第陸二回戦!!最後の長岡瞽女
第陸二回戦!!
世界代表!勇者の中の勇者、ミシェル・ネイ!日本代表!最後の長岡瞽女、小林ハル!
騎馬隊を引き連れて現れたのがフランスの元帥。ナポレオンと共に戦い続け、その最期は誇り高く軍人として死んだ大陸随一の将校である。
対するは三味線を持った盲目の老女。まだ障がい者に厳しい時代を生き抜き、70代後半になってからやっと安寧を手に入れた唄い手である。
第陸二回戦、開始!!
ミシェル・ネイの号令で騎馬隊が小林ハルに突撃する。
見えないが大勢の雄叫びと地面の振動によって相手方の接近を読み取り、接触までの時間を予測する小林ハル。
先頭を走るミシェル・ネイの騎馬が小林ハルにぶつかる瞬間、小林ハルは三味線を掻き鳴らす。
べべん!!
ミシェル・ネイの予想よりも大きな音が鳴り響き、小林ハルを踏み潰そうとした自分の馬が嘶き、大きくのけぞる。
小林ハルが三味線の戦慄に合わせて唄う。
波瀾万丈な人選を歩んだ彼女が唄う瞽女唄は強い想いが乗り聴き手の心を揺さ振る。
ミシェル・ネイの眼から涙が溢れる。
麾下の兵士達も唄声が耳に入ると馬足を緩めて泣き始める。
馬は唄に込められた人生という物語に感情が抑えられず、伏せて鳴いてしまう。
常人が聞くには重い小林ハルの人生。
それでも生涯、他人の悪口を言わなかった彼女の強さ。
その唄声はあらゆる生物の感情に作用し、壮絶さを訴える。
ミシェル・ネイは兵士達の戦意が消えてしまったのを理解したが、軍人としての矜持を胸に己を叱咤する。
涙が止まらない。心が震える。喉の奥に呻き声が込み上げる。
だが、それをねじ伏せて剣を握る。
自分は軍人。将校。元帥なのだ。
感情のコントロールが出来なくてどうする!!
フランスのために戦いフランスに殺された自分。
それでも最期の瞬間は自分の意思で死んだ。
それがミシェル・ネイだ!!
泣き顔を晒しながら盲目の老女に剣を振り下ろすミシェル・ネイ。
風切り音。
唄っていても分かる鋭い音に小林ハルは三味線を今一度掻き鳴らす。
彼女の唄声は国家に納められた文化財。
その肉声は文化庁に今も保存されて未来へ残る国が認め、国民も納得した日本の宝である。
唄声は剣にも響き、訴え、小林ハルを傷つけることを躊躇させる。
生物の心に訴え、身体に動揺を走らせ、無生物さえも小林ハルに傷を負わせることを厭わせる。
これこそが小林ハル。
最後の長岡瞽女、小林ハルである。
高田瞽女・杉本シズ
「あの頃の瞽女はみんな良い思いしてる奴なんてこれっぽっちもいなかった。けどハルさんは一際厳しい人生だったようだね。」




