ロダの魔境~迷宮探索編3
泡を吹いて気絶してしまったシトールさんを放っておいて休憩にする事にした。シトールさんにはナティさんの事を説明したが、実際には問題は無いと思っている。もしナティさんが問題視するならば、とっくに断罪に表れている筈だ。少なくてこの迷宮にいる間は大丈夫だろう
ブルーベルに魔力を補充しているスラちゃんを見ながら刀や防具の確認をしておく。地下に降りる階段が出たって事はこの先にも敵が現れるのだ。準備をしつつ、ゆっくり休ませてもらおう
「か、堪忍や・・・ハッ・・・ここは」
魘されていたシトールさんがガバッっと上体を起こす。キョロキョロと周りを見渡すと現状を把握したのだろう。額の汗を拭って安心したように息を吐く
「フフフ、そんなにナティさんが怖いんですか?」
「あ、当たり前やろ!あのドゥルジ様やぞ。ただ処刑されるだけならまだしも、どんなえげつない事されるか判らんわ」
「・・・聞こえてますよ、たぶん」
「ハッ!、いや、その、そや、お優しいて凛々しくて寛大なドゥルジ様の事だ。事情を聴けば判って下さる筈や」
思いつく限りのおべっかを使うシトールさん。きっともう遅いだろうなと思いつつこの後の事を話す
「それで、どうします?。多分ナティさんは何もしてこないと思いますよ」
「兄さん・・・他人事やと思うてるやろ?」
「いや、ナティさんなら、何かするならとっくにやってますって。少なくてもこの迷宮を出るまでは大丈夫ですよ・・・きっと」
「そやなぁ~。諦めてこの迷宮だけでも攻略してみるか」
言葉は踏ん切りが付いた様に言っているが、ため息をついてる様子からは諦めがついてるようには全然見えない。迷宮への興味とナティさんへの恐怖と色々混ざっている様だ
少し口数が減ってしまったシトールさんだが、やがて本当に諦めたのかバルディッシュを片手に立ち上がる
「ほな、兄さん。行きましょか」
「そうですね。最後の探索に成るかも知れないんですから楽しんでください」
「・・・余計な事言わんといて」
階段を下りると、また同じような渦巻き状の通路だ。先ほどと同じでエンカウントは無いのかもしれないが死角になる部分では注意しつつ先へ進む
「ホンマにつまらん迷宮やな。もっとこう、なんちゅうか・・・」
「ほんちゅうか?」
「ちゃうわ!」
少し古いネタにも付いてくるシトールさん。ドライアドと言い変な形で元の世界の知識が入ってる気がする
微妙に緊張感が薄れつつも先に進むとさっきと同じような扉が出てくる。お互いに頷き合いながら少し扉を開け中を覗くと、部屋から腐ったような臭いが漏れてくると同時に複数の視線がこちらに向いたのが判る。怨嗟の声が響き扉を開けた俺達に気付かれてしまったようだ
どの道この先に進むしか道は無いのだ。扉を開け放ち部屋の中に突入すると四隅の篝火に火が灯され部屋の様子が判る
「チッ。アンデッドの群れか!」
「兄さん。奥や!」
シトールさんの声に奥の方を見るとローブの様な襤褸切れを纏った骸骨の様な魔物が杖を構えていた。一見すると頼りない衰弱したような姿。しかし青白いオーラに包まれながら周りのアンデッドよりも強い存在感を発している
「ノーライフキング!リッチや!!。目を合わせたら魂まで凍らされるで」
死霊術の奥義を極め、自らを進化させ永遠の命を手にした存在と言われる。確かに人族よりも優れた力を手に入れたのだろうが果たしてそれが進化なのか・・・
リッチは俺達にアンデッドの群れを操りながら、杖の先に魔力を込めている。生前?は高位の死霊術士だった彼ならば魔法で攻撃もしてくるだろう。シトールさんがどれだけ障壁を張れるか判らない以上魔法攻撃は避けるしか手が無い。固まったままならばいい的だ、俺達は散開しつつアンデッドの群れを蹴散らしてリッチを目指す
迫るゾンビの頭を首筋から斬り落とし四肢を分断する。半端な攻撃では消滅させることが出来ない以上、動く事が出来ない様にしてしまうのが手っ取り早い。チラッと様子を窺えば、ブルーベルがスケルトンの身体を打ち下ろしの一撃で粉砕している。シトールさんの姿は此処からでは見えないが、ブルーベルと同じ系統の武器だ、アンデッドを粉砕するには適しているだろう
以前、ユースティティア様の試練の時のアンデッドの群れはローラさんの魔法で吹き飛ばしたが、日頃の訓練の成果なのか伶の武器のお蔭か、今は危なげなく対応できている。『危険察知』のチリチリした感覚を頼りに身を躱せば、リッチが放った魔法が通り過ぎていく
リッチは新たなアンデッドを生み出すよりも俺達に魔法を放つ方を重視している様で、徐々にアンデッドの数が減っていく。初めは遠くに見えたリッチの表情が見えるくらいに距離に近づく事が出来ている。仄暗い眼窩の奥に青白い炎が揺らめいている。動揺の揺らめきなのか自信の表れなのかそこから感情は読み取れない
先程まで姿を確認できなかったシトールさんも姿を確認できるくらいアンデッドの密度が薄くなった時、リッチを包む青白いオーラが一際輝くと前方に魔方陣が現れる。そこから出てくるのはシミターと盾を手に持つスケルトン。竜牙兵、ドラゴントゥースウォリアーだ。竜の牙を触媒に生成される魔法生物、厳密にはアンデッドでは無い筈なのだが死霊術士が召喚する事が多い。
「兄さん、雑魚はこっちに任せといてや」
シトールさんが叫ぶ。位置的にも俺の方が近いので相手をするのに不満は無いが、シトールさんが言うと裏に意味が有るような気がする。・・・楽な方選んでないよね?
「に、兄さん。なんや視線に悪意が有るで」
此方の視線に気が付いたのか、更に叫んでくる。結構余裕あるよね。やっぱり楽したいだけだろう、後でナティさんにチクってやる
そんな事を考えていたが、目の前のドラゴントゥースウォリアーは此方の事などお構いなしに攻撃をしてくる。そのシミターでの一撃に刀を合わせ弾き飛ばす。しかし他のアンデッドとは違う重い一撃は体勢を崩すには至らず、直ぐに弾かれた右手を引き戻すと更に攻撃してくる。その攻撃を今度は前に出る事で躱すと薙ぎ払う様に刀を振るう。ガギンッと金属がうち合わされる音、盾で受けた刀を下に払いながら振りかぶったシミターで斬り付けてくる。今度は此方も弾かずに受け流す。お互いに攻撃をしては弾いたり受け流したりと中々決定打が出ない。そもそも竜牙兵の骸骨の身体に斬り裂く武器は相性が悪いのだ。敵に対してよりもサボっているシトールさんに不満が溜まる
隣では同じように打ち合っていたブルーベルがもう一体のドラゴントゥースウォリアーを粉砕して決着をつけた様だ。こちらはシミター程度では傷のつかない身体を持つブルーベルは防御を気にしなくていい。俺とは逆に相性が良かった結果だろう。決して俺の実力がブルーベルよりも低い訳ではないと思いたい
敵に対してよりもブルーベルに対するライバル心が燃え上がった俺は、怒涛のラッシュを決める。打ち下し、斬り上げ、突き出される刀に防戦一方になるドラゴントゥースウォリアー。間合いを取ろうと苦し紛れのシミターで攻撃に隙を見つけた。瞬間、紅い光に輝きながらの下段。そのまま斬り上げでシミターを弾く。素早く引き戻した刀を下段から同じ軌道を描いて斬り上げ盾を吹き飛ばす。俺の目の前で無防備に両手を挙げて万歳の格好になった竜牙兵、神眼に打ち込むべき黒い線が太くはっきりと移し出される。
斬り上げた刀を、頭上で返し伸び上がった身体を縮める様に振り下ろすと、真っ二つになったドラゴントゥースウォリアーはその場に崩れ落ちた。枝切り風車からの燕返しの応用を使っての兜割。日頃の訓練で身に着けた連続技で相性の悪さを克服出来た満足感が広がる
「に、兄さん。ブルーベルはん。まだ戦いは終わってませんで。ってか助けて!」
俺達より早く雑魚アンデッドを倒したシトールさんは一人でリッチを相手にしていたらしく情けない叫びをあげていた。楽をしようとしたツケが回ってきたのだ、もう少し相手をしていてもらおう
読んでいただいて有難うございます




