04 思っていたよりまだ新鮮
このままではまずい。と、そう思った瞬間のことだった。
『ぼふんっ!!』
と、間抜けな音を響かせて、私の胸から黒煙が上がる。
それを浴びたお嬢様の顔が、ちょっと黒っぽい煤で汚れる。
煙の向こうに映るその表情に、大量の疑問符が浮かんでいる。
「……なぜ?」
心底わからないと言った様子で首を傾げるお嬢様を見て、なにかいたたまれないような気持ちになってしまう。
クリメイション。その呪文を唱えながら触れたアンデッドは、瞬く間にその身を焼かれて消し炭になってしまう……はずなのだけれど、何故か私には効かないらしい。
「まさかあなた……まだ生きて!?」
「あ、いや。多分そういうわけでは」
「きゃあ、クリメイション!!」
腰を抜かしてもたれかかった彼女の口から、またしても唱えられる火葬の奇跡。
そしてまたしても上がる黒煙。
白のドレスが立派に煤けて、胸の中心が真っ黒になっている。
それでまたしても困惑するお嬢様の横から、ため息と共に足音が近付く。
「ご満足いただけましたか、お嬢様」
白を金色で縁取った、聖騎士のコートに純白のマント。
言わずもがな、我らがフェリクス・アレムガルド様だ。
彼は事情を知っているのにもかかわらず、ここまで全くの無干渉だった。
そのことに抗議の目線を送る私には目もくれず、彼は道中に落ちた直剣を拾って、近寄ってきた従者さんに手渡している。
どうやらそれはお嬢様の持っていたものではなく、従者さんから借りたものであったらしい。
剣を手渡された従者さんは、自分の腰に残っていた鞘に収まっていく。
「これはどういうことですか、フェリクス」
「どうもこうも、ただあなたが思っていたより、彼女はまだ新鮮だったと、それだけのことです」
「なんですって……?」
「つまり、エルカはアンデッドではないのですよ。お嬢様」
驚愕に目を見開いて、私とフェリクス様を交互に見やるお嬢様。
そのうちきょろきょろと見回す首は私の方で止まって、私とお嬢様の間に奇妙な沈黙が訪れる。彼女は大きく眉をひそめて、口を半開きにして、説明を求めているように見える。
……とはいえ、一体どうやって説明したものか。
「えーと、とりあえず改めて、お久しぶりです?」
どう考えても正しくはない挨拶をしたら、お嬢様はまた腰を抜かしたようにヨロヨロと、私の膝元にへたり込んでしまった。
まあ、そういう反応になりますよね……。




