40.流行り廃り
だいぶ更新してなかったこと、お詫びします。
夕方になってやって来たリークさんとホクルトさんは、お土産にと自領の特産物を持って来てくれた。
「これでイツキちゃんに料理してもらいたくて」
「俺も、俺も」
「わぁ、ありがとうございます!」
リーク・オルクスさんは、村長宅の元宰相だった家令のハデス爺ちゃんと侍女長のルピナ婆ちゃんの孫。ホクルト・トラキアさんは、元騎士団アレス爺ちゃんと元聖女ディーテ婆ちゃんの孫。
その二人が持って来てくれたのは、各領の特産品らしくオルクス領からは、ほうれん草とトマト。トラキア領からは、鶏肉。
厨房に頂いた特産品を持ってきて、作業台の上に並べた。
「この材料でどうする? イツキ」
特産品を見ながら話しかけてきたヴェスター爺ちゃん。
「んー。じゃあ、ほうれん草とトマトでキッシュ。鶏肉はチキン南蛮かな〜」
「キッシュとチキン南蛮? どっちも聞いたことねーが、まぁ、教えてくれ」
「はーい」
キッシュはパイ生地に卵液と具材を流し込んで焼き上げた、フランス発祥の料理だ。ほうれん草とトマト、ベーコンを入れて、そこに卵と生クリームを混ぜた卵液を入れて焼き上げるだけ。冷凍パイシートがあればもっと簡単だけど、そんなものはこの世界にはないので、そこはヴェスター爺ちゃんに頑張っておう。
チキン南蛮は、小麦粉と溶き卵を絡めた鶏肉を油で揚げ、甘酢に浸した宮崎県発祥の料理。甘酢にタルタルソースの最強コンビは酒のつまみにもご飯のおかずにもバッチリ。
「うっま、何これ?」
「本当だ。初めて食べた味だけど良いな。このソースは何だ? 卵か?」
「卵だけじゃなく、カリカリした食感もあるぞ?」
「あ、それはタルタルソースっていってゆで卵とピクルスをマヨネーズで和えたものだよ」
タルタルソースを説明していく中で、どんどんみんなの口に消えていくチキン南蛮。
あれ? これ、もしかして足りない感じ?
料理の量に不安になるけど、みんなに喜んでもらえてるようで見ている私も嬉しくなる。
「そういえばさぁ、王都の携帯食屋のこと聞いた?」
「あー。ギルド内で噂は聞いてたし、今日リュウからもらいましたよ」
「酷かったろ?」
「まぁ……。作り慣れてないとあーなるだろうなぁと思ってたけど、あそこまで美味しくないのは米への冒涜だと。米に対しても、米農家に対しても!」
拳を握りしめながら言うとリュウは苦笑し、リークさんとホクルトさんは口をポカンと開けたまま固まっていた。不思議そうに首を傾げている私に、ホクルトさんが言う。
「あっ、そっちなんだ? てっきり、自分のレシピをパクられたことに怒るかと思ってたんだけど」
「いやいや、美味しいものが流行るのは良いことだと思うよ? その方が色々なアイデアが出て、私が知らない料理が生まれるかも知れないから」
「すげぇ、前向きな考え方だな」
「でも、そんなもんじゃない? 何でも」
日本でも海外の料理が流行り出したら、オリジナルレシピや日本人好みにアレンジしたものが至る所で見かけるようになった。タピオカドリンクやマリトッツォだって、あんなに見かけたのにあっという間に見なくなった。それでも残るのは味や販売方法などで顧客のハートをガッチリ掴んだ店だけ。
流行り廃りなんて昔からそんなもの。自分が働いていた玩具屋だって、人気商品は転売ヤーまで出るぐらいに手に入らなかったものが気づいたらタダ同然の値段でセールワゴンに入っていることも多々ある。逆に全然売れなかったものも、芸能人や人気ユーチューバーやらが取り上げるだけで、あっという間に品薄になるったりもする。
「……い、おーい、イツキさーん。戻ってこーい」
「へ? あ、ごめん。何だっけ?」
流行り廃りについて考えていたら、みんなの声をシャットアウトしていたらしい。
「だから、王都の携帯食の感想。食べたんだろ?」
「あー食べた、食べた。不味くはないけど美味くもないよね」
「「「「「あっはははは」」」」」
リークさんに感想を聞かれたから、素直に話したらみんなから爆笑された。なんでよ?
「もぉ、イッちゃんったら正直ねぇ」
「まー、それがイツキらしいじゃろ」
「それに、イツキの料理を知っていたら王都の料理なんぞ食べるに値しないわい」
「そうそう。王都の料理は見た目重視で味は二の次なんだものねぇ」
「貴族街の店なんぞ、ただのぼったくりじゃ」
「そうじゃ、そうじゃ」
お爺とお婆の話を聞くと王都の、それも貴族街のレストランは不味いらしい。見た目がキラキラした料理って何? しかも好きな色を聞かれて、それを料理に反映するってどういうこと?
「逆に気になるんだけど……」
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