力の誇示
「あの……わたしからもお礼を」
父親のほうも、俺に近寄ってくるなり深々と頭を下げた。
「なんとお礼を言ったらいいものか……できる限り、なんでもいたします」
「いやいや、そんなかしこまらなくても」
俺が恐縮しながら言うと、父親はまた頭を下げた。よほど怖い思いをしたのだろう。
若干気まずくなり、俺は話題を変えることにした。
「だったら、ひとつ教えてほしいことがあります。こいつらが現れた経緯について」
「経緯……ですか?」
俺は頷いた。
正直言ってわけがわからないのだ。
現実世界に戻ってきたと思ったら、いきなり街がテロリストに襲われていたのである。
なし崩し的に親子を助けることはできたものの、古山の目的などはいっさいわからない。いまあいつはどこにいて、なにをしているのか……それを知りたい。
だが父親の顔は暗かった。
詳しいことは彼もわからないという。久々の休日を家で過ごしていたら、急に奴らが現れ、街を破壊していったのだと。
俺は唸った。
ここらの敵を壊滅することはできた。
だが、肝心の古山章三の居場所がわからない。あいつが一番なにをするか知れない。一刻も早く対処しておきたいところなのに。
と。
さきほどまで鳴り響いていた警報音が、ふいにぴたりと止まった。大規模テロ情報を伝えていた音声が、突如として途切れたのである。
ぞくり、と。
俺は言いようのない怖ぞ気を感じた。
なぜ警報が停止されたのか。
この周辺のテロリストは全員滅せられたからか。
それにしては早すぎる。いったいなぜーー
そこで俺の思考は止まった。警報音の代わりに、聞き覚えのある男の声が響いてきたからだ。
『国民の諸君。お初にお目にかかる。私は古山章三。この国を統治する者だ』
ーー古山……!
俺は喉を詰まらせ、激しくせき込んだ。
この国を統治。
いま古山はたしかにそう言った。あいつは目的通り、まさか日本を支配下に置いたとでもいうのか。
『諸君はいま、急に現れた異能者や警察官に驚いていることと思う。これらはすべて、私が使役したものだ。私がその気になりさえすれば、君たちを一瞬にして殺すことができる。それがわかっていただけたかな』
「勇樹くん……」
ぎゅっと育美が俺の手を握りしめてくる。
だが俺も、その状況を楽しんでいられる気分では到底なかった。
力の誇示。ふとそんな言葉が浮かんだ。
長い間いじめられ、コンプレックスの塊となった古山章三は、いま、自分の力を全国民に誇示している。そんな気がした。




