↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/10

§プロローグ 【転生】


 春も間近なうららかな小春日和。就職先も決まったので、今日は日帰りバス旅行を楽しむ。


 私は桜井紅子(さくらいべにこ)、超小柄で目立たない陰キャラでモブ的存在。趣味は旅行へ行くこと。

 私を知らない現地の人々との触れ合いは、気兼ねも人目も気にしなくていいので実に楽しい。

 それなりにお金は掛かるけど、旅行のためならバイトの時間を増やしても苦にはならない。


 さて、今はバスの集合場所を見つけるのが先決。目印の家電量販店を目指す。

 携帯のナビに沿って進むと、道路を挟んで反対側の道沿いにあるようだ。歩行者用信号機が青になるの待っていた私に、音も無く自転車がぶつかった。

 私は勢いよく車道へ投げだされ倒れた。私の思考はそこでストップする……。


 


 ***


 


「桜井紅子さん、あなたは先程お亡くなりになりました。私は女神ノア、ここは冥界管理塔という死後の世界を決める中間地点です。さぞかし心残りもあるかと思います」

 


 死後の世界?

 艶かしい唇が動くたびに漏れる優しい声に、私は自分の死を知らされた。そうか、私は死んだのか。

 確か自転車に跳ね飛ばされて道路に……。


「そうそう、自転車を運転していた人は、あなたの存在に気が付かなかったようです。災難でしたね」


 なるほど、チビは存在すら危うくさせてしまうらしい。それはそうと、私を悼(いた)んでくれる優しい声の主は、ギリシャ神話の像を思わせる透き通った白い肌と、薄衣を纏(まと)ったしなやかな体、恵まれた見目麗しい姿の女神に目は釘付けです。


 心残りはあるかと問われたら、楽しみにしていた日帰りバスツアーが無駄になってしまったことくらいか。どうせ私の未来は惨めな末路でしかなかったように思うので、ここで死んで正解なのかもしれない。

 そんな客観視している自分に一笑する。


「フッ、心残りは大してないです。次に生まれ変われるとしたら、女神のような素敵な女性で、スラっと背の高いモデルさんみたいになりたいです……」


 女神は私の言葉にニッコリ笑って頷(うなず)く。


「わかりました。ではさっそく希望に添(そ)えるよう手配しましょう。そうですねえ、あなたの生前からして、ちょっと変わった趣向で異世界へ行ってもらいましょうか。もちろん、特別なスキルもね」


 女神の突拍子もない発言に、私の思考回路は驚きと期待で妄想が膨れ上がる。


「あのう……それはどういう……?」


「この管理塔は選ばれた者、不幸にも死に導かれてしまった死者が来る特別な場所なのです。既に数多くの死者が旅立っていますよ」


 それってもしかして――異世界転生?

 まさか現実、いや、この場合はまだ幻想と言うべきか。私に第二の人生が与えられるなんて……。

 ああ、神様、女神様、本当なら嬉しすぎます!


 でもちょっと待ってよ、もし肩透かし食らったら相当ショックなので、ここは冷静にならないと――


「あのう……ちょっと確認なんですが、異世界に転生ってことでいいんですかねえ……?」


「フフッ、現世ではそんなふうに言われてますね。我々は『臨界転生(りんかいてんせい)』と呼んでいますよ。管理者が趣向(しゅこう)を決めるといった違いはありますけどね」


 なるほど。難しいことはよくわからないけど、新しい自分で再出発が出来るのであれば、何も文句はありませんって。

 それはそうと、前世の意識とかは全て無くなってしまうのだろうか。


「その臨界転生って、記憶とかも真っ新になるものなんでしょうか?」

「それはあなた次第です。ほとんどの人は記憶を留めたままを希望してますが、どうしますか?」


 私は即答した――


「このままでお願いします!」


 女神はさらに楚々(そそ)とした笑顔で私にゆっくりと近づくと、何やら紙袋を差し出した。


「これは?」

「転生先で必要なアイテムです。では、素晴らしい人生であることを祈って。いざ異世界へ!」


「へ?」と言っている合間に、光に包まれて――


「あのあの、ちょっと、どんな世界なのー?!」


 行先も知れず、私は光と共に飛ばされた……。


 

**

 


 光に包まれて私が飛ばされた場所は山小屋の中だった。恐る恐る辺りを見回すが他に誰かがいる様子もない、だとするとここが私の家ってことなんだろう。

 どんな時代なのか、部屋の中には暖炉に薪(まき)、木の机は食卓といったところか。一応キッチンらしきものが奥の方に見える。風呂やトイレや水は……。

 

 あれこれ考えるときりがない。とにかく家の中を見て回ろうと立ち上がったその時、私はある違和感を感じた。それは距離感というか目線というか、今まで見たことのない視野に気づく。

 思わず上を見る。この家は天井が低いのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。

 何故なら、床がやたらと遠く感じるからだ。これはもしかして、背が伸びた?


 戸惑いながらも、私が冗談混じりで女神に語った自分の理想を思い出す。そう考えたら居ても立ってもいられなくなり、まず鏡を探した。

 でも鏡らしきものはどこにも見当たらない。そういえばと、足元に倒れていた紙袋を手に取り、徐(おもむろ)にひっくり返して中身をぶちまけた。

 ありましたよ、大きめの手鏡。震える手で鏡を持ち覗く——


「なあぁぁぁぁ! な、なんなのこれは……」


 鏡に映っているであろう私はまったくの別人でり、何度も鏡の裏を確認したりと、側から見たら奇妙な光景だろうと思いながらも、女神にも引けを取らない中性的で端麗な容姿に、喜びの感情が込み上げてくる。

 いちおう体も確認したが女性のままだ。しかしこの背の高さだと男性と同等か、それ以上の規格外ではないかと予想する。

 

 チビもそうだけど、デカい女も敬遠されるのは当たり前で理不尽な常識だ。なので何か誤魔化(ごまか)せるものはないかとアイテムを拾い集めると、如何(いか)にもといった眼鏡と、黒いローブに男物の服と皮の手袋があった。変装にはもってこいのアイテムばかり。

 なるほど、変わった趣向とは男装をして人生を謳歌(おうか)しろということか――


「……ああ、なんと素晴らしい! 顔も体も規格外上等! 楽しい誤魔化しライフの始まりだ!」


 で、ここはどこ……?

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。