夢を砕く一撃
「じゃあ俺が審判を務める、剣は練習用の殺傷能力が低い物を用意する。
余程打ち所が悪くない限りは死ぬことは無いだろう。だから両者死なない程度に戦うように。
ここには優秀な魔法使いが二人もいるから即死でない限り回復魔法で治癒するからな、以上だ。何か質問は?」
「一つ聞いていいいかな父さん?」
俺はある疑問を聞くためにややワザとらしく挙手をした。
「何だ、正樹?」
「勝敗はどうやって決めるの?剣道みたいに三本先取とかでいいの?」
「いや、勝敗はどちらかが動けなくなるか、もしくは一方が負けを認めるまでだ」
何だ、その物騒な勝負は?おおよそ武道に身を置く人間の言動とは思えないが……
「どうした正樹、何か浮かない顔をしているが?」
「いや、その……妹云々は置いておいても、さすがに年下の女子相手にそこまでやるのはちょっと……」
エミリは俺の言葉が癇に障ったのか。俺をギロリと睨みつけ、厳しい口調で訴えかけてきた。
「何よ、それ?まさか私に勝てるつもりなの?馬鹿にしないでよ
パパの剣聖の名を継ぐのはこの私よ、アンタみたいなポッと出の人間に後れを取る程、私はヤワじゃないわ‼」
どうやら俺の発言が余程頭に来たらしい。それにしても凄く負けず嫌いというか、気が強いな。
とても俺の妹とは思えないし母さんとも全然似ていない。それだけ剣士になりたいという気持ちが強いという事か……
「父さん、この子……じゃなくてエミリはそんなに強いのか?」
俺の質問に普段は見せない少し困った顔を見せた父さん、へえ~こんな顔もするのだな……
「まあ俺が子供の頃から仕込んでいるし決して弱くはない。国王様の御前試合の大会ではベスト8に入るぐらいだしな」
「それって凄い事なのか?」
「まあそうだな、向こうの世界でいうならば〈全日本剣道選手権〉でベスト8に入るぐらいの強さ……という事になるな」
「おいおい、十六歳の女の子が〈全日本剣道選手権〉ベスト8に入ったら快挙なんてモノじゃないぜ、そんなに強いのか⁉」
驚愕の事実に動揺する俺。対照的にエミリは自信満々のドヤ顔を決め込んでいる。
確かにそこまで強いのに〈剣士になるのはダメ〉と言われれば反抗したくなる気持ちも少しわかる。
なぜならばそこまでになるのは一朝一夕でできる事では無いし、並々ならぬ努力と決意あっての事なのだろう。
兄としてはそんな妹の気持ちを汲んでやりたいが、それはすなわちエミリに負けるという事になる。
ただでさえナメられっぱなしのエミリにこれ以上馬鹿にされるのはちょっと勘弁して欲しい。
〈妹に馬鹿にされる兄〉というのも今時と言えば今時だが……
そんな事を考えている時、エミリは俺を威嚇する様に更に追い打ちをかけてきた。
「私は剣の腕を磨く為にモンスター退治の軍に加えてもらって幾度も実戦も積んできた。
騎士団でも私と互角に戦えるのは騎士団長と副団長ぐらいよ、貴方はどうなの、実戦経験は?」
いやいや日本に住んでいる一介の高校生に実戦経験とかある訳ないだろ。
「いや、実戦経験は一度もない……それどころか金属製の剣を持ったことも無い」
俺の言葉を聞いたエミリは失笑した。
「何よ、それ?それでよく剣士と名乗れるわね。正直拍子抜けだわ
そんなヘッポコに私が負ける訳ないじゃない、一分で終わらせてあげるわ」
益々勝ちを確信した様子の我が妹。どうしよう、本当に瞬殺される気がしてきたぞ?
そんな俺達のやり取りを見かねた父さんは大きくため息を吐いた後、口を挟んできた。
「強い弱いは戦えばわかる、剣士ならば口ではなく剣で語れ。
それでもう一度念を押しておくが、くれぐれも殺すなよ」
父さんの言葉にはそれなりに重みがあった。コレは俺に対して〈精々死ぬなよ〉というメッセージだろうか?
「大丈夫よ、ちゃんと手加減するわ、私だって初対面とはいえ〈兄殺し〉の汚名は御免だから」
もうすでに勝ったつもりでいるエミリは余裕綽々と言った態度である。
だがその後父さんの放った言葉でエミリの表情は一変する。
「エミリに言ったのではない、俺は正樹に言っているのだ。
初対面とはいえエミリはお前の妹だ、くどいようだが絶対に殺すなよ、ちゃんと手加減しろ、いいな」
「お、おう、わかったよ、父さん……」
エミリとは違い、どうやら父さんは俺の方が強いと確信している様だ。
しかし妹と戦う息子に向かって〈絶対に殺すな〉という発言もかなりおかしな部類の助言だとは思うが。
しかしそれを傍で聞かされたエミリは顔を真っ赤にして体を小刻みに震わせていた。
どうやら怒り心頭の様である。自分の力に自信がある者が完全に格下扱いをされたのだから無理も無い。
はてさてどうしたモノだろうか……
「何よ、それ……冗談じゃないわよ。私が負ける、こんな奴に?……有り得ないわ」
おいおい、勘弁してくれよ、これじゃあ俺が完全に悪者じゃないか⁉
もう少し何か言い方があるだろう父さん。さっき娘に〈大好き〉とか言われて喜んでいたじゃないか⁉
「じゃあ、試合を始めるぞ、最後にもう一度言うぞ、正樹。
ちゃんと手加減しろよ、格の違いというモノを教えてやれ」
うわ~い、なだめるどころか火に油を注ぐ発言が飛び出てきたぞ。
父さんの空気を読まない性格も大概だな、もう知らないぞ……
「じゃあ、始め‼」
心の整理がつかないまま試合は始まった。俺はいつもの様に剣を上段に構えた。
防具も付けず手には金属製の剣というシュチュエーションはいつもとは違い何とも不思議な気分である。
対するエミリの構えは中段、平正眼の構えだ。平正眼とは剣道でいう対上段の構えとしてはオーソドックスなモノである。
さすが父さんが仕込んだだけあって基本はしっかりしている様だ。
そしてその構えを見ても隙が無い、ある程度のレベルに達しているかは対峙すればわかる。
確かにこの子は強い、そして尋常じゃない程の闘気、俺を睨みつけているその目はまるで親の仇を見る様な目だ。
少なくとも血のつながった兄を見つめる目ではない。
だが心で押されたら勝負には勝てない。相手の闘気に対して臆すれば待っているのは敗北だ
しかもこの試合は下手をすれば敗北が即死に繋がってしまうのだ。
俺の使う上段の構えは別名〈火の位〉ともいわれる攻めの構えである。
火の心で相手を圧倒し打ち砕く炎の構えなのだ。気で負けたらダメだ、気で押せ、心でも圧倒するのだ。
エミリの闘気に負けない様にこちらも気を放つ。闘気と闘気がぶつかり合い辺りに異様な空気が充満する。
母さんとリサは息を殺して見守っている、だがエミリは俺の構えを見て唇を噛みしめると更に憎悪の目を向けてきた。
「パパとそっくりな上段の構え……自分こそが剣聖の後を継ぐものだと言いたい訳?アンタなんか、アンタなんか……」
エミリの目に鬼が宿る。解き放った闘気が殺気へと変わり肌にピリピリとしたモノが突き刺さって来きた。
通常平正眼の構えは上段の構えの左小手に照準を合わせるモノなのだが
エミリは俺の左手ではなく喉に狙いを定めてきた、ハッキリとそれを感じたのである。
生半可な気持ちではやられる、殺される、ならばこちらも全力で立ち向かえ
相手が俺の喉を付いてきた瞬間、全身全霊の一撃を脳天に食わらせる、覚悟を決めろ。
二人の間にわずかばかりの静寂が訪れた。見てり者達も誰も言葉を発しない
緊張感と殺気が入り混じった空気が室内に張り詰め息をするのでさえ困難な状況が辺りを包み込む。
だが決着は一瞬だろう、どちらの渾身の一撃が先に相手の意志を打ち砕くのかという勝負だ
そしてその時がそう先ではない事をお互いが理解していた。
その僅か数秒が数時間にも感じられる。俺もエミリも全く動かないまま闘志だけが激しくぶつかっている。
そして次の瞬間エミリの目がわずかばかり見開いた、来る‼
それからは脳が体に信号を送るよりも早く体が動く。
エミリの突きに合わせて俺の上段からの一撃がエミリの脳天に振り下ろした。
空気を切り裂くエミリの突きと唸りを上げて振り下ろされる俺の上段からの一撃。
光と風が交差したかのような刹那の時、だが次の瞬間、キーンという金属音が室内に鳴り響いた。
「だからあれ程手加減しろと言っただろうが、馬鹿者が……」
俺の放った一撃がエミリの脳天を直撃する寸前でもう一本の剣によって阻まれていた。
そう父さんが横から俺の剣を受け止めてくれたのである。
エミリの放った喉元への凄まじい突きをギリギリで交わした俺だったが僅かに首をかすめたのだろう
首筋から少し血が出ていた。
自分の脳天直撃寸前で俺の剣と父さんの剣が交差しているところを見上げたエミリは思わずその場でへたり込んだ。
その表情からは血の気が引き顔面は蒼白になっている
父さんがいなければ自分が確実に死んでいたことを理解したのだろう。
「ごめん父さん。エミリの闘気が凄くて手加減できなかった」
「ああ、それがわかったから私も横から手を出した。
真剣勝負に横から手を出すなど剣士としてはご法度だが私は剣士である以前に父親だ
正樹もエミリも私の大事な子供だからな、こんな真似をさせてしまった私こそ謝らなければならない、すまなかった……」
父さんは珍しく自分非を認め、素直に頭を下げた。そして優しい口調で座り込んでいるエミリに語り掛けた。
「エミリ、お前の剣の腕は相当なモノだ、研鑽を積めば達人の域に達する事も可能だろう。
だが私や正樹は違うのだ、それは神が与えた特別な力とでもいうのか努力や修練で身に付くものでは無いのだよ。
酷な様だがどうやってもエミリでは私や正樹に追いつくことは出来ない。
これは努力や才能とは違う資質の問題なのだ、わかってくれ……」
口調は穏やかだが、言っている事は〈お前では剣聖にはなれないから諦めろ〉という最終宣告である
それは言い換えれば剣士として引導を渡されたようなモノだ。
「そんな……そんなのって……うっ、うえっ、うわああああああ」
エミリは床に崩れ落ちる様に泣き崩れた、父さんに憧れ、剣聖を目指した剣士エミリはここで死んだのである。
直接引導を渡す結果となってしまった俺もそんなエミリの姿を見るのは正直辛かった。
初めて会ったとはいえエミリは妹なのだ、そして経緯は違えど剣の高みを目指す者としてエミリの気持ちは少しわかった気がした。
誰も言葉を発しない中でエミリの嗚咽交じりの鳴き声だけがしばらく広い室内に響き渡った。
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