10 私が死んでも、まだ
2025/08/13
エピソード数調整のため、一部エピソードを統合しました。
内容に変更はありません。
ハルバードの頭を使って地面を掘り返した後、灰の山を土に混ぜてそのまま埋める。こんな身の上ではあるけれど、テレージア信徒に根付いた弔いの儀式をおろそかにするわけにはいかない。
当然、聖騎士であるフェリクス様も同じように思ったようで、私と彼は二人並んでしゃがみ込み、盛り土に向けて手を合わせた。
「……なんとかなりましたね」
「当たり前だ」
その通り。感傷に任せて呟いてしまったけれど、私だってフェリクス様と二人で負ける気なんてしていなかった。私と彼は、護衛という立場にしたって多すぎるほどに、幾度もの死線をくぐり抜けて来たわけだから。
「まだ、こういうことは、よくあるんですか?」
「あんたが死んだ頃からは、多少マシにはなったが」
「王都の外では、変わらずと」
「そういうことだ」
私が命を落とすことになった原因、かつての王都を混沌の渦に巻き込んだ厄災は未だ尾を引いて、人々を悩ませているらしい。
「となれば、フェリクス様の仕事も多いでしょうね」
「いや、そうでもない」
「……そうなんですか?」
テレージア教会の聖騎士ともなると、所かまわずアンデッド狩りに駆り出されているようなイメージだったけれど……フェリクス様は違うのかな。
「王都の奴らは、臆病者だからな」
「ああ……」
なんとなく、彼の言いたいことがわかった。つまり彼は、貴族や教会のしがらみから、未だ抜け出せずにいるんだろう。
実力のある人員を防衛に充てるのは当然のこと……なんて考え方もできるけれど。それで地方の人々が苦しんでいるなら世話無いと、私も思う。
「……街を出る前のやり取り、覚えてますよね」
「ああ」
「その気持ちに、揺らぎはありませんか?」
「当然だ」
「ならよかった」
ふと、少し不安になって尋ねてみたけれど、愚問だったらしい。私は心の中で胸をなで下ろして、ハルバードを握り、街へ向かって歩き出す。
「行きましょう。街の人が待っています」
返事は頷き一つだったけれど、先を見据えた彼の瞳に、迷いはない。
そのことがどうしようもなく誇らしくなって、私はより一層胸を張り、堂々と街への復路に着く。
そんな中で、彼の言葉が脳裏に響く。
私の質問に対して、力強く答えた彼の言葉を想起して、思う。
『俺は、心に決めた人の味方だ』
……よかった。私が死んでもまだ、フェリクス様の心は、まっすぐとお嬢様に向いているんだ。
……本当に、良かった。