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珍客来訪

 数回の野営を繰り返し、大森林の魔境までの道のりで最後の野営地に辿り着いた。まだ日の高い時間なのだが、今日はこの野営地でしっかり休んで英気を養い、明日から大森林の魔境に挑む事にしている


「何とか辿り着きましたね」

「この程度で済んでるなら楽な方だよ。これで音を上げてたらこの先はもっと大変だよ」


 タンドさんが当たり前の様に答えてくる。確かに途中で襲撃を受けたのは一度だけだったのだが、ロダの魔境でよく見かけた魔狼の上位種、シルバーウルフ(銀狼)の群れが六十匹程、夜中に襲ってきたときは数の多さに驚いてしまった。幸い早めに気付いた精霊達が教えてくれたので準備も出来たし、柵も有ったので割合楽に撃退できたのだ。


 しかし、その後の野営では襲撃が気になってよく眠れなかったりと緊張が続いた為、やっと此処まで来れたと言う感じがしてしまうのだ。襲撃の時の銀狼達の血走った目が忘れられない、ただの餓えた獣と言うだけではない何かを感じてしまったのだ


「本当は調査を行ったばかりだから魔物の数は少ない方なんだよ。だけどあの狼たち痩せてたでしょ、たぶん森の奥の勢力争いに負けた群れが平原に追い出されたんだと思う」


 大森林の中は豊富な森資源も有るし、餌となる獲物の数も多い。しかし魔素や魔力が溢れる魔境の中から溢れてくる強力な魔獣達に押される様に弱い個体から平原部に追いやられてしまうのだ。大森林の中では豊富なエサで群れの数も多くなるし自分たちの身を守るためにも積極的に数を増やすらしいが、それだけに平原部に追いやられてしまうとエサも少なくなるので、非常に凶暴になり柵で囲まれた野営地であろうとも攻撃を仕掛けて来るという事だ


 まさに弱肉強食の世界であり、ある意味自然の摂理に従っての事なのだが、彼らにも守るべきものが有ったのでは無いかと思ってしまうのは危険なんだろうな・・・


 そんな事を考えているのを、見透かしたように俺の肩に手を乗せてタンドさんは薄く微笑を投げかけてくれる。でもその瞳にはそれが危険な事でもあるという警告も込められていた。


「智大君のそういう処は長所だと思うけど、今は僕達も弱肉強食の世界の中だって事は忘れちゃいけないよ」

「はい、それは判っています。少し疲れているみたいです」


 旅の疲れなのか少しセンチメンタルになってしまってるようだ。俺達も自分の身は守らなくてはいけないし、なにより目的が有ってこの場所に来た以上、弱気になんて成っている場合じゃないのだ


 慰めてくれたタンドさんに感謝しつつ、馬車から荷物を下ろしての備を始めている皆の所へ歩いて行く。この野営地は大森林に近いだけあって、今までの場所よりもしっかりとした造りになっている。柵では無く周りをグルリと囲む壁になっているので安心感は強くなる。ただその分、視界が悪くなっているので精霊達に警戒をお願いする部分が強くなるのはしょうがないだろう


 ただ、普通の調査団と違ってハイエルフが二人も居る俺達は、タンドさんとハルカさんが念入りに精霊たちにお願いしているので大丈夫だろう。


「さて、取敢えずは暗くなる前に食事にしよう。流石に明日からは気が抜けないからね」


 精霊達を配置し終わったタンドさん達が、こちらに戻ってきて(わざ)と明るく言ってくれる。今日の料理当番のタンドさんが食事の準備をしながら頷いている


「あの図体で作る料理は細かいというのは何とも情けない・・・」


 殆ど言い掛かりに近い文句を言っているローラさんに苦笑いしか出てこない。でもきちんとエプロンを付けて食材を切ってるポンタさんは確かにイメージが狂う。包丁捌きも見事な物で左手はちゃんと猫の手になっている。・・・熊なのに猫の手とは此れ如何(これいか)に?


「文句ばっかり言っておらんで、偶には手伝え」

「儂は食べるのが専門じゃ。作っても良いが味は保障せんぞ」


 女子力の高い独身熊(ぽんたさん)に、こちらも独身のローラさんが切り返す。普段の旅でもローラさんが料理をしている処は見た事が無い。殆ど伶が料理しているので違和感が無かったが、どうやら料理は苦手らしい


 ローラさん以外の女性陣は、配膳などを手伝いながら今日の夕食が出来上がっていく。優しい匂いのするシチューと分厚く切ったステーキが机の上に並んでいく。流石に米を炊くのは大変だったのか籠に入ったパンが机の中央に置かれる。エプロンを付けたまま皿にシチューをよそってくれるポンタさん。昔テレビで、デフォルトされた熊さんが作るCMが有ったなと笑みが浮かんでくる。


 同じ事を考えたのか伶も笑っている。獣化していないので見た目が熊の訳ではないのだが、何処かしらコミカルな感じがしてしまう。料理も出来て頼りがいもあり、更に根も優しい人でホント優良物件なのに何故独身なのか。やはり草食系に恋愛は難しいんだろうな・・・本人熊だけど


 食後、みんがリラックスして交代で馬車に備え付けられているシャワーを浴びたりしていると精霊が警戒したように近づく者がいる事を知らしてくる。慌ててる様子は無いので魔物の襲撃ではないと思うが、場所が場所だけに緊張感を高める。武器を手に取り門の近くで警戒する。先ほどまでの空気は一変して皆が構えていると・・・


「まいど。ワイです。シトールやがな」


 緊張感のない声が聞こえてくる。門の扉を叩きながら声を掛けてくるシトールさん。名乗らなくても判るエセ関西弁に拍子抜けしてしまう


「シトールさん。どうしてこんな所に?」

「ドゥルジ様からの指示や。兄さんたちに協力せぇ、言われたんやわ」


 ナティさんからの指示か・・・タンドさんも魔境の調査に加わった事が有るみたいなので大森林の魔境の事はある程度は知っている。ただ調査で奥地まで入る事は無いので、探索を生き甲斐にしているシトールさんが居てくれれば心強いかも知れないな。カイとクイの探知能力も頼りになるし頼もしい援軍になるかな


 パティメンバーはシトールさんに会った事が有るので、声とイントネーションから直ぐにシトールさんと判った様だが、面識のないポンタさんとタンドさんはエセ関西弁に奇妙な顔をしている。一応この間の迷宮探索の件は話してあるのだが、もう一度説明してあげると理解したように頷く。


「に、兄さん、はよ開けて。流石にこんな所で一人は嫌やで」


 あぁ皆と話すのに夢中で扉を開けるの忘れてた。


 ノックの音がドンドンって感じに強くなっている。苦笑いしつつ(かんぬき)を外して門を開けると、今まさに扉を叩こうとしていたシトールさんが勢い余って転がり込んでくる。後ろからはカイとクイが呆れた様な顔をしながらゆっくりと門をくぐると、こちらにきちんと挨拶をしてくれる


「兄さん。頼みまっせ、ホンマにもう」

「ごめんごめん。なんとなく扉開けるの忘れちゃった」

「なんとなくで済ませんでや、まったく」


 転がり込んで来た姿勢のまま、地面に座り込んで文句を言ってくるシトールさん。その話し方と最後までナティさんの所に行くのを渋った様子から、どうにも扱いが軽くなってしまうのは否めない


「ま、取敢えずはようこそ?」

「なんで疑問系なんや!」


 (わざ)と掴みを作ってあげたら、きちんと突っ込んでくれる。このスピード感は他の人じゃ出せないかもしれない。


「お世話になりまっせ。シトール言います」


 その様子にに引きつりながら握手する真面目なポンタさんと、ケラケラ笑いながら握手するタンドさん。一応軽く自己紹介をすると門を閉めて野営地の中央にみんなで向かう。まだ寝るには早い時間だし、ゆっくりお互いの事を話す時間も有るだろう。


 明日から探索なので、お互いの事を知っておかないと思わぬ所でミスをしてしまうかもしれない。そう思い車座で座りながら話をしていると・・・


「ところで兄さん。食事はまだかいな?はよ合流せな思うとったから、ワイ腹減ってるねん」

「えっ!さっき食べちゃったので無いですよ」

「残りモンでいいから・・・」

「残すなんてことしませんよ?」

「そ、そんな・・・殺生やで」


 崩れ落ちるシトールさんを皆が冷たい目で見ている


「きゅ~?」


 自分の食事分の魔石を差し出すスラちゃん・・・うん。シトールさんは魔石を食べれないからね。優しいけどしまっておいて大丈夫だよ。寧ろ追い討ち掛けちゃってるから・・・


読んでいただいて有難う御座います

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