詰問
「助かったのです?」
「みたいだね……」
シスターの方を確認してみると、見た感じ気絶してるだけのようだ。なんとか無事でよかった。
「大丈夫か?」
「あぁ…… だが、今のはいったい……?」
ミカルも先ほどの状況に困惑しているらしい。これは色々説明するのは逃れられないかな。
それよりも――
「ごめん、リーナ。魔法頂戴」
よりによって心臓に近い方をかまれたもんだから、血が中々止まらない。右こぶしを脇に挟んで簡易的な止血はしてるけど、そろそろ貧血になりそうだ。
「わ、わかったのです」
リーナが詠唱を始めると、暖かい光が僕を包む。傷口が塞がり痛みが引いてくる。
「ありがとう、あー痛かった。牛小屋から脱走した時のことを思い出したね」
「そういやそんな事言ってたな」
僕の軽口に苦笑するアラン。まぁ実際かなり危なかったんだけどね。
「しかし、今のは何だったんです?あの豹みたいな魔物は」
「えーと、説明はあとでするからさ。その、書庫に犠牲になった人が……」
僕のその言葉を聞いて慌ててミカルとシスターが書庫に向けて走る。
僕はというと、ちょっとだけ休ませてもらって、それから後を追うことにした。
書庫についた僕らが目にしたのは、床一面に広がる大量の血痕とその中央で倒れているローブを纏った聖職者だ。
「司教様……」
傍らに先ほどのシスターが跪いて祈りをささげている。どうやらお偉いさんだったらしい。
「これは酷い……」
書庫の中を見回すと、奥の壁が崩れており、そこから外の様子がうかがえる。
壁には巨大な爪跡のような物が残っており、先ほどの獣が暴れていた痕跡が見える。
「一体ここで何が起こったんです?」
「事の起こりは……すいません、わからないんです。ただここに先の獣がいて、僕たちが扉を開けたときにはもう……」
ミカルの言葉に答える。他に言いようは、ない。
「そうでしたか……メルタさん達を疑うわけではありませんが、念のため別室で話をお伺いしても?」
「――わかりました」
ミカルに説明をするのは、逃れられない。なにせここで逃げてしまえば、僕たちはお尋ね者一直線になるだろう。
それは避けたいところだ。
結局、その後シスターにこの場を任せ、全員で別室へと戻ることになった。
「それで、どういうことなんですか?」
部屋に戻ると早速ミカルが切り出してくる。
「まず最初に断っておきますけど、僕はミカルを信じて話すことを決めたんだ。これから話す事は全部真実であると思ってくれるかな」
「ええ、勿論そのつもりですよ」
ミカルの返答に一安心する。これで話もせずに捕らえられでもしたら、目も当てられないからね。
「では単刀直入に言うよ。僕が神さまの痕跡を追ってるのは、神さまの力を集めてこの世界を救うためなんだ」
「……は?」
僕の言葉を聞いたミカルの顔には、疑問の色が濃い。そりゃそうだろう、同じことを前世の僕が聞いても疑い以外の感情は持たないだろう。
「神さま曰く、あと30年くらいしかこの世界は保たないらしくってさ、その原因の一つがあの黒いのなんだって」
「それを証明するものは、何かありますか?」
「証明になるかはわからないけど、何なら僕の首でも切り落としてみてほしい。慈悲神さまの力が不老不死らしいから」
「バカ野郎!なにいってんだ!」
僕の言葉にアランが罵声を飛ばし、ミカルが息を呑む。
「いえ、私が女性を手にかけるわけには……」
「他の力だと、似たような魔法があった時に証明できないからさ。一番わかりやすいと思ったんだけど」
一息おいてミカルが出した答えに半ばホッとする。これで本気で首を落としにかかられても困るというか、そんな苦しみ味わいたくはないからね。
「……なるほど、確かにあなたの言っていることは本当なのかもしれませんね」
「信じるのか!?」
納得するミカルにアランは驚きの声を上げる。
「落ち着いてください。今はまだというだけです。それに、私はあなた方が嘘をついているとは思えませんから」
まだ、ということはこの後何かが控えているということだ。
「申し訳ありませんが、教国まで一緒に来ていただけませんか」
予想通りの展開だ。
「教国には神託の巫女がいます。その神の御前で証明をいただきたく」
「いいよ、僕の次の目的も神託の巫女さんだから」
「ありがとうございます。それでは私も後の始末をして参りますので、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか」
「手伝わなくてもいいの?」
「教会の内の事ですし、できれば内々に済ませたいのです」
こうしてミカルは袖で汗を拭うように額をこすると、部屋からでていった。
「どうすんだよ? そのまま教国で投獄とかありえるんじゃねぇのか……」
「まあ、仕方がないんじゃない? もしそうなるなら、アランとリーナだけは解放されるようにもってくよ」
「お前だけが捕まりゃいいっつー話じゃねぇだろうがよ……」
「アランもリーナも僕に巻き込まれてる形だからね。まぁ最悪本当に僕の首切ってみればわかるんじゃないかな」
「メルタは自分を大事にしなさすぎなのです」
首を斬るジェスチャーをしているとリーナにその手を止められる。彼女の目は真剣そのものだ。
「別に大事にしないつもりはないよ。ただ、証明手段として一番確実かなって」
「それでもダメなのです。きっと真実は巫女さんが明かしてくれるのです」
僕の手を握るリーナの手に力がこもる。本気で心配してくれているのだろう。
「そうだね。ごめん、軽率だったかも」
「わかってくれればいいのです」
僕の言葉にリーナは笑顔を浮かべて手を離した。
「それで、これからどうするんだ?」
「とりあえずはおとなしくここで待とう。あとはミカルにおまかせかな」
「そうですね……待つしかないのです……」
僕らはそのまましばらく待たされることになった。
ミカルが戻ってきたのはそれから1時間ほど後のことだった。




