プロローグ「凶弾の文脈」
こんな世界になってから、従軍してから、死体は何度だって見た。消えゆく灯火も見た。ただ、この手でその火を消した事は無かった。
俺は彼らを殺めた。
兄妹を逃がすために、罪の無い仲間を6人も撃ち殺した。埋めた。例え、監視されていると知っていても。
薄暗い廊下で、手首の手錠を眺めて、工介に続き歩く。兄妹は逃げ切れたのか? 守住はどんな刑になったのか? 答えを知れず、悶々とする内に、2人の靴音が鳴る酷い静寂は、工介によって破られた。
「村上。——なんで、あいつらを撃ったんだ?」
ハリのある声に少し震えが滲んでいる。彼は歩調を緩めて、隣に来た。手には手燭が握られている。その灯りは揺らめく。もう小指ほどの長さしか無く、この暗がりを照らすには心許ない。ぼうっと思考が濁り、灯りが陰る。口をキツくキツく結んだ。俺は答えを知らない。こちらを見る目は諦めたように濁っていた。
「……そうか」
奥に進むにつれ、血の匂いは強くなり、迫る圧は強くなる。確かに近づくそれは、動悸を起こし、身体の自由を奪っていく。ゆっくりと古びた扉に近づいていく。俺の行動は正しかったはずだ。キツく結んだ口を緩ませ、アイツに問いかける。
「あの兄妹は上手く逃げ切れたのか……?」
工介はこちらに向けていた目を前へそらし、俯く。微かにアイツの唇が動く。聞こえてくる声のハリは失せ、暗く腹の底に響く。
「政府直属だぞ。初期型のカニミソを逃すはずが無い。妹の方は……」
軽く首を横に振っているように見える。
工介は、ノブに手をかけて回し、扉を押し開いた。乾いた濁音を響かせた扉の奥には、赤茶色く汚れた床に、錆びた壁、天井には小さい電球が1つだけ。扉が閉まる音がすると、肩を押され、汚れた床に座らされた。前に立った工介を見上げる。腰の鞄に手を突っ込んでいる。少したつと、黒いボロ布をおもむろに取り出した。目を隠そうとざらざらとした感覚が巻き付いてくる。真っ暗な世界で、アイツから微かに聞こえた。その声はハッキリと震えていた。
「こんな結果で良かったのかよ。もっと他に……無かったのかよ」
俺が聞きたい。
最後にカチャリと音が聞こえた。




