第伍一回戦!!日本マラソンの父
第伍一回戦!!
世界代表!バイエルンの狂王、ルートヴィヒ2世!日本代表!日本マラソンの父、金栗四三!
音楽と芸術に傾倒したバイエルン国王が現れる。かの有名なノイシュヴァンシュタイン城を建てたメルヘン王である。
対するはストックホルムオリンピックでマラソン世界最遅走破時間を有するお爺さん。箱根駅伝を開催し、日本のマラソン競技に生涯を費やした走者である。
第伍一回戦、開始!!
嘘のようで実際にあった話だ。
国王になった途端に自分の趣味だけのために城を3個も建造した王がいた。
近代に入り、これから産業が発展していく中で中世様式の城を建てた王は音楽家に慕われ、文学を、伝説を好んだ御伽噺のような存在である。
君は信じられるか?
世界最遅のマラソン走破記録を。
その記録、54年8か月6日5時間32分20秒30。
1912年のストックホルム大会での金栗四三の記録だ。
彼はマラソン競技の途中で意識が朦朧としリタイアもゴールもせずに会場を後にした。
54年後、ストックホルムの記念式典でゴールするまで彼は走り続けたことになったのだ。
ルートヴィヒ2世が革靴のかかとを鳴らすと玉座が現れ、そこに腰掛ける。
肘掛に腕を置き、ただ一言。
「顕現せよ。我が城よ。」
それにより、ルートヴィヒ2世を守るように現れる3個の城。
どれも立派な装飾と形状をしており、1つに至っては築城場所である湖と孤島と共に現れた。
外観や使用者の肩書はともかく、城が3つともなれば防御は固い。
単純な攻撃に対しては。
そう、ルートヴィヒ2世は止めなくてはならない。
白線の前に立つ金栗四三を。
悠長に攻撃に対して耐えるのではなく、打って出なければならないのだ!
金栗四三を中心に広がる夏の空間。
それはストックホルムオリピックのマラソンのスタート会場だった。
どこからか歓声が聞こえ、ピストルの発砲音が聞こえる。
そして、金栗四三がスタートラインを超えてしまった。
再現されたのは1912年のストックホルムオリンピックのマラソン競技。
出場者の半分以上が熱中症と脱水症状で倒れた悪夢の大会。
一帯が直射日光の猛暑空間になる。
影のない場所には陽炎ができ、ルートヴィヒ2世も室内にいながら汗を掻く。
1時間が過ぎる。気温は上がり続ける。
2時間が過ぎる。水が温くなる。
4時間が過ぎる。近場の飲み物がなくなる。
10時間が過ぎる。水分の取りすぎで身体の塩分濃度が下がる。
24時間が過ぎる。暑夏の空間は健在だ。
ルートヴィヒ2世は思い出す。
金栗四三の走破時間は50年以上。この空間が金栗四三の走破時間続くのでは?
嫌な予感は的中だ。
この暑夏の空間は側から見ると一瞬だが、体験者には体感時間で50年以上の間、猛暑の空間に閉じ込められる檻なのだ。
もちろん、発生原因である金栗四三をどうにかすれば空間は消えるが、金栗四三はマラソン選手。
足が速く、すぐにスタート会場から出て行き、しかも競技中、彼は住宅街のコースで姿を消してしまうのだ。
攻撃しようにも本人が見つからないのだ。
ルートヴィヒ2世は猛暑を耐えることしかできない。
50年以上も。
金栗四三の体感時間で54分後、ルートヴィヒ2世の体感時間で54年後、大歓声と競技終了のアラームが響くと夏の空間が消える。
ゴールラインに立つ金栗四三と消えた城の跡地に倒れたルートヴィヒ2世。
金栗四三は薄っすらと汗をかいていただけだったが、ルートヴィヒ2世は熱中症と脱水症状によって意識を失っていた。
近代陸上競技の父・野口源三郎
「金栗さんの陸上に対する想いは大会になって現代まで続いている。その人が走り抜いた人生の大半を体感したんだ。死んでないことが奇跡さ」




