結納のおでんパーティー
「どうだ、エミリは少し落ち着いたか?」
「ええ、自分の部屋で寝かせて来たわ。心を落ち着かせる魔法もかけておいたから
しばらくすれば起きてくると思うけれど……」
神妙な面持ちで娘を心配する父さんと母さん。
こんな時にこういう事をいうのはどうかと思うが、やはり娘と息子では扱いが全然違うと感じた。
俺はこの両親にこんなに気を使ってもらった覚えは一度もない。
まあ今回は事態が事態だけに俺と同じ繰りで語るのはどうかと思うが。
そんな時、俺のお腹が〈ぐう~〉という豪快な悲鳴を上げる
人間どんな時でもお腹は空くのだと改めて思い知らされた。
「そういえば正樹ちゃん、お腹ペコペコと言っていたわね、すっかり忘れていたわ」
「正樹……お前、妹があんな事になっているのに、飯とか……」
「仕方が無いだろう、精神的な心情と肉体的な欲求とは別モノだろう‼」
何かジゴロみたいなセリフを言ってみたが実際に腹ペコなのは事実である。
こちらでの食事というのも少し興味があるし、何より〈空腹は最大の調味料〉という言葉もある。
「もうすぐ父上も到着すると思いますから」
リサの言葉に俺はいきなり現実に引き戻された。
そういえばリサのお父さんのライトハルト伯爵がここに来るのだった。
父さんを見てもわかったが父親にとって娘というのはやはり特別らしい。
〈貴様の様などこの馬の骨か知れない奴にウチの娘はやれん‼〉と怒鳴られたらどうしよう?
いや、俺の方から〈娘さんをください〉と言った訳では無いですけどね
親同士が勝手に……そういう意味では向こう側も納得しているのか?
いやいや、国王陛下の命令でやむなく娘を差し出したというケースもある。
この中世ヨーロッパの様な世界観ならば寧ろそのパターンの方が有り得るだろう。
だったら俺は娘をさらっていく憎き男という事になるな……
何にしても食事どころじゃないのかもしれないな。一難去ってまた一難とか、どんだけ濃い一日だよ
せめて優しいお父様でありますように……
無神論者の俺は再び神に祈った。するとタイミングよく玄関から〈キンコーン〉という呼び鈴が聞こえてくる、来た‼
俺は緊張感で思わずガチガチになる。総理大臣に会った時でもこれ程緊張しなかったのに
まあアレは現実感が無さ過ぎてそれほど緊張しなかったというのが正直な所だが。
頭の中で〈初めまして、私が娘さんとお付き合いさせてもらっています東野正樹と申します、よろしくお願いします‼〉
という類の挨拶のシミュレーションを何度も繰り返しては修正していった。
正確にはお付き合いもしていないしそのつもりも無いのだが。
〈私の大事な娘とは付き合えないというのか⁉〉という謎の声が聞こえて来たので
とりあえずこう言っておこうか、という事なかれ主義の権化の様な言葉である。
だが実際のリサの父親の姿を見た時、全て頭から吹き飛んでしまった。
「やあ遅くなりまして」
玄関から申し訳なさげに入って来たその人を見て俺は思わず目を丸くし思わず立ち上がる。
「おじさん、田沼のオジさんじゃないか‼」
「やあ正樹くん、この度はウチの娘と婚約という事で、何ともめでたいね~」
この愛想のいい人は俺が子供の頃から可愛がってもらっている近所のオジさんで、田沼亮という
そう俺の後輩であるあの田沼純平の親父さんである。
「お父様、この人と知り合いですか?」
「ああ、正樹君は小さい頃からよく知っているよ。
リサの結婚相手としては申し分ないと思いこの話を聞いた時は二つ返事でお受けした。そうだよね、東野さん」
「ええ、これからは親戚付き合いですね。田沼さん」
そうだった、純平がウチの道場に通っていた頃から父さんと田沼のオジさんは仲が良かった。
当のリサは開いた口が塞がらないといった表情を浮かべている。
「田沼のオジさん、じゃあもしかして純平は……」
「ああ、リサの弟だよ」
あっけらかんと答えるオジさんだったが、今日は驚きすぎて感覚がマヒしてしまっているのか変に納得してしまう自分がいた。
世界の平和だの異世界だの、ここまで壮大な話を聞かされてきたが世間は思ったよりずっと狭い様だ。
もう何でもアリになって来たな……
その時、今まで頭の中で引っかかっていたある謎が解けた。
俺はリサを見た時どこかで会ったことがある気がしていたのだが今それがようやくわかったのだ。
リサは純平に似ているのだ。
よく見るとそっくりである、さすがは兄弟。美男美女の姉と弟という少女漫画の様な兄弟だ。
そう考えると何故か急に笑いが込み上げてきた。急に笑い始めた俺を不思議そうな顔で見つめる両親と田沼のオジさん。
頭がおかしくなったと思われたのだろうか?
しかしそんな俺とは対照的に頭を抱えこの世の終わりの様な表情を浮かべている人物がいた、もちろんリサである。
「私に弟がいるの⁉……何よ、それ……いきなり婚約者とか言われてただでさえ混乱しているのに
実は弟がいましたとか……意味不明にも程があるわよ……」
その気持ちは死ぬ程よくわかるぞ、リサ。
俺が十数分前に味わった感覚を今お前も味わっているのだな。
そんな悲壮感漂うリサの姿を見て俺は少し同情し、少し彼女に親近感がわいた。
「つもる話はお食事と一緒に話しましょう‼」
母さんが両手を合わせ嬉しそうに提案する。リサの心境を思うと飯どころではないと思うが……
とにもかくにもようやく夕飯にありつける様だ
腹はペコペコの飢餓状態で今なら固くなったパンだろうがしなびたサラダだろうがおいしくいただけるはずだ。
それから待つ事三分ほど。母さんはある見慣れた料理を持ってきた。
「みんなで食べるなら、やっぱり鍋よね?今日はおでんパーティーよ‼」
この西洋風の建物に中世ヨーロッパを思わせる世界観
その雰囲気に著しくそぐわない食べ物の代表格がこの〈おでん〉では無いだろうか?
特に今は春、季節感もガン無視という所がいかにも母さんらしいが……
「おっ、おでんですか⁉いいですね摩耶さん、熱燗で一杯とかやれると最高ですな」
「田沼さん、焼酎のいいのが入っていますよ。芋焼酎ですけれど、いけますよね?」
「芋焼酎大好きですよ‼ありがたくご相伴にあずかりますよ、はっはっは」
確か田沼のオジさんってこっちでは伯爵だったよな?
伯爵と剣聖が芋焼酎とおでんで上機嫌で語り合うとか、どこか間違っていないか?
せめてこっちの世界ならワインでも飲めや。
俺はため息をつきふと横を見るとリサはおでんに箸もつけず目は虚ろなまま呆けていた。
「弟……私に……婚約者と、ファントムと、弟と……夢よね、コレ?そうよ、夢に決まっているわ、目が覚めたらきっと……」
壮大な悪夢にうなされている様子のリサお嬢様。俺にできることは無さそうだ、ここはそっとしておいてやろう。
親達だけが異様に盛り上がる〈結納?〉が始まった。
ウチの両親と田沼のオジさんはやたらと上機嫌で昼間から随分と酒が進んでいる様子だ。
俺は無心でおでんを胃の中に放り込む、異世界だろうが日本だろうが腹ペコの状態で食べる食事は格別だ。
すると父さんが何かを思い出したかのように口を開いた。
「せっかく田沼さんが来ているのだ、エミリも呼んだらどうだ?」
「そうね。もう元気になっているかもしれないし、私呼んで来るわ」
そんな訳無いだろ、もう少しそっとしておいてやれよ‼
とツッコミたかったがもう疲れた。エミリには悪いがここは任せよう。
アイツも父さんと母さんの子供ならこの人達の空気の読
めなさをよく知っているはずだからな。
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