願いの解除方法は
願いの解除法を教えて欲しい。
前のめりになりながら語るリディアの勢いに押され、カルロは目を見開いていたが、すぐにその目を柔らかく細めた。
「心配なさらなくても、二つ目の願いが叶うか、時間がくれば、キャプテンは自然と元に戻ります」
「二つ目の、願い……?」
リディアと団員たちは、首をかしげて問いかける。
その様子を見てきたカルロは、微笑みを崩さないまま、再び口を開いた。
「奇跡の虹。あれの効力は長くないんですよ。もって、二日なんです」
「わ! よかったぁ。二日なら、あと一日だし。よかったね、ファル!」
リディアは肩に乗るファルシードに笑顔を向けたが、彼から発せられる空気は、不機嫌そのものだった。
「おい。さっきのセリフ……! テメェ、何か企んでやがったな」
ファルシードから怒りに満ちた声がするが、カルロは「そのサイズで怒っても、全然怖くないですねぇ」と、からから笑う。
「あの、カルロさん?」
不思議に感じたリディアが恐る恐る話しかけると、カルロはおっとりと話しだした。
「本来なら、リディアさんの願いが叶った時点で、キャプテンの姿は戻るはずだったんですよ」
「へ? じゃあ何でキャプテンは、ちまっこいままなんだよ!?」
バドが眉を寄せて、わけがわからねー、と呟いた。
カルロは自身の口元に手を添えて、クスクスと微笑んでくる。
「可愛い姿のまま戻らないのは、たぶん……僕の願いが残ってるからでしょうねぇ」
「は!? どういうことだ」
ファルシードは、リディアの肩から飛び降りて机の上に着地し、ひょこひょことカルロに向かって駆けていく。
ファルシードは机の端にたどり着き、カルロを睨むように見上げた。
一方のカルロは柔らかく目元を緩め、両手ですくうようにファルシードを持ち上げていく。
ファルシードを視線の高さまで持っていったカルロは、微笑むようにそっと口を開いた。
「最近、キャプテンとリディアさんは、ゆっくりと過ごせていないように見えたので。二人で一日中ゆっくり過ごしてもらおうと思ったんです。余計なおせっかいでしたか?」
「カルロ、テメェ……!」
普段なら、カルロがファルシードに振り回されていることが多いのだろうが、今回ばかりは完全に形勢が逆転していた。
ファルシードも小さい身体では、どうすることもできないようだ。
リディアは、呆れ笑いを浮かべながら視線を二人から外していく。
すると、それまで無言のまま状況を見守っていた様子のケヴィンが、はた、と顔を上げていくのが目に入った。
「その願い、叶えないとどうなる? まずいことには、ならないだろうか」
このままではファルシードは、カルロの願いを叶えまいと、意地でもリディアから離れていこうとするだろう。
ケヴィンはそれを心配していたようだ。
だが、カルロはファルシードをそっと机の上に戻して、大丈夫です、と微笑んだ。
「たぶん、半強制的にリディアさんといることしか、選択できなくなってますから」
どういう意味なのだろう、とリディアが考えていると、団長のライリーが納得した様子で声をあげた。
「テメェらに預けられたらおもちゃみたいに遊ばれて、おれに預けられても、酔っているうちに踏まれるかもしれないってことか」
「はい」
にっこりとカルロは笑顔を浮かべ、ファルシードは対照的にがっくりとうなだれて、深いため息をついた。
「本当に、明日の昼には戻るんだな?」
「ええ、間違いなく」
ファルシードの問いに、カルロは大きくうなずく。
「よぉし、よかったよかった。これで一件落着、ってことで! そんで、ところでよォ!」
バドが唐突に机から身を乗り出して、団員全員に顔を向けはじめた。
団員たちも、何か企んでいるような顔をするバドのほうに一斉に視線を向ける。
全員の視線が彼に向いたところで、バドは人差し指をぴっと立てて、前歯を見せながら笑った。
「願い、あと一個残ってんじゃねーの!?」
その言葉に、食堂が一斉に沸き立つ。
三人までなら願いを叶えてくれるという奇跡の虹。
それはただの言い伝えで、効力はないと、これまで皆思っていたのだろう。
だが、それは誤りで。
間違いなく願いを叶える効果があることを、目の前のキャプテンが証明してくれているのだ。
食堂は一気にお祭り騒ぎとなってしまった。
「可愛い女の子を二日だけでも彼女にしたい」と言う者もいれば「上等な肉を腹いっぱい食いたい」と叫ぶ者もいる。
「女に囲まれたい」だとか「二日間係の仕事をしないで、だらだらしたい」と、渇望している者もいた。
「なぁ、また虹出てねーかな?」
団員の一人がそう話して、団員たちは我先にと扉へ向かおうとする。
リディアがおろおろとした様子で見つめていると、ケヴィンが立ちあがって「行っても無駄だ」と呟くように言った。
一瞬団員たちの動きが止まり、ケヴィンは再び口を開いていく。
「三つ目の願いは……俺がかけてしまったから」
淡々と『願いの枠がなくなったこと』について話す彼に、団員たちは意気消沈してしまったようで、うなだれてしまっている。
その中で、バドは一人、興味深そうな顔で微笑んでいた。
「へぇ、ケヴィンが虹に願いだなんて、現実的じゃないことするの、めっずらしーなぁ! んで、何て願ったの?」
にかっと微笑みかけるバドに、ケヴィンも微かに口元を緩めた。
「俺は……この船がこれからも平和でいられるように、と」
低めの声でゆったりと紡がれたその言葉に、食堂内はしんと静まり返っていく。
団員たちは皆、欲望ばかりを口にした恥ずかしさからか、わずかに顔が赤く染まっている。
リディアも、どうでもいい願いをかけてしまったことにいたたまれなくなってしまって、顔を赤らめながら、うつむかせていた。
バドは、先ほどとはうってかわってしまった周りを見渡して、吹きだしていく。
「ケヴィン、お前はまったくもー! いいとこばっか、とってくんじゃねーって!」
「いいとこ?」
ケヴィンは意味がわかっていなかったようで首をかしげていた。
「ったくもう、テメェらは、しょげんじゃねェよ」
ライリーは、近くにいた団員たちの背中を、バシバシと乱暴に叩きはじめ、立ちあがってまた声をあげていく。
「全員素直で元気があって、結構なこった。今日もウチはいつも通り騒がしくて平和、それが何よりだろ!」
そう言って、声をあげながら笑っていたのだった。




