14 海底洞窟は海の幸を食べ放題
『ベンシックリヴ』
深涛王リヴァルドに任されているコミュニティ。
Benthic(深海底の)と、リヴァルドの名前を合わせてつけた毎度の安易なネーミングだ。
……もういいんだ。
特に不満は出ていないんだから僕のネーミングセンスのことはいい。
海底洞窟なので人間が来る恐れも殆どなく安全な場所だ。
入り口は広く、僕も八足の姿のままで余裕で入ることが出来る。
洞窟の中は、海水で満ちている場所もあれば、海水の及んでいないところもあるようだ。
さすがに海水で満ちた場所では発声も会話もできない。
僕は水から上がった。
海底を歩いてきたから、だいぶ身体が冷えたと思うんだよな。
今なら……
「お、やった」
無事、八角人志の姿に化けることが出来た。
冷やしたのが良かったんだな。
しばらくベンシックリヴにいるのが良さそうだ。
「ヤツカド、いらっしゃい……」
僕の到着を聞いたんだろう。
リヴァルドが出迎えに来ていた。
子供の姿に化けた状態だ。
本体では声を出すことが出来ないから、化けていてくれた方がこちらも助かる。
「リヴァルド、突然すみません。
僕に用事とか?」
「うん……。用事あるよ……。
あとヤツカドにも会いたかったし……」
自分の幼い頃の姿で言われると変な気分がするな。
「ねぇ、ヤツカド……、せっかく来てくれたんだし用事もいいけど、おしゃべりしようよ……」
「そうですね」
ベンシックリヴに棲む魔物は海生の者ばかりなので、発声できる者はほとんどいない。
リヴァルドが少しずつ教育を始めているとは聞いているが、話し相手がいないのでリヴァルド自身の訓練が疎かになりがちだとか。
少し会話をして慣れたいんだろうな。
僕は今はここで身体を冷やすことが目的なので、リヴァルドに付き合ってもいいだろう。
ただし
「まずはお仕事を済ませて、終わってからゆっくりとおしゃべりしましょう?」
やはり仕事優先。
「絶対だよ……、仕事終わったからって帰っちゃイヤだからね……」
「分かりました。
約束します」
僕普段そんなにそっけなかったかな?
「じゃあ用件話すね……。
まず最初に、リヴァのとこにも裁判所欲しいの……。
ドリュアキナはもう持ってるって。
オルゴイももう作り始めたって聞いちゃった……。
リヴァだけまだなの……」
「ああ、そうですね。
じゃあベンシックリヴにも裁判所作りましょう。
もし建設場所に適した場所にあてがあるなら後で一緒に見に行きますか?」
「うん、ある……。
リヴァ、行く……。
ヤツカドと一緒……」
本当にこうしていると小さな少年でしかないリヴァルド。
初めて会ったときは驚いたよ。
自分よりも大きな魔物って見たことがなかったから。
言葉も通じなかった。
思わず僕も八足に戻って警戒してしまった。
魔王様の通訳を挟んで話してみると非常に穏やかな魔物だったけどね。
四天王とはそれぞれ最初の頃は色々あったけど、ドリュアキナとリヴァルドとは比較的穏やかに済んだ方だと思う。
ダイナモスなんて「知性とやらを見せてみろ」と問答無用で襲ってきて、火を吐いてきたし、オルゴイからは土中に引きずり込まれたりしたもんな。
責任あるコミュニティの管理者が好戦的では困るので、しっかり教育しておいたけど。
例えば反社会的勢力……つまりヤクザのことなんだけど、そいつらだってトップの方は礼儀正しく冷静な奴らなんだ。
あいつらは簡単に警察に尻尾を捕まえられるようなことはしない。
簡単に暴れるのはバカなチンピラだけ。
ともかく、職業柄この手のトラブルは慣れている。
つくづく弁護士って危険な職業だと思うよ。
僕が優秀な弁護士だから良かったものの、並大抵のヤツなら何度か死んでるんじゃないか?
「これから、行く……?
ちょっと離れたところにある洞窟なの……」
「いいですよ」
僕とリヴァルドは一旦今の海底洞窟から出て、裁判所用地の下見に行くことにした。
「リヴァ、このままだと速く泳げないから元の姿に戻るね……?
喋れなくなっちゃうけど、ヤツカドついてきてね……」
「じゃあすみませんが、僕はリヴァルドにつかまって行きますね。
僕も速くは泳げませんから」
人間だった頃、大抵のスポーツはこなしていた僕だ。
勿論水泳だってなかなかのものだけど。
海に棲む魔物に比べたらさすがにね……。
僕から十分な距離を取り、リヴァルドはその姿を変えた。
やっぱり大きいな……。
全長何十メートルあるんだろう……。
いや何十メートルなんてレベルじゃない。
何百……ひょっとしたらキロ単位であるかも知れない。
海蛇の形に近い。
刃物のようなヒレが全身に広がり、これで絞められて生きていられる魔物はほとんどいないんじゃないか?
いやあ、圧巻だ。
まさに海獣と言うべきか。
まてよ?
そうか、リヴァルドなら……
ともかくリヴァルドにつかまって見に行った裁判所用地は、なかなかの物件だった。
広い敷地もあるし、内部の構造上、部屋層も複数確保出来そう。
「いいじゃないですか。
じゃあ後日ここの測量を行い、それを元に裁判所用の図面を引きますよ。
出来上がったら城から送りますね」
建築関係は専門外だけど、人間だった頃に何度も不動産事件を扱っていたから図面は見慣れている。
見様見真似でなんとかやってるよ。
「それ、ここでやったらダメ……?
城に戻らずにしばらくここにいてよヤツカド……」
「うーん、少しの間ここで厄介になろうかとは思ってるんですよ。
その間に進められる作業は進めますけど」
身体をしばらくの間冷やす必要があるからね。
「ヤツカド、しばらくここにいるの……?
やったぁ……」
歓迎してくれるのは助かるな。
実際、ベンシックリヴはいい場所だ。
海の幸も食べ放題だし、破壊して困るようなものも付近には少ない。
海底の水はとても冷たくて、今の火照った身体には好都合。
水の中で身体を動かせば良い発散になる。水中エクササイズだな。
「僕からもリヴァルドにひとつお願いがあるんですが」
そうだよな。
リヴァルドならうってつけじゃないか。
「? ヤツカドのお願いならリヴァがんばるけど……。
何をすればいいの……?」
「身体を動かしたいので相手してもらえませんか?
具体的に言うと、ちょっと戦って欲しいと言いますか…」
「リヴァと戦うの……?
でもリヴァ危ないよ……?
海の中のリヴァすごく危ないんだよ……?」
「リヴァルドのように穏やかな方に頼むのは心苦しいところですが、僕もかなり大きい方なので暴れられる場所も相手もいないんですよ。
海中なので僕の方が絶対的に不利なんですが、そこは何とか殺さないように気を付けていただけると助かります。
僕も別に死にたくないので」
「そっか……。
リヴァがんばって気をつけるね……。
ヤツカドのお願い叶えたい……」
読んで下さってありがとうございます。拝ませて下さい…!
ブクマと評価、すごく嬉しいです。
感想なんていただけるとスキップして喜びます。
ほんとに嬉しい…




