さよなら世界、ようこそ世界
最終回です!ここまで読んでくださってありがとうございます!
「命は、この摂理をぶち壊す」
「……摂理を?」
命の宣言は女神の魂にとってあまりにも予想外のもので、彼女は思わず復唱して尋ねた。
「うん。輪廻転生のルールを少し変えるんだ。その魂の行いだけではなく、その魂が何故そのような人生を送って来たのか。その深淵も踏まえて魂の色に反映させようと思うんだ」
「そんなことが……?」
「うん。出来るはずだよ。命は創造主だからね」
命の言う様に摂理が今と違っていたのなら、女神が世界に転生することは無かっただろう。世界を終わらせるという大罪を犯したことに変わりは無いが、彼女がそうせずともいずれ世界は終わっていた。その上彼女が罪を犯したのは前創造主のことを思ってのこと。これらが考慮されていれば世界に転生などしなかったはずなのだ。
「そもそも輪廻転生という摂理は始まりの創造主が造ったもの。でも今は命が創造主だから、例え摂理だろうとも壊すことは出来るよ」
同じ時間軸に二人の創造主が存在することはあり得ないので、創造主同士が直接力比べすることは出来ない。そもそも創造主という存在に力の優劣は存在しないので、もし出来たとしても引き分けにしかならない。
だがかつての創造主が残した物なら存在し続ける。その一つが輪廻転生という摂理だ。確かに輪廻転生は始まりの創造主が造り上げたものだが、だからと言って命がそれに干渉できないことは無い。現在創造主として存在しているのは命であって、最上位の力を有しているのは命なのだから。
かつての創造主の摂理を守り抜く力より、今の創造主である命の力の方が上なのである。
「でも……それでも。君を救うことは出来ない」
「……分かっています。私は命様のそのお気持ちだけで、十分救われていますから」
笑顔を消した命は真剣な相好で告げた。一方女神の魂は穏やかな笑みを浮かべていて、命の気に病んでいることなど彼女が少しも気にしていないことを物語っていた。
例え命が輪廻転生のルールを変えても、それはこれから反映されるだけだ。なので女神の魂が世界以外に転生することも無いので、彼女が一生この世界に囚われるという事実は変わらないのだ。
「君がこの世界に転生したのは、罪を償うためだ。でも、命だって君に対して許されないことをした。命もそれを償わなきゃいけない」
「命様……」
現在の輪廻転生のルールに則って考えれば命は何も間違えてなどいない。だが命が今から造ろうとしている摂理において、命は間違え許されないことをしたのだ。
間違えてしまえば、二度と直すことのできない間違いを命は犯した。自身を責める物言いをする命に女神の魂は悲痛な表情を見せる。
「だからね、命。これから毎日君に会いに来るよ」
「……えっ?」
命から告げられた言葉は女神の魂にとって予想外のもので、彼女は思わず呆けてしまう。彼女に分かるのはそれが命が自身に課す、犯した罪に対する罰なのだろうということだけ。
「これじゃあ命の罰にはならないんだけど、君に償うっていう意味なら丁度いいかなって思うんだ。幸い、君は負の感情によって魂に実体を持つことが出来ているし、今みたいに会話ができる。触れることだってできる」
命は両手で彼女の頬にそっと触れる。命の掌を通して彼女の冷たい頬に、生きた温かさがじんわりと伝わる。
女神の魂が実体を持っているのは、彼女の悲しみや苦しみによる力が普通の魂より遥かに上回っていたからだ。それ自体は悲劇と言っても過言ではないが、そのおかげで命と彼女がこうして触れ合えているのも事実なのだ。
「だから毎日、毎日。君と顔を合わせて、他愛もないことを話しに来るよ。命だけじゃない。命の子供たちも連れてくるから、騒がしくなるかもね」
「命様っ……!…………いいのですか?ほんとうに?」
満面の笑みを浮かべた命は、楽し気にそんな提案をした。
世界という存在が最も穢れた魂の転生先となる要因は、孤独。これに尽きてしまう。
今回のようなイレギュラーさえ起きなければ、世界の魂は意識を保ったまま動くことも話すことも出来ず、永遠の孤独を味わう羽目になるのだ。
だからこそ、命の提案は女神の魂にとってこれ以上ない幸福で、自分がそんな価値のあるものを貰ってもいいのだろうかという不安が彼女を襲う。
「いいに決まってるでしょ?命が来たくて来るんだから!まぁ、武尽辺りを連れてくるのは至難の業だけど…………命頑張るよ!」
「ふっ……あははっ……ありがとう、ございます。命様」
他の神であれば嫌な顔一つせず命と来てくれるだろうが、戦闘にしか興味のない武尽を説得するのは少々骨が折れるだろう。
両拳を握り締め、鼻息を荒くし意気込んだ命に、女神の魂は思わず声を上げて笑う。だが徐々に笑顔に泣き声が混じり、泣き笑いのようになった彼女はぐちゃぐちゃの顔で礼を述べた。
「そうだ!君に名前も付けなくちゃね」
「お名前を、下さるのですか?」
「うん!だってバクスなんて呼ばれたくないでしょ?」
魂に名前を付ける。前代未聞のことだが、命はその必要を感じたのでそんな提案をした。彼女に今名前があるとするならば、それは転生体の世界であるバクスだ。だが世界の名称で呼ぶのは流石に違和感があるので、命は彼女の魂に名前をつけたかったのだ。
「そうだなぁ……ミリアっていうのはどう?」
「ミリア、ですか?」
命から提案された名前に女神の魂は首を傾げた。命が自身をそう名付けた理由が分からなかったからだ。
「命の〝ミ〟とリアちゃんの〝リ〟そして前創造主の転生体だった勇者アランくんの〝ア〟でミリア。どうかな?」
「っ……ありがとうございます……!」
命が名前の意味を告げると、ミリアは感極まったように頭を下げた。ミリアが前世で慕っていた前創造主には名前が無かったので、転生体だったアランから一文字。そしてミリアが同じく前世で親しくしていたリアから一文字。そこに命の一文字を加えて名前を付けたのだ。なのでミリアがそのような反応をするのも無理は無かった。
「ずっと、ずっとだよ。命、家族もっとたくさん造って、ミリアに孤独なんて感じさせないからね」
「はいっ……毎日、お待ちしております」
創造主は創造主自身が望まない限り死ぬことは無い。それは世界も同様に。逆に言えば創造主が死ねば世界も消滅してしまう。
つまり命が生きてさえいれば、世界も生き続けるということでもあるのだ。
だからこそ命の言った〝ずっと〟は本当の意味での永遠なのだ。命と世界はその命で繋がっていると言っても過言ではないのだから。
「覚悟しておけ」とでも言いたげな命はミリアに向かって右手を差し出した。真珠のような美しい涙を目に溜めたまま、ミリアは笑顔を浮かべその手を取った。
こうして前創造主時代から始まった悲劇は終わりを迎え、命は本当の意味で〝命の世界〟を造ることになったのだ。
余談だが、バクス以外で起きた世界の自然崩壊は命が対応したことで真の終幕を迎えた。神々の対応はその場しのぎだったので仕方がないのだが。
あの自然崩壊はバクスの特殊能力のエネルギーが原因だったので、そのエネルギーを元に戻す必要があったのだ。命がそれを実行したことで自然崩壊は面白いぐらいあっさりと止まり、バクスの人々の特殊能力も元に戻った。
ちなみに武尽は噴火のエネルギーを自身の神力に変換してしまったので、命は彼の神力を取り出してバクスの特殊能力のエネルギーに変換するという他とは少々違う対応をする羽目になった。
武尽が優秀だった上に起きたイレギュラーだったので、命は叱るに叱れず何とも言えない相好を見せたのだった。
そして世界での事件が一段落つき、天界に集結した命と神々はどこか緊張感を漂わせていた。
「……みんなガン見しすぎだよ」
「「もっ、申し訳ございません!」」
命に指摘された神々は自分たちが注目しすぎていたことを自覚し、咄嗟に頭を下げた。息ぴったりなその様子に命は思わず苦笑いを零す。
「お前が輪廻転生の摂理を変えるなんて言うからだろ?そりゃ気になるわ」
「でも創造主の力でするから何にも面白いことなんてないんだけどなぁ」
武尽は他の神々とは違いガン見などしていなかったが、それでもかなり気になっていたようだ。だが命からすればいつも通り、望むことをイメージするだけなので特別なことではないのだ。
命は目を閉じると静かにイメージした。魂の色がその人物の行動だけで反映されるのではなく、何故そうしたのか等と言った詳細な事情も組み込んで表れるように。必死に想像した。
「「…………命様?」」
「ん、なに?」
「お、お顔の紋章が……」
「紋章?」
命がイメージし終え目を開くと、そこには何故か目を見開きポカンとしている神々の姿があった。だが命には神々がそこまで驚愕する理由が分からず首を傾げてしまう。
命の問いに答えたのはデグネフで、彼女の目線は命の顔部分に注がれている。デグネフの言う紋章は創造主のみが持つもので、これが出ている間はオーラを隠していないということの証明になる。
命は鏡を創造し、自身の紋章を確認すると神々と同じような反応を見せる。
「あらま。なにこれ?」
鏡に映った自分の姿に、命は思わず呆けた声を出してしまう。それもそのはず、命の創造主としての紋章は今までのものとは全く異なっていたのだ。
今までの紋章は命の顔の左側に白金の光を灯していた。だが今は顔の左側だけではなく、右側にも紋章が現れていたのだ。しかもそれだけでは無く、白金のはずの紋章が何故か息を呑む様な鮮紅色に変わっていて、命は鳥肌が立つ感覚に襲われた。
「何で変わってんの?怖いんだけど」
「恐らくですが、命様が輪廻転生の摂理を変えたことが原因では無いでしょうか?元々の輪廻転生は始まりの創造主様がお造りになったものです。ですので、今までの紋章は始まりの創造主様のものを、命様が受け継いだ形だったのでは?」
「なるほどね……命が輪廻転生のルールを変えたから、紋章が始まりの創造主じゃなくて、命のものに変わったってことか」
おずおずと手を挙げ、自身の意見を述べたのはデグネフだ。命にも分からないことなのでデグネフの意見は推測にしかならないが、その可能性が高いと命は考えた。
ミリアと相対した際、彼女が命のオーラを見て泣き出したのは、そのオーラが前創造主と全く同じだったからだ。それはつまり今までの紋章は創造主のものであって、命のものではなかったことを意味していた。
なのでデグネフの推測を軸に考えると辻褄が合うのだ。
「これで。ようやく始められる…………ね、祈世。命は、祈世が好いてくれるような世界を作れたかな?」
「っ……はい!もちろんですっ!」
満足げに破顔した命は、かつて約束を交わした存在に優しく尋ねた。その言葉で、あの日あの時あの瞬間を思い出した祈世は思わず涙を浮かべると、明るく首肯した。
一方、祈世との約束をようやく果たすことが出来た命は心底楽しげに笑っている。
「あ、そうだ武尽。武尽も命と一緒にミリアに会いに行ってくれる?」
「………………まぁ、行ってやらんこともない」
「ふふっ……やっぱり武尽はなんだかんだで優しいなぁ」
「はぁ!?」
上機嫌のまま尋ねた命に、武尽は「ツンデレか」とツッコまれても仕方のない様な返答をした。最大難関であった武尽の攻略が成功できたので命は嬉々とした表情で宙に浮かぶと、彼の頭をいつものように撫でた。
それが不服だったらしい武尽の怒鳴り声を皮切りに、天界に神々と命の笑い声が響き渡った。その音色は大きく広がっていき、天界にはいないミリアにも届いていきそうな程だ。
こうして始まった命の世界はきっと――。
命の笑顔が途絶えない限り、終わることは決して無いだろう。
さよなら世界、ようこそ世界
――完――
今まで本作を読んでくださった皆様、ブックマーク登録や評価をしてくださった皆様、本当に本当にありがとうございました!ここまで来れたのは皆さまのおかげです!
番外編などのご希望があれば、執筆する所存ですので感想などお待ちしております!
「さよなら世界、ようこそ世界」が完結しましたので、現在次回作を執筆中です。
タイトルは「アクトコーナー」です!
異世界もファンタジー要素もゼロですが、主人公がチートだとだけ伝えておきます。ファンタジー要素のない話はいくつか個人的に執筆したことはあるのですが、小説家になろうで投稿するのは初めてです。投稿日は未定ですが、興味のある方は楽しみに待っていただければ幸いです。
↑こちらの作品投稿いたしました!(2020.9.06.16:00)
https://ncode.syosetu.com/n2028gm/




