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調査失敗

「よォし、お前らよく聞け!」

 もっさりとしたひげがむさくるしい団長ライリーが声をあげ、団員たちはぴしりと姿勢を正していく。

 これからはじまるのは、盗賊団フライハイトの日課である、食事の前のあいさつだ。


「ここイーリス海域は基本的に穏やかだが、いつモンスターが襲ってきてもいいように武器の手入れだけは怠るな! 何もねーからって、見張り番は気ィ緩めるんじゃねーぞ」

 ライリーが声をかけると今日の見張り担当が「アイサー!」と返事をする。


「よし! じゃあ今日も事故なく頼むぜ」

 ライリーの声かけに団員たちは高らかに返事をし、食事を始めた。


――・――・――・――・――・――


 右を見ても左を見ても盗賊だからか、フライハイトの食事風景はいつも騒がしい。


 そこはかとなく上品さが漂うカルロや航海士のレヴィ、寡黙なケヴィンとファルシードは例外だが、食事を口に含みながら会話をするというのは、ここでは日常茶飯事のことだ。

 しかも、聞こえるようにそれぞれが大声で話すものだから、小さな声では何を話しているかさっぱり聞き取れない。


 あまりにもうるさいこの状況では、情報収集も何もあったものではない。


 どうしたものか――とリディアが下を見ると、ファルシードが何かを訴えようとしているように見える。

 だが、ただでさえ声が小さいため、全くと言っていいほどに聞こえなかった。



 ――どうしよう。あんまりポケットの中ばかり見ていると不審がられてしまう……


 団員たちの視線を確認しながら、気付かれてしまわないように何度も下を見ていると、いつの間にかポケットの中がからっぽになっていた。


 ――嘘!? ファルが、いない……!


 リディアから表情が消え、さあっと血の気が引いていく。

 うるさかったはずの団員たちの声も耳に聞こえなくなってしまったリディアは、呆然として固まってしまっている。


 すると、耳元で彼女の名を呼ぶ声がした。

 ファルシードは声が届いていないことにしびれを切らしたのだろう。

 リディアの背中をよじ登ってきていたのだ。


 肩にのった状態ならば、亜麻色の長い髪が姿を隠してくれるし、声も届く。

 彼はそう考えていたのだろうが、リディアにとってそんなことは知る由もない。


 消えたはずの人の声が耳元でして驚き、そちらを見ると、小さなファルシードが髪のカーテンに隠れてそっとたたずんでいる。


「ああよかったぁ~。そこにいたんだね!」

 消えたファルシードにまた会えた喜びに、リディアは思わず声を発していく。

 それは騒がしい食堂の中では、微かな声でしかない。


 だが、たまたまその声を聞き取れてしまい、ファルシードの姿に気づいてしまったのは……

 運悪く、船内一騒がしい男だった。


「ぬ、あ、あ……どどど、どういうことっスか! キャプテンみたいな人形が、ううううう動いてるんスけども!!」

 勢いよく立ち上がったバドは、微かに震えながら、リディアの肩のあたりをびしりと指差してくる。



 大きすぎるバドの声と大げさすぎる動作とで、団員たちは会話をやめて、一斉にリディアへと視線を送ってくる。


「ええと、これは……」


 ――どうしよう! 良さそうな言い訳が、一つも思いつかない……!


 助けを求めて首を動かし、自身の肩にいるファルシードに涙目で視線を送ると、ファルシードは“諦めろ”とばかりに深いため息をついて、リディアの肩に腰かけてきた。


 動きを見せたファルシードの人形に一瞬だけ食堂はしんと静まり返り、すぐさま火がついたように一気に騒がしくなる。


 「なんだあれ!?」だとか「ありえねぇ!」だとか、あちこちから疑問の声が飛び交っていて、とても話ができるような状況ではなくなってしまった。


「おい。とりあえず、静かにしろ。おい、聞こえねぇのか!? 黙れっつってんだ!」

 見かねた団長が大声をあげたことで、食堂内は再び落ち着きを取り戻す。



 「一斉に話すと、わけがわかんねェんだよ」と苦笑いをした団長は、リディアに説明するよう求めてきて。

 リディアはこくりとうなずき、昨日からの経過を皆に伝えたのだった。



――・――・――・――・――・――


「ああ。だから今朝、あんなおかしなことを」

 リディアが話を終えたあとに、ケヴィンがぽつりと言う。


 その言葉に思い出すような仕草を見せたバドは、そっか、と口を開いた。 

「願いのキャンセル方法がどうとかーって、変なこと言ってんなぁとは思ってたけど、このことだったのか~」


 ――“おかしい”と“変”……か。

 リディアは上手く聞き取り調査ができていなかったことを知り、苦々しく微笑む。

 自分では上々の出来だと思っていたのだが、どうやらそれはとんでもない見当違いだったようだ。 



 自身のあごに手をあてて、うむむと考え込むケヴィンは、怪訝な顔で視線を向けてくる。

「姿が戻らないということは……リディア、ひょっとしてまだ願いを叶え足りない、のか?」


「おいケヴィン、余計なことを言うな」

 ケヴィンの問いに、リディアの肩に腰かけていたファルシードが跳ねるように立ちあがる。

 恐らく、昨晩のように吊り下げられて左右に振られるのはもう、こりごりだったのだろう。


「ん? キャプテン、なんでしょう?」

 声が小さくて聞き取れなかったようでケヴィンはそう問うてきて、リディアは苦笑いを浮かべながら口を開いた。


「余計なことを言うな、だそうです」


「ああ、なるほど」

 ケヴィンは微かに笑う。

 普段あまり笑わない彼が笑うなど、よほど小さくなったファルシードの反応が面白かったのだろう。


「それにしても……そのサイズじゃ、不便だろう」

 団長のライリーは真剣な表情をしているように見えるものの、わずかに目元が緩み、肩も細かく震えている。

 人形の姿が面白いと思いつつ、このまま戻れないとなったら深刻な出来事であるため、表情だけでも繕っているのかもしれない。


 その反応が気に食わなかったのか、ファルシードは、じとっとした目でライリーのことを見つめていた。



「これはこれは。ずいぶんと可愛いサイズになっちゃって。ますます女の子にモテそうですねぇ」

 カルロは楽しそうに微笑んでいき、リディアはケヴィンに朝言われたことをふと思い出す。


「あ、そうだ!」

 急に身体を動かしたことで、ファルシードが大きくよろめき、それを助けようと団員たちは一斉に身体を前のめりにさせてきた。


「おい、急に動くなと何度言ったらわかるんだ……」

 バランスを取り戻して、座り込んだファルシードは呆れたように言ってくる。


「ごめん、つい……」

 リディアが謝り、団員たちもファルシードが落下しなかったことにホッと息をついて、椅子に座り直した。


「それで、さっきのは“そうだ”は一体なんだったんですか?」

 穏やかにカルロが尋ねてきて、リディアは“そうだった”と、口を開いた。


「カルロさん! 奇跡の虹にかけた、願いの解除方法を教えてください!」

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