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敗れたり切り札

 タワー内にすさまじい轟音が響きわたる。


 俺は慌てて戦闘の構えを取った。


 古山が魔力を解放している。燃えさかる火炎のごとく、闇の霊気が古山を覆っている。バチバチと、電気の弾けるような音も聞こえてくる。

 

《古山章三 レベル60

 

 HP 700/700 MP 870/870

 MA 8000 MD 7400》


 強い……

 思わずひとりごちる。


 別世界の古山も、レベルはまだ90にも関わらず、ステータスはカンストに達していた。


 だが。

 俺も、このところの連戦でレベル自体は上がっているはずだ。


 途中から自分のステータスを確認する余裕もなくなっていたが、決して歯が立たない相手じゃない。まだ戦うことのできる相手だ。


 俺は大きく息を吸い込むと、スキル《闇の双剣》を発動した。攻防ともに優れているこのスキルだけは外せない。


 瞬間、両手にしっかりとした重みが伝わってくる。頼もしい闇の剣が俺の手に握られていた。


 ーー今回も頼むぜ……


 俺が意気込んだとき、古山はにやっと笑った。


「なるほど双剣か。面白いスキルだね。それじゃあ、僕はこうしようかな」


 言うなり、古山の周囲に蒼い光の粒子が発生した。それら一粒一粒が古山の右手に収束し、ひときわ強い光を放つ。そのあまりに眩い輝きに、俺は思わず目を細めた。


 そして再び目を開けたとき、俺は驚愕した。


 古山の手に握られていたものーーそれは。

「ト、トランプ……?」


 俺の言葉に、古山はにやっと笑う。


「その通り。新しく修得したスキルでさ、ちょっと試させてもらうよ」


 新しく……?

 などと目を見開いていられる相手ではなかった。


 猛烈な勢いで一枚のトランプが飛ばされてきたからだ。しかもただの紙切れではなく、闇の霊気をまとっている。


「くっ!」


 俺は慌てて左手の剣で攻撃を防ごうとしたーーのだが。

 ガキン。

 絶望的な金属音とともに、あっさり折れていく刀身。急いで顔を傾けなれば、きっと俺の顔面はもろくも切り裂かれていた。


「そ、そんな……」


 俺は虚無感とともに折れた剣を見やった。と同時に、ぐるぐると回転しながら、切り裂かれた刀身が床に突き刺さる。


 瞬時、小さな破砕音を響かせながら、左手の剣は無数の粒子となって消滅した。


「あははははっ!」


 古山の高らかな笑い声。


「まさか剣まで壊しちゃうなんてね。ここまで強いとは思ってもいなかったよ」


 ちくしょう……!


 悪態をつきながら、俺は古山の右手を見やる。


 奴の手には、まだ無数のトランプが残っている。その枚数が文字通り無限なのか、それとも実際のトランプの数あるのかーー不明だが、少なくとも、不利な状況に変わりなかった。


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