お泊まり3
「こちらが使っていただく部屋です。」
ソフィアに案内されたのは、2階にある12畳ほどの部屋だった。
ベッドと机、椅子と燭台が置いてあるだけのシンプルな部屋である。
「いいのか?ここをつかって。」
「いいですよ。主もいない部屋ですしね。」
「そうか。それなら使わせてもらうな。」
だが、寝るにはまだ早い。とりあえずいつもの日課のために裏庭を借りることにした。
日課の内容を伝えると、ソフィアが見学したいといってきたので、あまり過激じゃないものにした。
「すーー、はーー、っ………………!」
ボッ!という音がした後、ロイの周りに極小の炎が出現する。
上達したからだろうか。昔は拳ぐらいの大きさが限度だったが、今ではマッチの炎ぐらいまで小さくできるようになった。
数も50から70ぐらいまで増やすことが出来た。
小さな炎を動かす。お互いにぶつからないよう、瞬時に軌道を計算し、頭の中でラインをひく。
あとは炎をラインに沿わせるだけ。誤差があれば少しずつ直し、時々、動かすラインをずらす。崩れた炎のラインを再計算、再構築。
崩して、整えて、また崩す。
その繰り返しだ。これだけでスキル、『魔力制御』と『並列思考』、『大演算』を強化できる。
「そんな。うちの第4位でもこんな………。」
ソフィアはこの光景をみて呆然としているらしい。確かに、これほどの魔力制御をできるのはこの国で10人もいないだろう。
並列思考で魔力制御と大演算を同時に行使しながら、余ったもう1つの思考でソフィアに話しかける。
「この街の第4位とは、魔法使いなのか?」
「えっ、ええ。『烈風の魔女』と呼ばれる方です。15歳にして『風の魔女』のジョブを持ってる天才なのですが、ロイさんを見ていると大したことが無いように感じちゃいます。」
魔女系のジョブか。それを15で取得する事は並大抵の事じゃないだろう。
「ん、第4位が最も優れた魔法使い系の冒険者なら第3位以上は、近接戦闘系のジョブなのか?」
「はい。第3位は『獣王』のジョブを持つ『牙王拳士』と呼ばれる白琥の獣人のかたです。第2位は『天翔脚』と呼ばれる方で、ジョブは確か『風脚闘士』です。」
「 琥人の拳士に風の脚闘士か。」
「この2人はいい人達ですよ。どんなに強くても驕ったりし、鍛錬を欠かさない。仲間を大切にし、ギルドからの依頼も快く引き受けてくださいます。」
「その口ぶりからすると、第1位は良くないのか。」
ロイは気になったとこを指摘すると、ソフィアは顔を曇らせた。
「ええ、第1位は、『七人の勇者』の一人。『剣の勇者』のジョブを授かった方です。」
「『七人の勇者』?」
「ご存知ありませんでしたか?『七人の勇者』というのは、神話職業の一種です。神話職業とは、神話に出てきた伝説のジョブのことを指します。有名なのは『七人の勇者』のほかに『天啓』の7つや『神の寵愛を授けられし者』。『聖女』、『戦乙女』、『天災』などがありますね。」
「その伝説のジョブを何故、冒険者が持っている?」
「『七人の勇者』は、神話職業の中で最も出現するジョブです。今は、七つのうち六つ、勇者様が確認されていますよ。」
神話のくせに随分と出るものなんだな。
俺の『天才』はどうなのだろうか。『天才』もかなり特殊なジョブなはずだ。発現した時、かなり調べたのだが、前例が全く見つからなかった。
まあ、流石にソフィアに自分のジョブを見せるわけにはいかないが。
「で、その勇者様が何故評判が良くない?選ばれた者何だろ?」
ロイの言葉に顔を歪ませるソフィア。どうやらかなり苦手に思っているらしい。
「勇者様は、なんというか自信家というのか、自己愛が強いといえばいいのか...。」
「つまり、ナルシストか。」
「ええ、まあ。」
確かに自分が特別な存在だと知ったら増長してしまうものだろう。
ヒュウと夜風が吹いてきた。今は12月。冬真っ盛りである。自分は問題ないがソフィアはつらいだろう。日課の鍛練はここまでにすることにした。
部屋に入ることを促すと、ソフィアは真顔で口を開いた。
「ロイさんは、私のことをどう思っていますか?」
変なことを聞いてくるな。
「大切な友人だと思っているが?どうかしたか。」
逆に尋ね返すと、ソフィアは慌てたような顔をして首を振る。
「い、いえ。気になっただけですので。」
「そうか。」
ソフィアがそういうのならばそうなのだろう。
ロイは何も疑問に思わない。
「ごめんなさい。ロイさん。」
2階の部屋に上がるロイの後ろ姿を見ながらそうつぶやくソフィアにロイは気付かない。




