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15話 小さな訪問者


 王女の結婚は政略なのだろうか――


「じゃあ、王女も嫌々でってこと?」

「いや、王女様と隣国の王子は相思相愛だったんだよ。だからきっと王女様は喜んでいると思うぜ」


 そういうことか。なら王女も被害者側なんだろう、お人形とかいって悪かったかな。

 なんにせよ、ライも王女も救われたわけだ。

 

 それにしても、この国の王子はなぜ行方をくらましたんだろう。

 大体の察しは付くけど、でも一応は次期王様なんだし、自分だけ好き勝手しようなんてわがまま過ぎ。


「カイルはさ、逃げた王子のこと知ってるの?」

「おう、知ってるぜ。団長さんと寸分違わぬ剣術の使い手でなあ、良い男なんだよ」


 ほうほう——


「ちょっとばかし野生児みてぇなところがあってよ、王族にはいないタイプだ。レイピアとかいう細長い剣を縦横無尽(じゅうおうむじん)に疾(はし)らせて、そりゃあ見事だぞ」


 細長い剣? あれ、どっかで……。


「背の高い団長さんとはまた違う、黒髪に凛々しい顔のイケメンって奴さ」


 黒髪……もしや!


「ええっと、王子はなんで逃げていたのかな?」

「あれは確か、1日に何十件という見合いが嫌になってだと聞いたがな。平民にも冒険者にも親切で優しいとくりゃ、女どもが放っておくわけがない。それにイケメンとなりゃ尚更だ」


 どうしよう、もの凄く心当たりのある人物なんだけども。ならどうして捕まったのかな、なんかそれも心当たりあるんですけど……。


「そのイケメン王子は何で捕まったの、かな?」

「ああ、何だったかなあ……」


 そこへライラが呆れた顔でカイルに話す。


「もう、さっきアルが息巻いてたでしょ、団長さんが取っ捕まえたって。もう忘れちゃったの?」


 ああ、最悪。恩を仇で返してしまったらしい。おそらく、王子とはレオのことだろう。

 ならライとレオも幼馴染で……もう今さらそんなことはどうでもいい。

 だって知らなかったし、もうどうにもならないし、でも一応その王子の名前は聞いておこう。


「へえ〜、団長さんがねえ、で、王子の名前は?」

「レオエルド・アラウザル王子だ。皆んなレオ様と呼んでるなあ。まあ、クレナイは知らんだろうが」


 やっぱり。実は知っているのだカイル、私は相当ヤバい立場にいるみたいなのだよ。

 なにね、シャツが原因でふたりを会わせてしまったらしいのだ。でですね、ライには絶対怒られそうな予感と、レオには呪いを掛けられる可能性がありそうなのだよ。なので早急にお暇(いとま)しようと思う。


 私はここぞとばかりに、考えていたことを打ち明けた。


「あのさカイル、突然なんだけど、実は、仕事を辞めて旅に出たいんだ。もの凄くお世話になったカイルには申し訳ないと思ってる、でも、このままで終わりたくないんだよ。どうか許して欲しい」


 私の突然の申し出に、ふたりは唖然としている。私にとってカイルとライラは家族同然だ、随分と支えられてきたし、自分勝手なのは承知している。でも旅の夢は捨てられない。

 動機は不純なんで答えられませんが。


「アハハハ! 許すも何も、お前の人生だ、好きにすれば良いさ。クレナイはこんな小っぽけな街で収まってちゃいけない器なんだよ、こっちこそ仕事に託(かこつ)けて縛っちまって悪かったな。でも必ず帰って来いよ」


 カイルは大笑いと共に、呆気(あっけ)なく私を解放してくれた。器が大きいのはカイルのほうだ、こんな私に帰る場所さえ開けて置いてくれる。有難い……。


「カイル、ありがとう! 必ず帰ってくる。その時はまた雇(やと)ってください、約束だよ」


「ああ、約束だ、気を付けてな。仲間達には儂から言っとく。その様子だと直ぐに立つんだろ? こっちのことは気にせず、早く帰って支度しろ」

「うん、そうする、ライラも元気で。また必ず食べに来るよ、下着、助かりました」

「ハァ、もうお父さん物分かり良過ぎ。ま、だから私もこうやってお店を出せてるんだけどね。クレちゃんと離れるのは悲しいけど、大人しく待ってるわ。男には十分気を付けるのよ、襲われたら張り倒してやんなさい。じゃ、いってらっしゃい」

「ありがとうライラ。じゃあ、行ってきます、皆さんによろしく!」


 期待していた食事にあり付けないまま、名残惜しくも店を後にした。

 その後、ダグの店で旅に必要な物を揃えようとも思ったが、ライ達に見つかっては元も子もない。

 石鹸の話も聞きたかったけど、今となっては諦めるしかない。正体がバレていないことを祈ろう。


 今日の食事と食料品だけを買って早々に小屋へ戻った。なんとも忙しない別れになってしまった。


 小屋の前に着くと、ドアの前に見慣れない白い物体が転がっている。木の枝を拾い、恐る恐る突っついてみた。すると一声鳴いた、動物か?


「おーい。生きてるかあー?」

「キュウ……」


 白い生き物がゆっくり立ち上がった。よく顔を見ると、山の洞穴(ほらあな)にいた小狐(こぎつね)だ。その小狐がなぜ私の小屋にいるんだろう。


「どうしたのお前、親はいないのかい?」


 辺りを見回したがそれらしい姿は見当たらない。マンモに襲われた時は親子で不意打を喰らったので、しばらく警戒していたが、どうやらこの小狐だけのようだ。とにかくここでお見合いしていても、恋も語り合いもできそうにないので、構わずドアを開けると、小狐が静々と中へ入った。

 招いたつもりはないんだけど……。


「ハァ、お邪魔しますくらい言ったらどうよ」

「お邪魔するの……」

「…………!」

 

 異常事態発生。モフモフの小狐が喋った。

 頭の中ではわかっていても、いちおう辺りを見回すが誰もいない。小狐は尾っぽをユラユラと揺らしながら、図々しくもベッドの上にちょこんと座った。

 お決まりのびっくりポーズは……やめておこう。


「しゃ、喋れるのね……ふ、ふぅ〜ん、そう……」


 動揺は言葉に表れるのが一般常識である。

 私は顔を引(ひ)き攣(つ)らせながら、ぎこちない足取りで荷物を机の上に置いて、防御体制に入る。


「ちょ、ちょっと小狐くん、な、なにか用?」


 小狐は前足で顔を撫(な)でながら、太い尾を揺らす。


「僕はお礼をしに来たの」

「お礼? あっ、もしかしてパンのこと?」


 お礼の一言で、動揺と警戒心は少し解かれた。小狐は犬のように尾を勢いよく振る。たぶん喜んでいるのだろう、どうやら害はなさそうだ。


「うん。あのパンで力が戻ったの、でもそれだけじゃないの、クレナイはあの魔獣を倒してくれた恩人なの。僕は魔獣が荒らした森を回復させるために、力を使い果たして弱っていたの。だからお礼」


 私の名前まで知っている。この辺りに来ていたのだろうか、いつから?


「魔獣ってまさかあのマンモのこと? まあ、あれが暴れ回ったら森も荒れるわね。でも森の中は荒れてるようには見えなかったけど、えっ、じゃあ回復させたって小狐くんが? どうやって?」

「僕は山の守り神。森を守るのが僕の役目なの。クレナイのことはこの森に来た時から知ってるの。このあいだ近くまで来たんだけど、気づいてくれないの」


 守り神か。どうやったかなんて、私が聞いても理解に苦しむだけだろうから追求はやめよう。

 近くって、もしかして、シャツを干していた時にチラッと見えた白い物体が小狐? わからんって。


「それって、私がシャツを干してたときだよね?」

「うん。だからこの前ね、来たよって合図にシャツもらったの、寝床にしてるの。フフフッ」


 シャツ泥棒は小狐か! やり方間違ってるし!


「そ、そうなんだ。じゃあもしかして、ちょくちょく来てたのかな?」

「うん! クレナイはいつもパンツ洗ってるの!」


 ……こいつ!


 仕方ないじゃんパンツ少ないんだもん。でも生乾きは解消されたわよ、シャツはまだ無理だけど。で、その山神様が私にお礼って?


 

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