間は夜になるとそれぞれの家に帰る。悪魔の部屋のようなものだな。そこに帰ると人間は無防備になるから、悪魔が最初に接触するのは一番入り込みやすい時、人間が家に帰ってからだ。」

「うん、わかった。それよりさ、極夜。人間から出てる黒いのは何?」

「あれが、人間の闇だ。人間には見えていないがな。それぞれ出ている量が違うだろう?」

「うん。皆それぞれ体から出ている太さも濃さも違うよ。」

「前に音波が、小悪魔を使う以外にも人間の闇を探す方法があると言ったろ?それがあれだ。あの人間から出ている闇の太さや濃さで好みを探す。」

「そうなんだぁ。」


 縁はその闇の先を見ようと上を見上げていた。それぞれの人間からにじみ出た闇は煙のように立ち上り、やがてそれは上空でそれぞれの闇の煙が紡がれるように一つの大きな煙となり、魔界からきた時に通ったつなぎめに吸い寄せられるように入って行っていた。


 上を向いている縁を見て、極夜も魔界と人間界のつなぎめを見ながら言った。


「あのつなぎめは大小の違いはあるが、人間界のそこら中にある。人間から出た闇はあそこを通って魔界にいき、魔羅様の力になるんだ。ちなみに、悪魔が魔界に帰る時は人間界にあるどのつなぎめからでも帰ることができる。」

「じゃあ、ここからどんなに離れても、帰ろうと思った時に近くにあるつなぎめから帰れるんだね。」

「あぁ、そうだ。出るときは魔羅様の決めたところからしか出られないが、帰るのはどのつなぎめから帰ろうと自由だ。」

「でもさぁ、この場所だけでこんなにいっぱい闇があるよ?わざわざ悪魔が囁かなくても人間は闇に染まってるよ。」

「なに言ってんだ。音波だったら、少しでも多くの闇を魔羅様にって言うんだろうが、俺は違う。悪魔は何の為にいると思う?人間を苦しめて苦しめて苦しめぬく為にいる。人間は悪魔が快楽を満たすためだけに存在してるんだ。」

「ん~、そっかぁ。僕も魔空を使えたら極夜の話少しはわかるようになるのかな。」

「まぁ、どうだろうな。じゃあ、とりあえず、小悪魔を飛ばすか。まずは人間を選ばなきゃな。」


そういうと極夜は魔笛(マテキ)を使い小悪魔に命令した。


《嫉妬を抱いている人間を探して来い》


すると、小悪魔たちはいっせいに各方向に飛んで行った。


「なんて命令したの?」縁が聞いた。

「嫉妬を抱いている人間を探しに行かせたのさ。」


極夜は少しため息交じりに答えた。


「小悪魔には人の闇の大きさで命令するんじゃないの?前に音波が、心がもう少しで染まりきる人間って命令しろって言ってたよ。」

「それは悪魔それぞれだ。縁はまだ闇に対する執着がないからな。どんな闇と命令するより、闇の大きさで小悪魔に命令する方がいいってだけだ。まあ、どっちかしかないだろうな。小悪魔に闇の大きさを命令して、見つけてきた人間の中から好みの闇を探すか、先に自分の好みを命令して、その中から闇の大きさで人間を決めるか。」

「ふ~ん。色々あるんだねぇ。極夜は嫉妬の闇が好きなの?」


縁が興味津々に聞いた。その顔を横目で見ながら極夜が答えた。


「まぁ、その時の気分だな。それに俺には好みはない。もともと小悪魔は使わないしな。闇があまり出ていない人間を見つけたらもうそいつに決めるだけだ。」

「そっか。そういえば前にも言ってたもんね。僕に教えるために極夜色々考えてるんだね。」


縁は嬉しそうに極夜を見ながら言ったが、極夜は目を合わせなかった。


「それより、なんで小悪魔連れてきた?」


極夜が縁の横を飛んでいる小悪魔を見ながら言った。

すると縁は落ち込んだ顔をして答えた。


「だって、僕にできるのこれだけなんだもん。」

「だからってわざわざ連れてきたのか?」

「無駄な体力を使うのはわかってるもん!でも、魔空(マクウ)も最後までできなかったし、唯一できること人間界でしたかったんだもん。」


極夜は、これ以上言ったらまた怒るなと思い魔空の事には触れなかった。


「せっかく連れてきたんなら、使ってみたらどうだ?」

「使うって、何に使うのさ!闇を探すのは極夜ので充分でしょ!」


縁は少しふてくされながら言った。


「じゃあ、音波でも探してこいって命令してみろよ。」

「そんなことに使ってもいいの?」


縁の目が輝いた。


「お前の小悪魔だ。好きに使え。」

「わかった!」


そういうと縁は魔笛を出し、小悪魔に命令した。するとすぐに縁の側を離れて飛んで行った。


「楽しみだなぁ!音波どこにいるんだろうな。」


わくわくして返事を待っていると、命令してから5分ほどで頭の中に声が聞こえた。


《見つけた》


「極夜!見つけたって聞こえたよ!でもどこにいるとは教えてくれないや。」

「じゃあ、小悪魔のいるところを探せ。自分の小悪魔がどこにいるのか目を閉じて探してみろ。すぐわかるはずだ。」


そう言われた縁は目を閉じ自分の小悪魔を探した。するとすぐにわかった。


「わかった!そんなに離れてないよ!」

「じゃあ、音波の目の前を飛び続けろって命令しろよ。」


極夜は意地悪く笑いながら言った。


「いやだよ。さっき音波、恐かったもん。」


縁はさっきの今まで見たことがない音波の顔を思い出しながら言った。


「もうずいぶん時間も経ったし、だいぶ落ち着いてるんじゃないか。いいから、やってみろよ。」


極夜に言われ、縁は緊張しながらも小悪魔に命令した。


《音波の目の前を飛び続けろ》


「命令したけどさ、実際にその場所は見れないんだから今どういう状態なのかわかんないよ。」

「想像してみろよ。きっと驚いてるぞ。」


すると、縁の頭に音波からの魔笛が響いた。


《縁、この小悪魔をどけてくれないかな。前が見えなくてね》


「音波だ!魔笛で話しかけてきた!」


《ごめんね。すぐどけるよ》


縁も魔笛で返事をした。そして小悪魔を自分のところへ戻した。


《きっと、極夜に言われたんだろう。仲良くしているみたいで安心したよ》


《うん。極夜、今は優しいよ》


《そうか。何かあったらすぐに知らせるんだよ》


《わかった》


「ふ~、魔笛で話すのって楽しいね!音波、極夜と仲良くしてるみたいで安心したって!」


縁は、音波がいつもの音波に戻ったと思い、嬉しかった。


「そうか。」


 そう言うと、極夜は両手をつき、空を見上げた。極夜の頭の中には小悪魔たちからの返事が鳴り響いていた。しかし、極夜はまだ動くつもりはなかった。


 教えるのってこんなに大変なんだな。もう疲れてきた。音波が絶対に人間界では縁の教育をしろって言ったのはこういうことか。人間のことなんて考える暇もない。


 普段からあまり話さない極夜にとって、ずっと話し続けるのはとても疲れることだった。

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