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7 あなたを呼ぶ僕の声

ラヴァダイナス出張から戻ってきたヤツカドさんです。よく働くなあ


 ふー。仕事続きで少し疲れたな。


 ラヴァダイナスから引き上げた僕は八角法律事務所でたまっていた仕事を片付け、今やっと自室に戻ってきた。


 みんな仕事熱心なのは結構だけど、仕事が上がってくると次はそれが僕の仕事になっちゃうんだよな。


 例えばこの報告書……。


『魔法研究開発定期報告書』


 これはサンドラーからだ。

 既に Vol.8 か。


 サンドラーには以前テレカンの講師を頼んだ。

 サンドラーの魔法分析能力はなかなかのものだったので、折角だからそれに加えて魔法の研究開発班で働いてもらうことにした。

 魔王城の近くにサンドラーのために砂地まで用意した厚遇だよ。


 住民台帳の活用でいろいろな種類の魔法の存在が覚知されたため、それを実践で使えるように開発するのがその研究目的だ。


 今回の報告書の内容は、使えそうな魔法のリストアップで、ここから僕が決裁を出してその後、研究対象になる。

 大体のところはオーケー出してるけどね。


 とはいえ一応目を通さないと……。


 でも少し休憩しよう。


 僕の部屋なら身体を解放して落ち着いて休める。

 八足の姿に戻ってさ……。



「ヤツカド、随分疲れているようだな」


 ……って、魔王様!

 なんで僕の部屋に!?

 勿論魔王様の出入りはご自由です!

 じゃなくて……


「す、すみません、本来ならすぐに出張の報告に伺うべきでした!

 それに今僕、こんなカッコで……!」


 ほんの2分、休んだ後に報告書持って魔王様のところに行こうと思ってたんだ!

 それなのに、こんな八足で床にべちゃーってなっているところを見られてしまうなんて……!


 僕は慌てて立ち上がろうとした。


「いいからそのままで」

「ああうっ」


 いつの間にか僕の頭の上にいらっしゃった魔王様に頭を押さえつけられた。

 身動き取れません。潰れそう。


 なんでだろ……魔王様こんなに小さくいらっしゃるのに、どうして魔王様に押さえつけられてしまうんだろうなぁ。


「あの……ご用件は……」


「ああ、うん。用件があったから来たのだが、その前におまえが疲れている様子だから少しねぎらってやろうな」


 え……。今度はどんな攻撃を下さると……?


「私は信用ないようだな?」


「いえ!とんでもありません!

 魔王様に痛めつけられるなら大歓迎ですよ!」


「……まあいい。見ていろ。

 今回はおまえにケガひとつさせずにかわいがってやろう」


 怖い……!

 怖いですよ魔王様……!

 ステキ……!!


 魔王様は僕の頭上から背中に移動された。


 あ、ダメです。背中は全方位警戒器官が勝手に攻撃しちゃいます! 

 まあ、壊されちゃうのは僕の方ですけど!


 ……? あれ?


 おかしいな。

 僕の全方位警戒器官たる触肢しょくしが動いてない。

 というか動かない。

 地面に垂れたままだ。

 折れた音はしなかったと思うけど……。


「動きを封じることくらい造作もない」


 あ、魔王様がなさったのか。

 そうか、僕の動きが封じられているんだな。それなら安心……。

 って魔王様は何でもアリだなぁ。


 そしてそのまま魔王様は僕の背中を撫でて下さった。

 今回の僕は化けてないから攻撃耐性が高いというのもあるけど、魔王様が加減をなさっているのか背骨が折れない。


 撫でているというよりは、かなり強い力で整体を受けてる感じではあるけど……これはこれで気持ちいいかも。


 次に魔王様は僕の尻尾の方に移動し、尻尾も優しく(当社比)撫でて下さった。


 うん、いい気持ち……。

 これはいいな。


 僕がリラックスしているのを確認し、魔王様はそのまま撫でるのを続けて下さる。


「疲れているのだろう?

眠りなさい、ヤツカド」


 僕に眠りはほとんど必要ないけど……でも……


「魔王様がそうおっしゃるなら……」



 僕は八足の姿のまま、眠ってしまった。



_____________



 そうなんだよ。

 僕に眠りはほとんど必要ない。


 ただ、滅多にないことだけど八足の姿のまま眠ると、なんだか不思議な夢を見るんだ。


 以前、蝶のように羽を広げた魔王様と深く長い口づけをする夢を見た。

 今回も、あの魔王様に夢の中でお会いしたよ。


「ヤツカド……」


 とろけるような優しく甘い微笑みを見せる魔王様。

 現実にはあり得ない。

 こんな表情は見たことがない。


『・・・・・・』


「その名で私を呼ぶのはおまえだけだ」


 え? 僕は今魔王様の名前を呼んだの?


『・・・・・・』


「ふふ。なんだかくすぐったいな」


 自分がなんて言っているのか聞こえない……。

 魔王様の名前を、呼んでるの……?


 やっぱりこれは夢。

 だって僕は魔王様の名前を知らない。

 なんで今まで考えなかったんだろう。


 魔王様の、とろけそうな、幸せそうな表情。

 僕はそれだけで満ち足りてくるよ。


 そうだな。こんな表情が見たかったのかも知れない。

 僕は今、自分の願望を夢に見ているんだろうな。


『・・・・ティ・・・ネス』


「そんなに何度も呼ばなくてもおまえの声は届いているよ」



 もうちょっと、もうちょっとで聞こえる。


 僕が呼ぶ、魔王様の名前……。



_____________




「ネフェルティティリアネス!!」



 やだな。自分の叫んだ声で目を覚ましちゃった。


 ああ……。ここは僕の部屋だ。

 目の前に魔王様がいる。

 少し驚いたような表情だな。


 そうでした。僕、寝てたんだ。

 夢を見てた。


「ヤツカド?」


「あ、魔王様のなでなで、気持ちよかったですよ!

 リラックスして寝てしまいました」


「なぜその名を知っている?」


 は? 名前?


「呼んだだろう? 私の名前を。

 ネフェルティティリアネス、と」


「……魔王様ってそんなお名前だったんですか?

 美しい名前ですね!!」



 なぜだか分からないけど、僕は魔王様のお名前を知ることが出来たみたい。


 仕事頑張った僕に、今日最高のご褒美でした。





読んで下さってありがとうございます。

ブクマも評価も感想もとても嬉しいです。励みです。


ちゃんと完結までは書くのでよろしくお願いします。

完結時期については活動報告に入れてます。

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