【転章】 古山章三1
総理大臣公邸……
なるほど、さすがは日本を指揮する者が住まう場所だけあって、ここにあるすべてのものが豪勢だ。
僕は応接室のソファに腰かけながら、頬杖をつき、周囲を見渡す。座った瞬間、ふわりとした感触が返ってきて、僕をおおいに楽しませた。
まるで異国に紛れ込んだかのようだ。
色とりどりの花模様が描かれた、色彩豊かな絨毯。純白の壁には、まさか本物の金だろうか、びっしりとした金色のラインが施されている。そして天井を仰げば、優しげな光彩を放つシャンデリア。
深くソファに沈み込みながら、僕は達成感をかみしめた。
これで僕は疑いようのない勝ち組だ。それもーー日本で一番の勝者といえるだろう。
いじめなんぞに振り回されていた昔とはなにもかもが違う。
強者。そう、僕は強者なのだ。
コンコン、と。
ふいにドアの叩かれる音がした。
「どうぞ」
許可を下すと、遠慮がちにドアが開けられる。
姿を現したのはスーツの女だった。飲み物の乗ったトレーを両手で支えている。
秘書か……
僕はにんまりと笑ってみせた。
さきほど公邸を襲撃したとき、必死に命乞いをしてきた女だ。そのまま殺してやってもよかったが、顔の美しさと抜群のプロポーションに惹かれ、ついつい生かしてしまった。もちろん、《使役》によって僕の思いのままに操作している状態だが。
僕はすべての女に嫌われていた。初恋の子と結ばれそうだった恋を、ごとごとく邪魔された……
胸中に生じた虚無感を無理やり抑えつけ、僕は深く息を吐き出す。
だが、そんな過去はもうなかったのだ。
僕は勝ち組。
この女を好きなようにいじくることも、いまの僕なら簡単にできるのだ。
現在では、僕の高らかな宣言が日本中に行き渡っていることだろう。もう全国で僕の名を知らない者はいないのだ。
ーーと。
「古山さん!」
ノックもせず、急に部屋に現れた者がいた。
リベリオンの構成員だ。
下っ端の連中は街の襲撃に行かせているが、なかでも優秀なメンバー二十人に限り、公邸の警備に当たらせている。
僕は顔をしかめながら言った。
「入るならノックくらいしてくれないかな。常識だよね」
「も、申し訳ない! だが大変なんだ! 予定外のことが起きた!」
「予定外……?」
僕が呟いた瞬間。
前方の空中に、突如として予期せぬ映像が映し出された。まるで空間そのものにスクリーン映像を投射しているかのような。
そして。
その映像に写った人物を見たとき、僕は激しくせき込んだ。
「よ、吉岡勇樹……!」




