雪の味
先輩とは姉の友達だった事から、僕と関わることが増え学校以外でも
遊ぶ仲にまでなっていた。先輩と長く一緒にいることが増えたことにより
僕は先輩に恋心を抱くようになっていく。だが、この気持ちは僕の心の内だけで留めようと思う。
もし、この気持ちを伝えてしまったら、この関係が崩れてしまうと思う。
先輩は僕のことはただの友達かはたまた後輩としか見ていない。
しかも、先輩は姉の友達でもあることから迂闊な事もできない。
ただ、僕は先輩を眺めるだけだ…それだけで満足出来る。
自己満足で終わらせるはずだったのに…
空は薄暗い雲に覆われ、雪が降り始める。
その空の下で頬が少し赤く染まりながら首に巻いた青いマフラーの隙間から白い息が零れながら積もった雪の上をかけ走る僕がいた。
ある人が待っている場所に向かってがむしゃらに走る。
学校のある教室のドアの前で全力疾走してきて息切れしてしまった。
僕は息を整えて勢いよくドアを開き
「先輩!?姉から先輩を助けに行けって言われて来たんですけど…大丈夫ですか?ってせん…ぱ…」
教室の中には机の上に腰を掛けて体を窓に寄り添いながら空から降ってくる雪を眺めている先輩がそこに居た。
しかも、中学から伸ばし続けていたという背中まであった綺麗な長い黒髪が、肩までしかなくなっていた。
普通なら髪を美容院で切ったと言えばそれで話は終わるが先輩の『髪を伸ばしている理由』を僕は聞いている分、反動が大きく、しかも先輩の髪は、はさみで適当に切ったかのように整えがなく左右バラバラの長さになっている。
その光景に驚くしかなかった僕。
「先輩…どうして!?どうして…」
問いに先輩は悲しげな表情を浮かべらながらも僕に笑顔を向けて。
「来てくれてありがとうね」
「どうして、どうして、何があったんですか!?先輩」
先輩は僕の問いにただ下を向いて黙っているだけだった。
そんな先輩を見ていたらいってもたってもいられなくなり僕は癇癪を起す。
「どうしたんですか!?先輩!!何があったんですか。教えてください
僕だと頼りないからですか!!なんとか言ってくださいよ!!」
大声で怒鳴り息切れを起こす。先輩は僕の必死さが伝わったのか閉じていた口を徐々に開きながら
「ごめんね、わたし、わたしもう無理かもしれない…」
切り詰めていた糸が途切れたかのように眼から涙を零し体が崩れ落ち僕の服にしがみつき泣き喚く。
僕は泣き喚く先輩を只々見ているだけ、空いた手で先輩を抱くことも出来ず、涙を拭くことも出来ない。
僕は無力な自分に苛立つが何もできないので先輩の泣き顔を見ないように教室の天井を眺める。
誰も残っていない学校の教室に長い間、先輩の泣き声が響きわたった。
窓から見える空は今も白い雪が降り続けている。