魔法みたいな未来に上書きして
「それにしても……この前の混乱が嘘みたいね。戦地になってたとは思えないわ」
島の玄関口の港へ繋がる大通りを歩きながらエマが呟く。
見渡すと整然と整った建物に活気のある店や人。普段通りの日常が広がっている。外国の軍隊と大規模な戦闘をして1週間と経っていないのに。
「島の人は全員が異能力者だもんね。作業効率がまるで違うよ。私達も色々駆け回ってたもんね」
「作業効率は上げられてもしんどいもんはしんどかったな……」
激戦の後に急ピッチでの復興作業。いくらなんでも疲れを感じさせない屁理屈は思いつかずそこは気合いで乗り切ることになった。
今のうちから無茶をできる屁理屈でも考えておこうか……。
「ああ、3人とも来ましたね。ゆっくり休めては……いないでしょうが、元気そうで何よりです」
歩いた先の広場で進藤先生が出迎える。先生も激務のはずなのにけろっとしている。忙しいんじゃないかと思って尋ねてみる。
「先生も戦後処理とかでバタバタしてるんじゃないですか? こっちに来ても大丈夫なんですか?」
島に攻め入った軍人は全員拘束された。ヌトラを倒した後、異能を相殺する《中和》も効力を失い形勢が一気にこちらへ傾いたためだ。
身柄は本土に送られたらしい。そこで俺達の分からない大人の交渉や駆け引きが行われているのだろう。先生はその調整で駆り出されていた。
「そちらは大まかな方針は決まりました。我々への制限もなく、これまで通りの日常が過ごせそうです。結果的に我々の防衛力を見せることができたのも大きいでしょうね」
「それって有事の際には上手くやってくれって丸投げしてるわけでしょ? 行動を制限されるよりはよっぽどマシだけど気に入らないわね」
捻くれたようにエマが言う。まあ無理やり島に連れてこられたうえに、なし崩し的に軍人みたいなことをさせられるのには文句も言いたくなる。
「そちらはまだ解決できず申し訳ありません。……だからこそ、せめてという思いで今回の施策だけは承認を取り付けたわけです。仕事に次ぐ仕事で申し訳ないですが……」
俺達が呼び出された本題をおずおずと切り出される。俺達にしかできないこととは言え、ここまで下手に出られると少しむず痒い。
「そこまで畏まられても困りますよ。……まあ俺達は今日まで好き勝手に暴れてたし、たまには人のために動くのもいいんじゃないですか?」
「ユウは人助けに飽きたらまた無茶苦茶なことをやりそうだけどね」
「その時はアンタも共犯になるんだぞ」
「あら、アタシは除け者にするのね」
不服そうな顔をしてエマが突っ込んでくる。本当は不服でもなんでもないのを俺は知っている。当然しのも知っており、はいはいと適当に流しながら歩いていく。
そうして着いたのは船着場。入れはしても出ることはできない、魚を獲る罠か何かのような入り口だったが今日からは本当の玄関口となる。正確にはそう上書きするのだ。
船着場には大きなフェリーが停泊しておりそこには人だかりができている。もちろんこの島の住民、異能力者だ。
「おい、来たぞ!」
「待ってたぜおふたりさん! よろしく頼むよ」
その集団が俺としのの前に並ぶ。その並んだ集団にエマも加わる。さあこれが今日一番の大仕事だ。
事前に全員に話は通してある。後は決めた通りに事を運ぶだけ。
「しの」
「うん」
頷きあって前の集団全員をその目に捉える。彼らを自分達の異能の対象として認識するように。
すうと息を吸って先に動くのはしのだ。彼女の顔は見ていないが恐らくその目は熱を帯びて光っていることだろう。
――しのの本領、《幻惑》の異能だ。
「みんな、異能の使い方を忘れて。島に戻ってくるまでは一般人だからね。分かった?」
その《幻惑》がエマ達を捉えたと見て、俺も後に続く。
「異能の封印は普通なら無理筋だけど、かかる方も同意してるならできるだろ。しのだって自分の異能を忘れようとして忘れたんだしな」
しのの異能の効果を《上書き》で補強する。しのが描く幻を俺が現実に書き落とす。俺達ふたりだからこそできるウルトラC。
「エマちゃん、どう? 《奪色》は使える?」
「ん……。出せないわね。というか、異能の名前自体は聞き覚えがあるのにそれ以上は思い出せないわ。少し気持ち悪いわね」
「快適さは流石に無理だな。副作用とでも思っといてくれ」
そう、俺達ならこの通り条件は付くが他人の異能を封じることだってできる。こうやって異能を奪えば――
「他の皆さんも同様ですね。では本土行きの船にお乗りください。間も無く出航いたします」
先生がそう声をかけて今の集団を連れていく。これこそが俺達の大切な役目。島民の異能を使えないようにして本土へ行き来できるようにする、だ。
そもそもこの島の意義はふたつ。国の領土的なあれこれと、本土を混乱に陥れる異能力者の隔離だ。
異能力者を島に隔離して守らせれば問題は一石二鳥で解決。現状維持は問題があるがなあなあにしてきたというのがこれまでだ。
ここを進藤先生や他の偉い人が変えたのだ。異能を使われる心配が無ければ本土に帰れる許可を出すよう求めたのだ。
そのキーになるのが俺としの。精神や事象をコントロールしやすいふたりの異能ならそんな無茶も成し遂げられる、というか成し遂げてくれ――と言われて今に至る。
脱獄みたいな真似をした俺達が今では合法的に外に出られるように働きかけているというわけだ。
「これでようやくエマも本土に行けるな。あの時は先生を止めてくれて助かった、ありがとうな」
「第一陣のメンバーに入れてくれたことだし、これでチャラにしてあげるわ。今度こそは製作用の絵の具を手に入れてくるわ」
俺が買ってきた絵の具を戦闘で使ったことは覚えているらしいエマが目を光らせる。彼女に待っているのは俺達の悪事とは縁のないバカンスだ。心ゆくまで楽しんできて欲しい。
「エマちゃん! 帰ってきたらお土産話聞かせてもらうからね!」
「ええ、期待してなさい。今度一緒に行きたい場所も探しておくわ……って待って。アタシ達は異能を忘れて本土に行き来できるけれど貴方達は? 似たようなことができる異能力者が現れるまでずっとこの島にいるつもり?」
聞きはしているが、エマはもう俺達の答えを予想しているように笑っている。
その答え合わせをしようと俺としのは笑いながらその言葉を口にする。
それを聞いたエマは問題児ねと吐き捨てるだろう。進藤先生は目尻を押さえて勘弁してくれとため息をつくだろう。他の人達は好きにしろと笑うだろうか。
誰が何を言っても止まるつもりはないし止められるつもりもない。これは犯行声明にして、確定事項にして、異能力者としての俺達ふたりのあり方を示す言葉だ。そう――
「「――冗談! ふたりで勝手に逃げ出して見せるから!」」
「屁理屈オーバーライト」を読んでくださった皆様、こんにちは。作者の新島伊万里です。
たまたま最終話を見つけた方、最後まで読んでくださった方、様々おられると思いますがまずはこの作品に触れてくださったことに感謝を。本作を読んで少しでも楽しい時間を過ごせてもらえたならこれに勝る喜びはありません。
以下は作ってみた感想や振り返りになります。興味があればお読みくださいな。
さて、まずこの後書きはこの作品を完結させることができてとても嬉しい気持ちで書いております。
過去にも異能バトルものは書いてたんですが、あちらはエタらせてしまって今度は最後まで書き切りたいなあという気持ちがありました。なので書くペースにムラはありましたが最後まで走りきれたのはとても嬉しいことです。
1話製作時点で事前に考えてた展開を全部書き切ることができたのも個人的に満足ポイントです。
ラストの本土と島を行き来できるようにして終わらせるという方向性も最初に決めてはいました。
ただプロット段階では「なんか上手くまとまるといいなあ」とかいうあやふやなゴールのまま書き始めたのでした。こいつ、大丈夫か……? という不安との並走でしたが満足いく幕引きができたのでよしとしています。ナイスプレイだ、今の自分。
ついでに異能の話を。《上書き》とか《魔法》を使ってルール無用で好き勝手暴れさせたい! が書き始めのスタートにあってこちらは満足するまでやりました。
それとは別に個人的なお気に入りは《奪色》だったりします。名前とか設定が考えて楽しかったのです。
ユウとしのはやりたいことありきで異能を考えていたんですが、エマは少し違いました。こういうデザインの異能があるといいなあという感じで、展開は後付けで好きな設定を詰め込んだというのがあるかもしれません。
別の作品を書く機会があったらもう一度使いたいなあとか思うくらいにはお気に入りでした。
自分用の日記や振り返りという点でもこれくらい書いてとけばいいでしょうか。
最後に改めて読んでくださってありがとうございました。楽しんで頂けたのなら幸いです。




