属性解放
「いや~なかなかスリリングだったね~」
笑いながら言うタンドさん。そんな簡単に笑える状態では無かったと思うのだが・・・
「嬢ちゃん。ほんまに勘弁してや」
「私じゃないです。シトールさんの声が大きかったんです」
頬をプクッと膨らませて抗議するハルカさんが可愛い。
「チッ」と舌打ちする伶・・・どうしたキャラが違うぞ
何か悔しそうな伶は置いておいて言い争いを続ける二人を宥める。この場合どちらのせいと言うよりも二人のせいと言った方が正しいだろう。ここぞという所でやらかす天然娘と突っ込まずにはいられないエセ関西人。敢て言うならば、この二人が揃っている状況でのあの作戦自体が失敗だと言えるかもしれない
「ふむ随分奥まで走ってしまったな」
「そうだね~罠とかなくて良かったよ」
社会人組は言い争いなど無関係と言う様に和んでいるが、若干収拾がつかなくなってきている・・・
「ほら、もう良いじゃろ。もう少し真剣に取り組め」
ローラさんの一言で言い争いを辞めて、ようやく状況を振り返る事になった。迷宮の入口が罠も無く真っ直ぐな道だったのは幸いだったし、途中で魔物達も出なかったのでまだ本格的な迷宮とは言えないのかもしれないな。ひょったしたら準備期間と言うか、お試し区画とかの親切設計なのかもしれない
「シトールさん。一般的な迷宮ってこんな感じなんですか?」
「そやな~。色々有るさかい何が一般的かは判らんが此処みたいのは割とあるで」
シトールさんによると迷宮はタイプ的に色々別れるらしい。自然が溢れる森林型、建物の様に部屋や壁で構成される迷路型等が多く、俺達が居る古き迷宮の様に洞窟の様なタイプも良く見られるらしい。洞窟型の特徴としては複雑な迷路や悪質な罠が少ない代わりに現れる魔物の強さが突出しているという事だ
「森林型やと偽装系の魔物に注意。迷宮型は罠と迷路、あと不意打ちに注意が必要なんや」
「ふむ、それなら儂らには合ってるかもしれんな」
「その代り、出てくるのはえらい強いでっせ」
通路の広さから言えば複数の魔物が襲ってくる事は無いだろう。そういった意味では俺達には合っているかもしれない。隠し部屋などはほぼ無いが、広場の様な所や部屋と呼べるような場所も有るらしいので魔力の強さも考えながらスラちゃんの進化に丁度いい場所を見つけて守りを固める事も出来そうだな
「ほな行きましょか。カイとクイに任せとけば迷う事も無いさかいに」
そうか、シトールさんが迷宮を一人で探索できるのはこの二匹の力も大きいのだろう。慣れた様子で先に進む二匹のお蔭で準備を整えてから魔物と戦えるようだ。
暫く真っ直ぐ進むと、分かれ道に差し掛かる。迷路と言う程ではないが分かれ道ぐらいはあるようだ。どちらに進めばいいのだろう。
「カイとクイの様子ならどっちでも良さそうや。行き止まりになっとったら引き返せばええんやで」
「宝箱とかも有るんですか~」
「そやな。ただそういう時はガーディアンもおったりするから気ぃ付けなあかんで」
先程は言い争いをしていた二人だが、迷宮の事などを聞いたり教えてりと仲良くやっている。この辺りは二人の性格だな。後に引かないのはいい事だろう・・・何も考えていないとも言うが
ポンタさんの指示で左に進む。普通だとこういう分かれ道では自然と右を選ぶものらしいので、敢て左に進んだ方が罠や待ち伏せが無い可能性が高いらしい。迷宮が出来る理由は判ってはいないのだが、作為的に分かれ道を作った存在がいた場合はそういった事も利用するかもしれない
ポンタさんも迷宮は初挑戦らしいが、戦士団で行動する可能性もあるので知識として情報を調べたりして居た様だ。真面目なポンタさんらしいと感心してしまうが、頭でっかちの知識では役に立たないとローラさんは皮肉っていた
ゴツゴツした地面を罠に注意しながら進んで行くと、先頭を歩く二匹が立ち止まる。少し行った先に見える広場の様な空間に複数の魔物の気配が感じられた。
「先に進む者を防ぐ為の門番か、宝を守るガーディアンやな」
「判るんですか?」
「部屋から出てこんやろ、あれが特徴や」
確かに門番でもガーディアンでもその場で何かを守るためにいるのだから、動いてしまっては意味が無い。迷宮側が配置している以上、門番が不在で楽に侵入できましたなんて事は起こり得ないのだ
「僕の出番かな。ちょっと探ってみよう」
洞窟の中なので遣える精霊が限定されるみたいだが、幸い土の精霊ノームと契約しているタンドさんには問題ないらしい。ハイエルフはシルフやドライアドと言った、風や森の精霊達とは仲が良いのだが土の精霊を使役するのは珍しい方なのだとか
「タンド様は器が大きいので、使役できる精霊が多いんです」
「なんで嬢ちゃんが偉そうにするんや?」
エッヘンって感じで胸を張るハルカさんにシトールさんが突っ込む。反らした胸に突っ込まない所はシトールさんなりの優しさなのか、敢て地雷を踏む勇気は無いのか微妙な処だ
「ありゃ、オーク達だね。勿論キングもいるよ」
「どうするかの?キングが率いる群れならばオークも通常よりは手ごわいぞ。普通のオークとは思わぬ事だ」
「宝はどうでもいいが、門番の可能性もある。進まない選択はないじゃろうな」
ノームが調べた限りでは行き止まりの広場の様だが、門番を斃す事で道が現れる事も有るので倒してみないと判断は付かないみたいだ。
「斃さないといけないなら、余裕のある内の方がいいと思います」
「宝箱とか楽しみです」
女性陣は進む事に賛成な様だ、勿論俺も異存は無い。部屋に入る前に隊列を整えて準備万端で部屋の中に足を踏み入れる。部屋に入る前からこちらの姿は確認できたはずなのに、オーク達は俺達が足を踏み入れるまでは大人しくしていた。だが踏み入れた途端にキングの叫び声を合図にしてこちらに襲い掛かってくる
「プギャー」
独特の叫びを上げながら、複数のオーク達が殺到する。向こうから来てくれるならば無理に進むことは無い。部屋の入り口付近で半円形の陣を構えて迎え撃つ。兎も角囲まれなければオーク達が脅威になる事は無い
ルビーゴーレム達のファランクス戦法でオーク達の勢いを止める。タンドさんがノームの力で簡易的な壁を造り向かってくるオークの数を絞り、ブルーベルとポンタさん、それに俺を加えた三人が正面に立ちオーク達と切り結ぶ。シトールさんは近接戦闘ではなく魔法で遠距離から攻撃だ・・・サボってないよね!?
オーク達の装備は大森林で会った奴らよりも洗練されている。揃いの全身鎧を身に纏い盾と曲刀を携えている。武器も防具も手入れをしてあるのかピカピカに磨かれているのが判る。この辺り、迷宮に出てくる魔物は何かが違うのだろうな。その身体も普通のオーク達よりも大きく凶暴性も増している感じがする。オークの上位種であるハイオークではないだろうか
ブルーベルは自身の防御力と膂力を生かして真正面からハイオーク達と力比べをする様に打ち合っている。ポンタさんは器用に攻撃を受け流し隙を見て渾身の一撃を打ち込む戦闘スタイルだ。防御陣を引いて戦う性質上速さを生かした戦い方の俺は若干不利なのだが、修行の成果か上位種であるハイオーク達の攻撃を躱し、受け流し隙を見て鎧の隙間に刀を走らせる事が出来ている。この辺りナティさんの教えが役に立っている
俺達がハイオークの流れを堰き止めれば、後ろから天雷弓の矢がハイオーク達に突き刺さり、研ぎ澄ました槍の様なローラさんの魔法が貫いていく。俺達の有利に進む戦いにキングが苛立たしげに叫ぶとハイオーク達の戦い方が変わる
真ん中に道を造る様にオーク達が左右に広がるとキングが前に進んでくる。武器を持ちかえたハイオーク達がその後ろから隊列を組むようにしてキングの補助をするつもりらしい
「智大、行け!」
ポンタさんの声が俺に飛んでくる。
どれだけ影響が出るのか不明だったので今まで控えていたのだが、広場での戦闘の後は守りも固める事が出来そうなので修行の成果と新しい装備を試す時だ
「迅雷」
いつもの様に小声で属性解放を告げる
紫電を纏った俺は、『ドン』という音を残してハイオーク達の群れに飛び込んでいくのであった
H29.3/16一部改編していますが本筋に影響は無いと思います
オーク→ハイオークに変更しました
いつも読んで頂いて有難う御座います




