妹の想いと兄の矜持
再びアナザーゲートをくぐり東京都港区にある自宅へと帰る
こちらの世界は朝の六時、春とは言えまだ少し肌寒い。明るく成り切れていない空の中で自宅へと帰る俺達。
ただいつもと違うのは家族が一人増えたという事だ。
「さあエミリ、これがこちらの世界でのわが家だ‼」
父さんが嬉しそうに自宅を紹介するが、エミリはまだ実感がわかない様であった。
玄関から中に入り、不思議そうに周りをキョロキョロと見渡していた。
「こっちの家は随分と狭いのね」
「まあそう言うな。港区とはいえここは東京だからな、地価は高いし固定資産税は高いし、それに……」
父さんは饒舌に説明しているがエミリにはイマイチピンと来ていない様子だった。
「いや、父さん、そんな事をエミリに言っても……」
「そうか、そうだったな、ハハハハハ」
何故かハイテンションな父さん。昨日の酒がまだ抜け切れていないのだろうか?
そんな事を考えていると、母さんが俺の耳元で囁いた。
「嬉しいのよ。家族四人そろって暮らせるのがあの人の夢だったみたいよ」
そういう事か。これまでの言動で親としての自覚があるのか?と思ったが、やはり父さんも父親なのだな……
「だから正樹ちゃん、エミリちゃんをよろしく頼むわね」
そうだ、今日から一緒に学校に通うのだ。妹の面倒を見るのは兄の三大義務だったはず。
しかも今時刻は六時三十分、もうそれ程時間がない。急いで学校へ行く支度をしないと。
「エミリの部屋は二階にある正樹の隣だ。学校の制服などの着替えや必要な品は揃えてあるから問題ないはずだ
わからないことがあったら正樹に聞いてくれ」
俺はエミリを連れて階段を上がり二階の部屋へと案内した。
俺の隣の部屋は元々空き部屋になっていて物置の様に使われていたのだが今ではすっかり女の子らしい部屋となっていた。
ちょっと少女趣味なのは母さんがコーディネイトしたせいだろう。
エミリが来る事を想定していつの間にか用意していたようだ。全然気がつかなかったが……
「あまり時間がない、早く着替えて学校に行くぞ。部屋の外で待っているからな」
「うん、わかった……」
エミリからは力のない返事が返って来た。何か思うところもあるのだろうが俺にはどうする事も出来ない。
そもそも今まで一人っ子として育った俺には妹との距離感などサッパリわからないのだ。
弟ならば純平で何となくわかるのだが……
俺も自室でさっさと着替えを済ませ部屋の外で待っていたが、エミリは一向に出てこない。
外から声を掛けても返事はなく、しびれを切らせた俺はドアを開けエミリの部屋の中に入った。
「何をやっているのだ、もう時間が……」
エミリはまだ着替えてはいなかった、下着姿のまま壁にかかっている制服をジッと見つめていたのである。
「あっ、ゴメン、着替え中だったか⁉」
俺は慌ててエミリに対して背中を向け、謝罪した。
「何で謝るの?」
「いや、何で?って……その着替え中に入って来てしまったから……」
「別にいいよ、裸を見られたわけじゃないし」
「いや、良くは無いだろう?兄弟とはいえ一応年頃の女の子なのだし」
「こっちの世界ではそういうモノなの?私、パパの前でも普通に着替えるし、パパも何も言わなかったから……」
おい父さん、それは問題だろう。
「いやその……中々出てこなかったから、つい……制服の着方がわからなかったか?」
するとエミリはゆっくりと首を振った。
「そういう訳じゃないわ、何かどうしても現実感が無くて……
この私の部屋を見て気づいたけれど、なるべく私の好みにしようという意志が見てとれる。
ちょっと子供っぽい所はママの趣味よね。
私はこの現状に戸惑っているのだけれど、パパもママも嬉しそうだし……」
そうかエミリも父さんと母さんの娘として十六年生きて来たのだ、二人の性格も当然よく知っている訳だ。
「こっちでのパパとママはどんな感じなの?」
「多分エミリの想像通りだ、父さんは剣を握らせるとカッコいいけれど
普段は空気読まないし無神経だし行き当たりばったりの性格だ。
母さんは天然で少女趣味、そしてのんびり屋、いつも俺が突っ込み続けているよ」
それを聞いたエミリはクスリと笑った。
「やっぱりこっちでもそうなの?私も一緒、いつも私がパパとママにお説教している……
やっぱりこれってやっぱり現実なのね……」
エミリは寂しそうに顔を伏せた。
「まだ、二つの世界の事や俺の事を飲み込めないか?」
「ううん、そうじゃない、それは理解したわ。どういう事かはまだ分からないけれどそういうモノだと自分に納得させた。無理矢理だけどね、でも……」
「剣士の件か?」
「うん、パパはね普段は私には甘々なの。私がパパに怒ってもパパに怒られた事なんてほとんどない。
私がお願いすれば大概の事はOKしてくれるわ。でも剣士になる事だけは反対された。
あのパパがどんなに頼んでも譲らなかった、そしてあの模擬戦で力の差を思い知ったわ……」
「何かゴメン」
「謝らないでよ、余計にこっちが惨めになるじゃない。こちらの世界では女性を甘やかす習慣でもあるの?」
「いや、そんなモノは無いけれど……」
「ごめんなさい、貴方に当たってしまって。でも子供の頃からパパの様な剣士になりたくて
毎日毎日剣を振って、でもいきなりその夢が絶たれて、これから何を目標に生きて行けばいいのかわからなくなって……」
エミリは寂しそうに語ると再び壁にかけてある制服に視線を向けた。
「この制服を着てこちらの世界の学校に通って、そこに何があるの?
そして私はいったい何者なの?そんな事を考えていたら……」
そうだよな。子供の頃からの夢を絶たれて
異世界へ連れてこられていきなり文化の違う学校に行けと言われても〈はいそうですか〉とはいかないよな。
しっかりしている感じの子だがまだ十六歳、多感な時期の女の子なのだ。
「今日は休むか?父さんと母さんには俺から言っておいてやるが」
「ううん、いい、先延ばしにしても別に変る訳じゃないし行くわ。変なこと言ってごめん」
「謝るな、エミリの剣は本当に凄かった、エミリがどれほど強い意志で剣を握っているか受けた者だからわかる
だからお前の思いは俺が一緒に持っていく。剣聖の血を引く者として立派に務めを果たしてやる。
だから泣くな、何かあったら俺に言え、全部俺が何とかしてやる」
「何よ、それ?大言壮語も甚だしいわね。やっぱりこっちの世界の男って女に甘いのね」
「誰にでもそういう訳じゃない、俺はエミリのお兄ちゃんだからな
お兄ちゃんは妹を守るモノだとこの世界では太古の昔から決まっているのだ」
「それ本当なの?」
「ああ勿論だ、それがこの世界の常識だ。それより本当に時間がないから急いでくれ、部屋の外で待っているから……」
そそくさと部屋の外へと出て行こうとした時、不意に呼び止められる。
「ちょっと待って」
「何だ?」
「いや、その……私、まだ貴方の事を兄弟だと思えなくて、でも努力はしようと思うの。
だから、どう呼べばいいかな?」
「別に、好きに呼べばいいよ」
「この世界では一般的に兄の事をどう呼ぶの?兄上、お兄様、お兄ちゃん、兄貴、にいにい?」
思わず〈お兄ちゃん〉と口から出そうになったが、ここはグッと気持ちを抑え苦渋の思いで一般的なモノを選択した。
「兄貴……でいいのじゃないかな?」
「わかったわ、じゃあすぐに着替えていくから部屋の外で待っていて、兄貴」
こうして俺達は兄弟としての第一歩を踏み出す事になった。
エミリが〈兄貴〉と呼んだその言葉はまだまだぎこちなかったが気分は悪くない。
考えてみれば一夜にして可愛い妹が出来たのだ、俺は世界一の果報者かもしれないな。
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