【番外編】料理対決〜それぞれのその後〜
「アンジェリカ•レイテスト公爵! 決闘を申し込もう! 王妃と女公爵との激務で育児放棄をする疑惑がある! 貴女のような女性をリーンちゃんの養母にするわけにはいかない!」
魔塔主が一息に言い切った。
王宮のパーティーの真っ最中のことである。
彼の後ろには、魔法使い達が立っていた。
魔塔主はアイラとリーンをひしっと抱きしめて、誇らしげに言い放つ。
「そして私は、アイラを新たな次期魔塔主とする! 私達は、真実の家族愛で結ばれているのだ!」
ラファエル皇太子もアンジェリカ公爵も、呆気にとられて声が出なかった。
しかし、公式の場での言葉だ。
魔塔主の言葉を揉み消すことはできない。
「お言葉ですが、魔塔主様。私は育児放棄などしません! 名誉毀損です! そして……決闘を喜んで受けさせていただきます」
アンジェリカ女公爵は、毅然とした態度で優雅にカーテシーをする。
その美しさに周囲の人々は心ときめかせた。
彼女は誇り高く、王宮の庭園へ決闘場を用意させた。
貴族達と諸外国からの貴賓達は、王妃と魔塔主との決闘に騒然となったのだ。
★★★★★
私は、暴食の魔王に支配されてしまったようです。
口に料理を運ぶ手が止まりません。
私リーン。
冒険者見習いです。
アンジェリカ様と魔塔主様が、次々と自慢の料理を作っては持ってきてくれるのです。
食べても食べても、もっと美味しい料理がきて食べてしまいます。
アイラおばさんは頭を抱えて座り込み、何かをブツブツ呟いています。
ゼンザイちゃんは、私が食べた物をカウントして紙に書きこんでいます。
貴族の皆様は、料理が出来上がる度に歓声やどよめきを上げています。
どうしてこうなったんでしょう。
一体いつ終わるんでしょう。
どれもこれも美味しいです!! 最高です!!
もう一口……。うーん。幸せです!!
大事件のあった後、即位するまでラファエル様が、皇太子のまま執政をとられることになりました。
アンジェリカ様は、女公爵としてラファエル様を支えられています。
お二人の結婚と即位の準備が、着々と進んでいるそうです。
そして、王宮でパーティが開かれて、なんと私達もご招待を受けたのです。
めいっぱいオシャレをしてきて、アンジェリカ様達にご挨拶をしました。
アンジェリカ様に、屋敷の者達が寂しがっていると言われました。
よければ私達が公爵家の子になってみないかと、言ってくださったのです。
すると、魔塔主様が決闘を言い出されました。
そのままパーティ会場から庭園へと移動して、巨大キッチンと食材が運ばれてきました。
魔塔主様と王妃様は、エプロン姿になってお料理を始められたのです。
アンジェリカ様には白い服をきた料理人さん達が、魔塔主様には魔法使いさん達が、サポートでキッチンに入られています。
キッチンスタジアムというそうです。
次々と料理が作られていきます。
アイラおばさんが、頭をさらに抱え込んでいます。
大丈夫でしょうか。
心配です。
ブツブツ言っています。
「事件の悪いイメージを払拭するために、パーティでサプライズイベントをやるとは聞いてはいたよ。……なぜ私達を巻き込む。……目立ちたくないのに。……逃げたい。……いや、逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ……」
カーンと鐘がなりました。
ラファエル様の声が響き渡ります。
「終了〜! 2人とも素晴らしい料理の出来でした。リーンちゃん。感想はどうかな?」
「どれも素晴らしく美味しかったです! 最高です!」
「だそうだよ。食べた皿の数は同数です。引き分けです。2人ともありがとう! さて、今作られた料理の数々は、我が国の誇る伝統料理から最新のレシピなのです。味わってみたい方達は、別室に用意がしてあります。ぜひ、国への土産話にどうぞ!」
ラファエル様が、よく通る綺麗な声で仰いました。
私達を羨ましそうに見て、唾を飲み込んでいた各国の方々は、我先にと別室へ移動なされました。
そして、楽しげな食事の音や歓談の声が聞こえてきました。
アンジェリカ様達が、笑顔でやってきました。
胃腸に良いお茶をいれてくださって、渡してくれました。
「美味しかったですか?」
「どれもこれも最高に美味しかったです!」
「よかったわ。とても美味しそうに食べてくれるから、皆様方も食べてみたいと羨ましそうに見てましたのよ」
「これで魔塔への入門希望者も増えるよ」
魔塔主様や魔法使いさん達も来られて、話しかけてくれました。
アイラおばさんは、ちょっぴり不機嫌そうです。
「……魔塔主様、私はいつ次期魔塔主に決定したんですか……?」
「勢いだよ、勢い。しかし、皆の前で公表しちゃったから取り消せないな。困ったな」
魔塔主様が眉尻を下げて、ものすごくいい笑顔で言われたのです。
魔法使いさん達も、目をキラキラと輝かせて話しだしました。
アイラおばさんは、さらに不機嫌そうです。
「姉御! よくお戻りになられました! 我々は喜んで歓迎いたします!」
「姉御って言うな」
「ご安心ください。反対派は殲滅しておきました。使われていたお部屋も元通りに復元してあります。いつでもお入りください。リーン様とゼンザイ様のお部屋も、隣室にご用意しました」
「相変わらずの統制ぶりだねぇ。アイラ君。羨ましいくらいだ」
「ですから! リーン達が誤解するような事を言わないでください!! 違うからね! リーン! ゼンザイ!」
アイラおばさんが、涙目で訴えています。
アイラおばさんによると、魔塔で学んでいた頃に、魔法使い達のリーダー格の方が突っかかってきたそうです。
だから、魔法でボコボコに倒したら、付きまとわれるようになってしまったそうです。
魔法使いの方達は、うっとりしたような顔になりました。
「我々は思い上がっていたのです。ああ、思い出してもゾクゾクします。どんなに魔法を打ち出しても、広がる闇に吸い込まれていく恐怖。古代の精霊達に打ちのめされる痛み。そしてアイラ様に虫ケラのように見下ろされた時に、それが我々の喜びに変わったのです!」
「洗脳魔法かね、アイラ君。洗脳魔法はまだ確立されていないはずだが……」
「だから! 誤解されるようなことは言わないでください! こいつらが変わってるだけです! あの時は、早く帰りたかっただけなんです! リーンの世話をする約束があったんです!」
アイラおばさんが、涙目で訴えています。
魔法使いというのは、変わった方が多いんでしょうか。
ゼンザイちゃんが呟きました。
「ストックホルム症候群という奴なのかニャ? 他者に支配された恐怖の感情を背景に、自らの命を守るために欺瞞的な行動をとることがあるらしいのニャ」
「そうなんだ。よく分からないけど、よっぽど怖かったんだろうね」
「アイラさんは、リーンちゃんのためなら、いつも一生懸命ニャ」
「えへへー。ありがとう。アイラおばさん」
「リーンは優しい! 信じてくれてありがとう!」
私達は、ひしっと抱き合いました。
胸の奥がほのぼのと暖かくなりました。
魔塔主様達は、暖かい目で見守ってくれています。
「それにしては……アイラ君ファンのグループがやたら多いのが気になるが、まあ不問にしよう」
「魔塔主様、よろしいではないですか。見目麗しく、魔法に長けて、情に厚い。むさ苦しい魔法オタクの巣窟に咲いた一輪の花なのです。そう考えれば良いのです。魔法の研究のためなら非人道なこともやる連中の中で、人間らしい心をもったレア鉱石のような方なのですよ」
「それもそうだねぇ。リーン君も手に入るしね」
魔塔主様達は、目を光らせて静かに笑ったのでした。
アンジェリカ様もニコニコしてお話を聞いておられました。
やがて、彼女は接客しなければいけないからと言われ、残念そうに去っていきました。
北の村の駅では、フライハイト(元ダメーダヤ)とメリーとヨイショトリオが、感慨深く立っていた。
「よかったんですか? ダ……フライハイト様。あのままでいれば、王でいられたでしょうに」
「ふ……! 何を言うか、メリー! 俺様があんな椅子一つにこだわる男だと思うのか。笑止千万! 俺様はここで、世界を相手に戦うのだ!」
「流石です! フライハイト様! 不屈の男! カッコいいです!」
「はーはっはっは!!」
村のおばあさんや子ども達が、フライハイト達に気がついた。
皆、フライハイト達の無事を喜んでくれた。
フライハイト達は、村人達の歓迎に癒されてほっこりしたのだった。
フライハイト達は、アンジェリカが用意してくれた屋敷に住むことになっている。
そして、アンジェリカからお願いされた仕事があるのだ。
「それにしても、アンジェリカの奴……。この大量の紙を書いて埋めて、一週間に一度提出すれば世界を救う……とは、また壮大な仕事を任されたものだな」
「アンジェリカ様も、やっとフライハイト様の偉大さに気がついたのです! メリーはどこまでも着いていきます!」
「素晴らしいです! フライハイト様、メリー様!」
「おまえ達! 命を捨てて俺を救ってくれたおまえ達こそ、真の忠臣! 真実の愛の妻だ! はーはっはっは!」
「うふふふ」
「万歳! 万歳!」
フライハイト達が、妄想を書きつらねた紙の束を送ると、添削されて返ってきた。
それを書き直して、また送る。
その作業が、長い間続けられた。
やがて新しい大量の紙の束とともに、新しい本が届けられたのだ。
フライハイト達の名前が書かれた、冒険物語の小説である。
ラファエルとアンジェリカからのメッセージが添えてあった。
『フライハイト様達の書かれた書物が、翻訳されて世界中で読まれています。この書物は、世界中の人達のの心を、元気づけて夢を与えて救うことでしょう。ぜひまた新しいものをお願いいたします』
「なんだと! 次の〆切は一週間後!?」
「フライハイト様! なんて素晴らしいことでしょうか!」
「世界のフライハイト様ですね!!」
「そ、そうだな! 世界のフライハイトか! 悪くないな!! ……しかし、一週間後……」
「フライハイト様なら大丈夫です! 大英雄なのですから!」
「世界のフライハイト様! メリー様! 万歳!」
「はーはっは!」
きつい〆切に追われながら、フライハイトは大量の白い紙を埋めていく。
メリー達にもてはやされて、フライハイトは頑張り続けた。
時々届く、世界中からのファンレターに癒されながら。
王宮にて、ラファエルとアンジェリカが微笑みあっている。
「兄上に暇な時間を与えると、ろくなことがないからね」
「褒められると弱いのは、昔からでしたわ。メリー様達やファンの方からの励ましがあれば、やっていけると思います」
「異世界の記憶がある方達に、妄想を本にして売る技術のある方達が多くて助かったよ」
「ふふふ。おかげでフライハイト様の本は大人気です。先代王妃様にも本を贈りましたのよ。泣いて喜ばれていたそうです」
先代の王と王妃は、田舎の離宮で病気療養をしている。
ダメーダヤがフライハイトとして生きていることは、教えてはいない。
しかし王妃達から、分厚い感謝状がラファエル達へ届けられたのだった。
モリア伯爵領の深い森の奥の神殿にて、ジェームズ達が、手紙を読んでいる。
手紙は、古代魔法で封印された箱に入っていて、神殿に置かれていた。
ラファエル達からジェームズへの手紙だった。
「主様。ラファエル様からは何と?」
「主様! 箱の中には大金貨がたくさん入っています!」
「そうですね。戴冠式と結婚式の恩赦で、私達の罪は不問とするとあります。貴族籍も戻しておくそうです。このモリア伯爵領を治めるようにと。そして……式に出席してほしいそうです。招待状が入っていました。大金貨は支度金に使ってほしいと……」
ジェームズは、思わず涙ぐんでしまった。
可愛い甥に、憎まれていると思っていたのだ。
ルピナス達は喜んだ。
「ラファエル坊っちゃまの晴れ姿を見られますね」
「私達のこと、ちゃんと覚えていてくれたんですね」
「ラファエル……、相変わらず人がいい。王としてやっていけるか心配です。これからも見守っていかねば……」
ジェームズの瞳から、熱い涙がこぼれた。
深く暗い海の底で、魔人トーヨーが友の大怪獣と語らっている。
「……え? 暴れ足りないから、また地上に行きたいって?」
グウオガアアアア
「それで、あの巨人とまた一戦やりたい?」
グギャアアアアア
「俺達がまた地上に行くまで、あの子生きてるかな。人間の寿命は短いよ」
グオグオングゥァ
「あの子を魔人にしちまえば、長く生きるって? いいかもしれないな」
リーン達の知らない所で、リーン魔人化計画が始まっていた。
エジ国では、ホルス王と侍女達が話あっている。
「ラファエル様とアンジェリカ様の戴冠式と結婚式に行く日も近づいてきたね」
「はい! 私達、精一杯喜んだいただけるように準備いたしました!」
侍女達は、ゼンザイが喜びそうなふわふわのクッションやおもちゃ、毛の手入れをするブラシを積み上げている。
「おまえ達……、ゼンザイ殿に会えるか分からないよ」
「ゼンザイ様は、神の御使いです! 貴賓扱いのはずです! お会いできるはずです!」
「だからね……」
ホルス王は、侍女達を説得するのに苦労している。
華やかな戴冠式と結婚式が行われる日が、近づいてきていた。




