10話 オファー
突然の来訪者に正体を知られた私。しかしながら劣勢に立たされていないことに些か戸惑う。
団長がお人好しで女性に興味がないのであれば、私の恥じらいや羞恥心はもはやナッシングだ。
それにしても、あの馬鹿息子が真面目で気の良い男とはいまだに信じられない。しかしだ、悪役は無くてはならない脇役なので、どうかそのまま頑張って。
それはさておき、団長が部下まで巻き込んで私に近づいた理由を、是非とも話してもらわなければ腹の虫が治らない。
「団長のお心遣い、大変嬉しく思います。それはそうと、わざわざここへ謝罪に来られたわけではないんですよね?」
「まあ、そう堅苦しい話し方はやめにして、もっとフランクに話そうではないか」
そういう団長こそ上から目線の話し方はどうかと思う。貴族たとはつくづく厄介で面倒な生き物だ。
それはそれとして、フランクにとは、友達感覚ということで良いのだろうか、とりあえず普通に話してみよう。
「じゃあ、名前で呼んでもいい?」
「ああ構わないよ」
「そうだなあ、ライノスだから、ライってのはどう? フランク過ぎ?」
団長は少し頬を赤くして、クスクスと笑う。
「ククッ、君は面白くてチャーミングな女性だ。ああライでいいよ、なら私もクレナイと呼ぼう。よろしくクレナイ」
ただくんを無くしただけじゃないか、しかもチャーミングとか、歯の浮くような台詞にちょっと引く。私みたいな擦れた女子には洗剤のネームにしか聞こえない、そのイケメンに免じて聞き流してやりましょう。
「フッ、よろしく、ライ」
「う、うん……」
なぜ顔を赤くして口元を隠すのか、貴族の礼儀? 庶民の風呂場を覗いておいて、今さら礼など尽くさなくても良くってよ。
「それでライ、私に話って?」
「あ、ああ、コホンッ」
ライが咳払いを合図に話しを始めた。
「では質疑応答方式で進めよう。この国にはある特有の魔獣が存在する。その魔獣を生産用ダンジョンで飼育している」
そうだ、アルが生産用ダンジョンのことを少し話していた。確かこの国特有の魔獣が住んでいるとか。
そもそも、生産用ダンジョンとは一体何なのかも私は知らない、まずはそこからだ。
「その生産用ダンジョンから詳しく教えてもらいたいんだけど、冒険者が潜るダンジョンとは違うの?」
「ギルドで教わらなかったのか?」
ギルド?
そうか、冒険者登録する時に説明されるのか。マンモ騒ぎで逃げ出してしまったから聞いていない。ここは適当に誤魔化そう。
「ちょっと騒動があって聞けなかったのよ」
言い訳するなと言わんばかりに私を見下ろし、劣等生に言い聞かせるようにライが話を進める。
お前は教師か!
「ハァ、一般的な冒険者ダンジョンと、この国にしか存在しない特別な生産用ダンジョンがある」
「ふ〜ん、それで?」
「我々はその特別なダンジョンで、代々受け継がれた飼育法を使うことによって、この国は栄え保たれているんだ」
「じゃあ、この国はその伝統の飼育法で生計が成り立ってるんだ」
「うん。魔獣の吐き出す衣類の素材が要さ」
そういえばアルが魔獣が衣類とか言っていた気がする。吐き出す衣類の素材といえば……糸。
なら魔獣ってもしかして、蚕?
「その魔獣ってこう、ウネウネするムチムチとした生き物?」
「ん? ああそんな感じだ。魔獣の名をシルクウォームと言うんだ、知ってるのかい?」
知ってるもなにも、私の嫌いな部類の生き物だよ。
なるほど、何となく読めてきた。
「吐き出すって糸のことだよね? なら衣類はこの国から出回ってるの? 原産国?」
「クレナイは随分と難しい言葉を知っているんだね。もしかして、こういった話しに詳しいのかな?」
詳しくもないし、難しい言葉もよく知らないけど、旅行マニア知識として、行った先々の村や町で、そこでしか採れない物を売って生計を立てている所は多々ある。それがこの国では大規模に行われているんだろう。そこへ何らかの障害が発生して、衣類不足に陥った。
「知ったかぶりよ。で、衣類が減った理由は?」
「以前にもあったんだが、冒険者がダンジョンから魔獣を乗り物代わりに連れ出し、そのまま放置して逃げてしまってね。その魔獣が近年、国が大切に育てている草木を荒らしにやって来るんだよ」
なんだろう、それと似たような話しをどこかで聞いたような……。
「我々も警備を強化しているんだが、いまだ及ばずなんだ。まったく、冒険者の身勝手な振る舞いにも困ったものだ」
そうか、だから団長は冒険者を毛嫌いするのか。異世界も前世と変わらず、モラルを弁えない人間も多くいるのだろう。
「その大切な草木って何に使うの?」
「シルクウォームが唯一食べる大切な木なんだ。それと、他に栽培している植物もあってね、今では半分以下に減少してしまっている……」
なるほど、話しをまとめると、衣類の大元である魔獣の餌を確保することが最大の目的なわけだ。
「話はわかったけど、私にどうしろと?」
「あの伝説のマンモを倒したのはクレナイだろ? アルから話しを聞いてね。だから今回は、信頼できる君に魔獣駆除を頼めないかってことになったんだ」
ああ思い出した、カイルと出会った時、マンモが害獣になった経緯の話を。それと同じ事がまた起こったということか。魔獣駆除といわれても……。
悩む私を前に、ライが苦悶の表情で語る。
「実は、国王が衣類不足は急務を要すると、至急打開策を講じるよう命を受けたんだ。なんとか協力してはもらえないだろうか、ダンジョンで魔獣討伐を経験した君に手を貸して欲しい」
あれ? 私アルにペーパー冒険者って言わなかったかなあ、ちょっと雲行きが怪しくなってきたよ。
今さらダンジョン未経験者とか言えないし、でも信頼されちゃってるし、話し聞いちゃったし、パンツは欲しいし……ここもやっぱり誤魔化すしかない。
「えっと、最近は仕事が忙しくてね、ほとんどダンジョンには行ってないのよ。だからその、お役に立てるかどうか……ハ、ハハ」
「それでもクレナイに来て欲しい、駄目かい?」
ああ、暴力的上目遣いと激甘ボイスに撃沈。
「ハァ、そこまで言われちゃあ仕方ない。いいわ、パンツのためならどこまでも!」
「……パンツ?」
「そうパンツ……ん?」
パンツ。色や形は数あれど、素材となるとそう多くはないはず。いま私が持っている限りでは、支給品のシルクパンツと綿のパンツ。
だとすると、魔獣も2種類いる?
「あのさ、ライのはいてるパンツって綿?」
「い、いきなりだなあ、綿だけど、なぜ?」
「もしかして、魔獣も2種類いるとか?」
「ああ、そういうことか。綿はレグールと言って、草木専用地で栽培しているんだ。さっき話した他に栽培している植物がそれさ。けっこう手間が掛かるから貴族にしか出回ってないんだ」
綿も前世と同じで栽培方式なんだ。でもシルクより綿が貴重とは意外、前世ではシルクのほうが貴重で高価だ。私的にはシルクパンツより綿パンのほうがお馴染みなので、是非とも綿パンに全力投球していただけたら幸いです。
今は旅行計画よりパンツ計画、これは放っては置けない事案なのだ。
あ、乗り物になる魔獣って、なに……?




