インフェスタの最強幼女
インフェスタ。それは祈世・リンファンペアが管理を任されている世界の一つだ。インフェスタの中で意思を持った種族は人間だけで、あとは攻撃的なモンスターがいるだけの剣と魔法の世界だ。
魔法の才に恵まれた人間はモンスターを狩る仕事に就く者が多く、中でも精鋭と呼ばれる人々は一目置かれている。だが魔法が全てだと主張する程の魔法至上主義だった以前のヒューズドとは違い、互いが互いの長所を認め合うのがインフェスタの特徴だ。
インフェスタの簡単な説明はさておき。現在命は〝インフェスタ最強の人類〟と自称した幼女の老人のような話し方が気になって仕方ないのか、うずうずとした反応を見せていた。
「えっと、わらわちゃん。お名前は?」
「わらわの名はソヨじゃ。そよ風のソヨじゃぞ。美しいじゃろう?」
取り敢えず命が気になっている事項は保留にしつつ、命は幼女の名前を尋ねた。幼女はその容姿に似合った和風の名前を告げ、誇らしげに胸を張った。服装といい話し方といい、どうやらソヨは自分の和風な名前を大層気に入っているようだ。
「えっと。じゃあわらわちゃん。とりあえずお話聞きたいんだけど、少し待っててくれる?この子に服を着させたいからさ」
命は未乃の方を指さすと眉を下げてソヨに頼んだ。いきなり上空からソヨが降ってきたせいで未乃はまだ命の用意した衣服に着替えられていなかったのだ。
「ん?其方、どうして布切れ一枚なのじゃ?」
「主に貴殿が原因だが……まぁいい。命殿、こちらから好きに選んでいいのだな?」
「うん。未乃の好きなものを選んで」
未乃が素っ裸同然のままでいた原因そのものが悪意ゼロで尋ねてきたせいで、未乃はソヨに薄ら目を向けた。未乃はため息をつきつつ、命が用意してくれた衣服の中から最適なものを選んで着替え始めた。
「待つのじゃ命。何故こやつのことは名前で呼び、わらわのことは名前で呼ばないのじゃ?わらわのこともソヨと呼ぶのじゃ!」
自分の名前に誇りを持っているソヨからすれば、〝わらわちゃん〟という呼び方には少々不満があったのか、ソヨは膨れ顔で抗議をした。
「そういえば命様は僕たち以外をあまり名前で呼びませんね」
ソヨの抗議でふと思い出したように呟いたカルマに、神々は同意を示すように「あー」と声を漏らした。
確かに命は神々以外をあまり名前で呼ばない。前創造主の魂の持ち主だったアランのことは勇者くん、未乃が前世でザグナンだった頃は魔王くん、そして楓佳のことは神子ちゃん。
全く呼ばないというわけでもないが、ほとんど命は神以外を名前では呼ばなかった。その為カルマの意見は尤もだったのだ。
「そういえばそうだな……ま、どうせ大した理由なんてねーだろーけど」
武尽が興味なさそうにしていると、未乃は既に着替え終わっていて命はそちらに気を取られていた。
未乃はノースリーブのパーカーに黒のレギンス、その上からショートパンツをはいていた。因みにパーカーは背中から腕にかけて生えている羽を考慮して丈は短く、腕を通せるように両脇部分の下からチャックがついていた。そして胸にはさらしを巻いていて、ますます中性的な容姿に変貌していた。
「未乃似合ってるよ!それじゃあ早速お話聞くための準備しないとね」
完全に自分の怒りを無視されているソヨは恨めしそうな視線を未乃に向けた。
そんなソヨを余所に命は広間に畳とお茶菓子を用意していた。するとソヨの怒りは一瞬で吹き飛んだようで、キラキラと目を輝かせながら和風の装いに釘付けになっている。
天界に自然な畳の匂いと、優しい甘い香り、抹茶の渋い香りが充満し、その場にいる者をリラックスさせている。そして神々は畳を囲むように立ったままでいた。
一方命は畳の上に正座するとソヨにも脚を休めることを提案した。ソヨは勧められるがままに正座すると、すぐさま目の前に鎮座するお茶菓子と抹茶に食いついた。
「それじゃあ改めて聞くけど、わらわちゃんはインフェスタの子なの?」
「そうなのじゃ。わらわはインフェスタで生まれて二五年の年月を生きてきたのじゃ」
「「…………」」
口をもぐもぐとさせながらあからさまな法螺を吹いたソヨに神々は思わず呆けた表情を向けた。人間はエルフと違い寿命が短く、成長が早い。目の前の幼女がエルフなら今の話も信じられるが、ソヨは自分で人類だと認めている上にインフェスタにエルフは存在しない。
なのでこの完全見た目幼女なソヨの齢が二五だなんて信じられる訳が無かったのだ。
「言っとくけど皆。わらわちゃん嘘はついてないよ」
「!!」
「わらわちゃんの場合、成長のための魔力も自分の魔法に転換しちゃってるんだと思う」
「流石は創造主なのじゃ。その通りなのじゃ」
釘を刺すように言った命に神々は驚愕の表情を向けた。そんな命に感心するような視線を向けたソヨはどこか嬉しそうで、ソヨが長年この見た目のせいで苦労してきたのだと察することが出来た。
インフェスタの人間は自分に秘められた魔力を魔法と成長のために活用している。魔力が少ない者や、魔法を行使する才能が無い者は、その魔力を自分の成長にしか有効活用できないが、これらに該当しない者は別だ。
魔力を多く保持し、尚且つ魔法を行使する才能のある者は優秀な魔法使いになることが出来る。
ソヨも優秀な魔法使いだというのは内から窺える魔力量で神々も察していた。だがソヨの場合、多すぎる魔力を何故か成長に有効活用できていなかった。成長というのは意図せず自然にするものなので、ソヨの素質に問題があるわけではなく、何か別の要因があるのだろう。
ただ成長のための魔力も魔法に有効活用できるので、ソヨが放つ魔法は格段に威力が上がるのだ。
「じゃあわらわちゃん、どうやってここに来たの?ここ天界だよ?」
「ふふっ……あまりわらわの力を舐めてもらっては困るのじゃ。わらわはインフェスタ一の魔法使い。異世界転移はもちろん、世界とは全く異なる空間である天界にだって、簡単に転移することが可能なのじゃ。わらわに転移できぬ空間など無いのじゃよ」
どうやらソヨは魔法でこの天界にやって来たようで、命たちはソヨの秘めたる才能に目を剥いた。そもそもただの世界の住人が干渉することなどほぼ不可能な天界に、魔法の力だけでやってきてしまうなんて常識外れも良いところなのでその反応は正常なものだった。
「思いっきり落下地点ミスってたけどな」
「なっ!あれはケアレスミスなのじゃ!普段と勝手が違って焦っただけなのじゃ!馬鹿にするでないのじゃ!」
思いっきりどや顔なソヨに武尽はそんな指摘をした。ソヨが上空から降ってきて、それを命が受け止めた事実は消せないので、ソヨは顔を真っ赤にしながら自己弁護をした。
いちいち目敏く指摘する武尽に苦笑いを浮かべつつ、命は口を開いた。
「それじゃあわらわちゃんは異世界に行ったことあるんだ」
「もちろんじゃ。一番気に入ったのは炎乱じゃったなぁ……わらわは炎乱で和というものを知り、インフェスタに広めたのじゃ」
「なるほどね」
そこでようやく命は謎が解けたとでも言わんばかりに呟いた。何故ならインフェスタという世界に和の文化は本来存在していなかったからだ。
にも拘らず、ソヨは和服に身を包み、古風な話し方をし、本来なら見たこともないであろう抹茶や和菓子に何の躊躇もなく飛びついた。
インフェスタだけで生きていれば関わることもないだろう和に、ソヨがどっぷり浸かっている理由が炎乱にあるのなら全ての辻褄が合うのだ。
「炎乱は良いのじゃ。漢字も和服もあんこも全てが素晴らしいのじゃ。わらわはすっかり和の虜なのじゃ」
「あんこが好きなの?それならどら焼きを出したのは正解だったかな?」
「うむ!実に美味なのじゃ!命はこんな甘味も作ることが出来るなんて……天才なのじゃ!」
ソヨはどら焼きの最後の一口を口に放り込むと、両頬を押さえて恍惚とした表情を見せた。甘いもの好きなソヨの一番のお気に入りがあんこのようで、命は微笑ましいものを見る様に破顔した。
「あ……もしかして命のことを知っていたのは神子ちゃんに会ったから?」
「その通りなのじゃ」
ソヨの満面の笑みを眺めていた命はふと勘付いたように尋ねた。ソヨの肯定で命は第二の謎が解けたように納得した。
命が〝神子ちゃん〟と称したのは楓佳ではない。現在の神子――楓佳の子孫である弥永という少女のことだ。
今の炎乱は危機的状況になど陥っていないが、楓佳の時代からの伝統が引き継がれ、今でも楓佳の子孫が神子として活躍しているのだ。
命は楓佳と廻の子孫である弥永に度々会いに行っているので、弥永は当然命や神々の存在を認識している。そしてそんな弥永にソヨが異世界転移をきっかけに出会っていたのなら、初対面で命の名前を呼んだのも納得できたのだ。
「インフェスタの連中は神など信じていなかったのじゃが、わらわが炎乱に赴き神の存在を知ってからはその考えを改めたぐらいじゃ」
「ふーん、そうなんだ。……じゃあ最後の質問ね。どうして天界に来たの?」
命は最も気になっていたことをソヨにぶつけた。ソヨの素性や秘めている力、何故命や神の存在を知っているのかは解明できたが、最も重要なことがまだ不明だったからだ。
「……先に詫びを入れさせて欲しいのじゃ。本当にすまんのじゃ。わらわは安易に其方たちの存在をインフェスタに伝えるべきではなかったのじゃ」
「……どういうこと?」
途端に表情を暗くしたソヨは膝の上で拳を握り締めながら謝罪した。理由の分からない謝罪に命は怪訝そうな視線を向けて尋ねた。
「インフェスタの人々は、神々に敵意を持っているのじゃ」
次は明後日更新予定です。
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