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13 火照った身体を冷やして欲しいのです

 牢屋です


「餌だ。食え」


 牢屋の中で大人しくしている僕のところに魔王様自ら食事を運んで下さった。

 鹿のような動物、しかも3匹も。


「ありがとうございます。

 いただきます」


 牢屋の中の楽しみなんて食べることくらいだから、しっかり味わって食べたいところだったけど、口に入れるとあっという間に僕の体内に収まってしまった。


 消化液がねぇ、強力過ぎるんだなぁ。


「どうだ具合は」


「そうですね。まだダメです。

 人間の姿が取れません」


 あれから丸一日経過したけれど、僕はまだ八足の姿のままだった。

 せっかく魔王様が目の前にいらっしゃるのに、キスをしていただくわけにもいかないし。


 ああ……つまらない。

 それに


「暴れたいです」


 僕は言った。


 別に『暴れたい』と言っても暴力を振るいたいとか何か壊したいという破壊衝動的な意味じゃないから。

 僕は粗暴な行為は好きじゃない。

 知性で売ってるキャラクターだからね。


 とにかく生命力がありあまっているので発散したいんだよ。

 スポーツとかで発散するヤツ。


 以前この牢屋に入った頃は退屈しのぎに散々牢の中を破壊したけど、別に今は脱獄したいわけではない。

 ついでに言うと牢屋を盛大に壊してしまった場合、後で修復作業に当たるのは確実に僕だ。

 無駄な仕事を増やすのは御免なので大人しくしている。


「暴れるなら相手してやろうか?」


 魔王様とくんずほぐれつしちゃったら楽しいだろうなぁ……。

 想像するだけでわくわくするよ。


 しかしそのお言葉はありがたいものの……


「いえ、いいです……。

 魔王様と僕が暴れたらどれだけ色々壊すか分からないですし」


「それもそうだな」


 魔王様も簡単に引っ込めてしまった。

 もうちょっと押してくれれば……、いやいやダメダメ。


 愛しの魔王様に対して乱暴な行為は出来ない。

 魔王様に簡単に腕とかへし折られて終わるだけだろうけど。



「魔王様、お傍にいたいです」


 牢屋の中で切ないのはやっぱりソレだな。

 仕事はクイが足しげく顔を出してくれるので指示して何とか進めている。

 特に緊急性のある用件もないようで問題は出ていない。


 キスしてくれなくてもいい。

 せめてずっと貴方のお傍にいられれば他のことは全てガマンできるのに。


「ずっと僕の側にいて下さいませんか?」


 ちょっとだけ我儘を言ってみよう。

 僕はまだ生まれてから間もない魔物だ。

 少しくらい子どもっぽく我儘言ってもいいよな。


「さすがに私も仕事があるから、ずっとここにいてやるわけにはいかないが」


 魔王様は思案顔だ。

 いやそんな本気で考えなくていいですよ。

 言ってみただけですから。


 ほら、よく病気すると大人でも子供っぽくなるじゃないですか。

 そんな感じなんで。

 なんとなく今なら許されるような気がしない?


「僕、身体が火照ほてって、熱くてたまらないんです……。

 魔王様の冷たい皮膚で冷やして欲しい……」


 魔王様の皮膚が冷たいことは知ってるんだ。

 以前背中から抱きしめたときにね。

 胸刺されてしまったから一瞬だったけど。


「そうか、分かったよ。

 ヤツカドのためだ…」


 え!?



________________________________




「さあ、ここなら大丈夫。

 思う存分水に浸かりなさい」


 魔王様のお力で一瞬のうちに牢屋の外に連れ出してもらった。


 そこは城のある密林からは遠く離れた地。

 目の前にある断崖絶壁から見下ろす先には荒れ狂う海が見える。


「海ですね」


「海だな。

 身体が火照ほてるんだろ?

 水に浸かると気持ち良いぞ?」


「そ、そうですね……」


 この場所に見覚えがあった。


「ここは深涛王しんとうおうリヴァルドのいる海底洞窟の近くですね」


「そうだ。リヴァルドからヤツカドを招きたいという連絡をもらった。

 ちょうど良かったな」


 ああ、なんという合理主義な魔王様。

 そうですねぇ。

 海底洞窟に行くならちょうどいい。


「では私は帰る。

 おまえは出張扱いにしておくから。

 リヴァルドによろしくな」


 そう言って魔王様は風のように去ってしまわれた……。


 ……いいんだ……。

 確かに水に浸かりたいとは思っていたから……。


 うわあ、さすが海だね。

 水がいっぱいだ。

 水浴びしたら身体の火照ほてりも収まるだろうなぁ……。

 最高じゃあないですか……。


 僕は観念して絶壁の上から勢いよく飛び降りた。


 海面にぶち当たり、そのまま沈んでいく。


 僕には酸素はそれほど必要ではないから海の中でも問題はないんだけど、この八足の身体は泳ぐには向いていない。

 海底に到着するまでは沈む一方だ。


 一応八足を動かして泳げないかと試してみたけれど、ダメみたい。


 仕方ないか。

 この身体での泳ぎ方なんて知らないし。


 海底に沈みながら、海水を大量に飲んだ。


 溺れてるわけではなく、水が欲しかったところだったから。

 塩分が多いけど別に問題ない。

 一緒に魚もたくさん食べた。


 さっき食事したばかりだったけど、折角だし海の幸で舌鼓を打つのもいい。


 海底まで到着すれば、あとは歩いてリヴァルドの棲む海底洞窟に行けばいい。

 場所は分かっている。


 海底にも美味しそうな海の幸があふれている。

 幸い鬼眼きがんは海の生物にも効くようなので食べ放題だ。


 ちょっと食べすぎかな。

 まあ、育ちざかりだからな。


 海水の冷たさを感じる。

 火照ほてっていた身体には気持ちがいい…。




 読んで下さってありがとうございます。次回は四天王リヴァルド出てきます。


 ブクマ、評価本当にありがたいです。毎日拝んでいます。

 励みになります。

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