第23章 人間界
極夜が起きてから半日が過ぎたころに音波も目覚めた。
「ずいぶん寝たなぁ。」
起きながら音波が伸びをした。
「お前にしては長かったな。」
極夜は自分の台に寝ながら音波に声をかけた。
「あぁ。前に寝てからたった3か月しか経ってないのにな。そうだ、極夜。縁が目を覚ます前にもう一度言っておくが、自分の力をきちんとコントロールするんだぞ。お前の為にも、縁の為にもな。」
音波は真剣な眼差しだった。それを見た極夜は自分自身に言い聞かせるように答えた。
「あぁ。わかってる。大丈夫だ。俺は大丈夫。」
音波は安心したという表情になり、ゆっくりうなずいた。
それから、丸一日経ち、縁も目覚めた。
「よし、縁も起きたな。ほら、しっかりしろ!もう人間界に行くぞ!」
音波が縁の台の前に立ち、声をかけた。縁はしばらくボーっとしていたが、ハッと起き上がり極夜の前に立ち言った。
「極夜!人間界ではよろしくね!できるだけ、怒らないでね。」
縁によろしくなんて言われると思っていなかった極夜は驚いたが、少し嬉しかった。
「怒るかどうかは縁しだいだ。俺は音波みたいに優しくはない。わかったな。」
しかし、そんな素振りは一切見せず極夜は答えた。
「さぁ、外に出るぞ。まずは魔界の中がどうなっているかわからないが、何を言われても気にせず、とにかく俺の後ろをついてこい。」
そう言いながら極夜は部屋の出口に近づいた。音波と縁はうなずいて極夜の後ろに立った。極夜が手をかざすと、裂けるように壁が動き3か月ぶりの外が見えた。まずは、極夜、続いて音波、最後に縁が外に出た。
極夜も音波もすぐに取り囲まれると思っていた。しかし、悪魔は誰一人として近づいては来なかった。皆、ただ遠くから極夜達を見ているだけだったのだ。
「おい、なんだこいつら。広場であんな騒ぎがあったのに誰も近づいてこないぞ。」
極夜が言った。
「あぁ、なんか不気味だな。まぁいい。早く広場に行こう。小悪魔を連れて行かなくてはいけないからな。」
音波がそう言うと、極夜達はすぐに飛び、広場の穴に向かった。しかし、広場に着いてからも悪魔たちの態度は同じだった。こそこそと極夜達を見て話はしているが、誰も近づいてはこない。そんな中、ただ一人まったく極夜達を見ず、下を向き青白い顔をしている悪魔がいた。百鬼だった。しかし、その様子に気づいたのは音波だけだった。
誰にも邪魔されることなく、すんなり小悪魔の部屋に入った極夜達は中に誰もいないことを確認してから話し出した。
「本当に何なんだあいつら。」極夜が言った。
「なんか、百鬼様の様子が変だったが。」
音波は百鬼の様子が気になり極夜に言った。
「そんなの知るか。よし、さっさと行こうぜ。」
極夜はそう言うと魔笛を出し、小悪魔を100匹呼んだ。縁の教育に使うかもしれないと多めに連れて行くことは前から決めていた。音波はまだ百鬼の事が気になったが、魔笛を出し小悪魔を30匹呼んだ。そして、縁も自分のところへ1匹呼んでいた。魔空を使えない以上、連れて行ってもしょうがないから、体力を温存するためにも連れて行くのはやめようと音波に言われたが、頑として縁は聞かなかった。
「極夜、そんなに連れて行って何に使うんだ?」
音波は、極夜があまりにも沢山小悪魔を呼んだのを見て驚き聞いた。
「何に使うかは決めてないけど、まぁ、念のため。」
極夜はそっけなく答えた。しかし、音波は極夜の力を改めてすごいと思った。
「ねぇ、早く行こうよ。」
縁は待ちきれないとばかりに極夜の手を引っ張った。
「じゃあ、行くか。」
極夜はそう言うと小悪魔の部屋の外に出て、音波と縁の腕を掴み、広場の壁に向かって飛んだ。魔界の壁はすべてが出口であり、入口でもある。魔界があるのは闇の中。その闇の中から見ると、人間界の光が見える。そして、ひたすら光が見える方に飛ぶ。光の中に入ると、そこは人間界。光と闇が渦巻く世界。
人間界に着くとまだ昼で、場所は大都市だった。極夜はビルの屋上に降り立ち、音波と縁の腕を放した。魔界と人間界のつなぎめはとても大きい。同時に人間界の光を目指して飛んだとしても、出る場所は大都市の端と端に降り立つというのも珍しくはない。なので離れたくない相手と人間界に行く時は、どちらかが腕を掴み光に向かって飛ぶのだ。
初めて見る人間界に縁は興奮し目を輝かせていた。
「なにこれ!でっかい建物に、数えきれない程の人!悪魔も沢山いると思ってたけど、そんなのなんて比じゃないね!悪魔が少ないくらいだ。」
縁の目は輝いていた。
「まぁな。ここだけでもこれだけいるが、こういう場所がまだまだ何百とあるんだ。それに今は悪魔の数は少ないからな。私が生まれた時は3000以上はいたぞ。」音波が言った。
「えっ?そんなにいたの?何で今は少ないんだろうね。」
「これは魔羅様のお考え一つだからな。さて、そろそろ行くか。」
そう言う音波の顔はもういつもの音波ではなかった。優しい顔つきなど想像することもできないほど恐ろしく、そして、飢えているように人間を見て笑っていた。極夜はそれ以上に興奮しきっていて、今にも人間に飛びかかり食い殺そうとしているような気さえさせる。この2人を見て縁はとても恐ろしかった。
「極夜、私はここからあまり離れないようにするからな。お前もあまり離れるなよ。」
音波は自分を抑えられないように言った。
「あぁ、わかってる。わかってるさ。」
極夜がそう言うと音波は返事もなくその場を離れた。
縁は何も言えず、極夜が話し出すのを待っていた。極夜は興奮で震える体を抑え込むことに集中していた。それから少し経ち、やっと極夜が口を開いた。
「少し落ち着いてきたな。」
極夜は体の震えは収まったが興奮はまだ収まってはいなかった。
「ねぇ、極夜、音波がいつもと違ったよ・・・。」
縁は極夜の表情より、音波の変貌ぶりのほうがショックだった。
「あぁ、音波は何年も魔界にいたからな。久しぶりの人間界でどうにも興奮が収まらなかったんだろう。こればっかりはしょうがない。人間界にきた瞬間の興奮の高まりはどうやったって止められないもんだ。お前もわかるようになる。音波もそのうち元に戻るさ。」
極夜はそう言ったが、縁はただただ恐ろしかった。




