ロダの魔境~迷宮探索編
折角、答えを当てたのに結局は戦闘になるという理不尽
「兄さん、良く考えてや、って言うたやんか。なんで戦闘になるねん!」
「知るか!答えは合ってたんだから、俺に責任は無いぞ!!」
二体の石像がゆっくりと壁から出てくる。東大寺の仁王像の様な姿をした筋骨隆々な二体の門番は手に持った金剛杵を振り上げながら此方へ向かってくる
「しゃあない。右の奴は任せたで」
何処から取り出したのか長柄の斧、バルディッシュを片手に持ちながら、魔法の詠唱を始めている。普通魔法を使うのに杖を使うのは判るがバルディッシュを持ちながらってのは聞いたことが無い。流石は魔族と思うべきなのか、魔族にバルディッシュは似合わないだろうと思うべきか迷うところだ
そんなくだらない事を思っていると、仁王様とブルーベルが激しくぶつかっていた。
仁王様の手に持つ金剛杵は、仏敵を退散させるというが別に俺達は仏敵ではない。もっとも門番を仁王様と言ってるのは俺の勝手なのだからしょうがないかもしれないが・・・
その金剛杵とブルーベルのハルバードが激しくぶつかり合い、お互いを吹き飛ばそうと力比べの様相を呈している。本当ならば一騎打ちに手を出すべきでは無いのだろうが、そんな事を言ってる場合でも無いだろう。仁王様の後ろに回って膝裏に一撃を加える。しかし生物では無い無機物で出来た、言ってみればゴーレムの様な物なので、鈍い音と共に刀が弾かれる。膝裏の急所に攻撃してもあまり意味は無かったようだ
俺が小細工しても、相変わらず仁王様は俺には構わずブルーベルと打ち合っているので少し凹むが気にせず攻撃を加える。例え痛みやダメージが無くても、少なくても足に攻撃を加えるのが無意味とは思えない、俺の事を気にしないならば気になる位、しつこくお見舞いしてやろう
右足に集中して、上段から斬り下げ、勢いそのままに刀を返して斬り上げる。横に薙いでみたり、刀を突き刺す。伶が鍛えた刀は刃毀れも曲がる事も無い。ただ無心に攻撃を繰り返す。手に残る衝撃と痺れを気にせず、打ち付け、切り下げ、突き刺す。少しずつ削れていく仁王様の足を見つつ息を止めたまま繰り返す
俺の攻撃が少しは役に立ったのか、ついにブルーベルの一撃に力負けをして片膝をつく仁王様の首筋に向かって渾身の一撃を放つ。鞘に納めた刀を抜き打ちで放つ抜刀術、紅く輝く刀身が軌跡を残して首筋の中程まで食い込む。一瞬動きを止めた仁王様の頭にブルーベルの一撃が炸裂すると、電池が切れたおもちゃの様に動きを停め、両手もだらりと下がりガクンという感じで両ひざを付いて、そのまま二度と動くことは無かった
「ホンマにかなわんわ。兄さんも手伝ってくれてもいいやんか」
「いや~すいません。こっちも必死だったんで」
ボヤいてる割には余裕が有ったように見えたのだが、この人はどっちにしろこんな感じなんだろう。真面目に答える必要もないと思いタンドさんの様な答えを返しておく
シトールさんが戦っていた仁王さまを見ると頭の部分がスッパリと斬れている。バルディッシュで攻撃したのならば、こんな見事な切断面にはならないので魔法での攻撃だと思うが見事な物だ。喋くるだけでは無く実力も兼ね備えている事が判る
「ほな、先に進みましょか」
シトールさんの言葉に門を開く。門の大きさの割に簡単に開くのに驚きながら、一応もう一つの門を開いてみる。
「なんや、謎掛けの意味なんか無いやんか」
シトールさんの言葉のとおり、門を開けると中は広場の様になっており、どちらの門から入っても同じ場所に出る事になっていた。シトールさんの言葉に苦笑いを返しつつ、この迷宮の制作者の意地の悪さにゲンナリしながら先へと進む
薄暗い通路をシトールさんがバルディッシュの先に灯した魔法の灯りを頼りに先に進んでいく。やっぱりバルディッシュの使い方がおかしい。杖の先に灯して照らすのが普通だと思うのだが・・・
しかし、迷宮とは言ったものの別に迷路の様になっている訳でもなく淡々と通路が続くだけだ。ゲームの様にいきなりエンカウントする訳ではないので、曲がり角に注意して進めばいいのだが、そもそも曲がり角が少ない。
「シトールさん。迷宮ってどこもこんな造りなんですか?」
「そんな訳ないやん。こんな簡単な迷宮初めてやわ」
分かれ道などはなく、歩いている感じでは渦巻き状に中心に向かっている感じだ。このまま進めば中央の部屋に何かが在るのだろう
そう思いながら進んでいくと、思わせぶりな扉が見えてきた。
「兄さん、気ぃ付けや。普通一階で強い魔物は出ぇへんけど、この迷宮は何か妙や」
シトールさんの言葉に俺とブルーベルは黙ってうなずく。スラちゃんも後ろに下がれるように準備しておいてもらう
厳かな扉を慎重に開けると、薄暗い部屋の中央に何かの塊が見える。おそらく大きめの魔物が蹲っているのだろう。目とハンドサインで合図をすると慎重に物音をたてない様にスルスルとシトールさんが部屋の中に入っていく。
俺も慎重に後を付いていき様子を窺っていると、突然部屋の四隅に有った篝火に火が灯り部屋を明るく照らす。
「ブモォオオオオ」
咆哮と共に立ち上がり、両手持ちのバトルアックスを手に此方を睨んできたのは牛の頭を持つ魔獣、ミノタウルスと言えば想像がつくだろう。ミノタウロスとはミノス王の牛という意味だから正確にはタウロス系の魔獣『トーラス』だ。迷宮の門番としてはポピュラーな方だとは思う。
しかし、実際その姿を目の前にすると迫力が違う。ゲームの中では序盤のボスとかちょっと強めの雑魚モンスターって感じだが、その威容は十分にボスキャラになり得るだろう
「あちゃ~いきなりこれかい。兄さん運が悪いんと違うか?」
「失礼な。俺は運がいい筈だぞ。シトールさんじゃないのか?」
実際、女神さまのギフトで俺の運は底上げされている筈なので俺のせいじゃ無い筈だ。しかし、目の前に強力な敵がいる以上運が悪いじゃ済まされないのだ
幸い、後ろの扉が閉まる事は無いのでいざとなったらシトールさんを置いて逃げよう
「兄さん。なんか不埒な事考えてへんか?」
うっ!エセ関西人のくせに鋭い
「な、何の事かワッカリマセン」
ジト目でこちらを見てくるシトールさんに、思わず後半が片言になってしまった
「はぁ、まあいい。ほな、行くで」
バルディッシュを構え姿勢を低めに突撃していくシトールさんと、中央から堂々と進んでいくブルーベル。二人とも長柄の武器を構え打ち合う気満々で進んでいくのに対し、俺は遊撃役として大きく回り込んで後ろに付こうとする。トーラスが威嚇するようにもう一度叫び声をあげると同時にブルーベルが振るうハルバードとタウロスのバトルアックスがぶつかり合う
篝火に照らされた部屋に金属が打ち合わさって出来た火花が舞い踊る
「兄さん、今や回り込んで囲むんや」
シトールさんの叫びで俺も斜め後ろに陣取って隙を窺う。トーラスを中心に三角形を作るように包囲した俺達は交互に攻撃を加えていく
攻撃をされる度に振り返り、煩わしいと言わんばかりに威嚇してくるが、此方は正面からは戦うつもりなどない。一撃でミンチにされそうな攻撃を受けるつもりなど更々ないのだ
このままダメージを積み重ねて行けば難なく倒せそうと思った時、トーラスの眼が怪しく輝くと手に持つバトルアックスに赤い光が輝き始める
「気ぃ付けや。どでかい攻撃が来るで!!」
シトールさんの叫びに後方に下がるが気が付けばすぐ後ろが壁だ。今更横には移動できない。刀で防御出来る様に構えを変え、伶が創ってくれた防具に魔力を流し衝撃に備えながら、ふと思う
・・・やっぱりおれって運が悪いのか!?
読んでいただいて有難うございます




