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傷つけられて、そしてまた傷つける

 警察署の内部はまさに地獄絵図であった。


 倒れている警察官がそこかしこで見られる。その全員が胸部を銃で撃たれたらしい痕跡があった。


 俺は下唇を噛んだ。おそらく、なにもわからないままに同僚に撃たれたのだろう。さぞ無念だったに違いない。


「ひどい……」

 と高城も呟いた。


 いじめっ子が憎くて憎くて堪らないのはわかる。だがリベリオンはやりすぎだ。自分たちの犯罪を気づかれないようにするために、無関係の人々までをも操り、殺す。こんなことが許されていいわけがない。


「コロス……」


 ふと唸り声が耳朶を打った。


 振り返ると、やはり虚ろな表情をした警官の姿。他の警官と見比べてもかなり屈強な体格を誇っており、まともに闘えば勝ち目はなさそうだ。銃は持っておらず、その自慢の拳で殴りかかってくるつもりらしい。


 俺は顔をしかめてその警官に向き直った。魔法を使えば奴を屠ることは簡単だ。だが、本来罪のない者を痛めつけるのは正直心に堪える。ついでに言えば、来たるべき時に備えてMPも温存しておきたいところだ。


 と。


「ガアアアッ!」

 醜い悲鳴をあげ、警官はひとりでに膝をついた。ふくらはぎに穴が開いている。その傷を苦悶の表情で抱えながら、警官はひたすらに絶叫をあげた。


 俺はちらと隣の高城を見やった。


 片手を突き出したままの攻撃者は、しかし険しい表情をしていた。やはり俺と同じ心境なのだろう。


「コロス……タカギエミ……ワレラノテキ……コロサナイト……」


 耳をおさえて目を閉じる高城。


 その肩に、俺は優しく手を置いた。


「おまえの罪はこれから償っていけばいい。気を強く持て」


「うん……うん……」


 悲痛な表情で両目を覆う高城の肩を、敵の襲撃を警戒しつつも、俺はほんのすこしだけ抱いてみせた。あまりにも細く、頼りない身体だった。


 ーーこれが、古山のやりたかったことなのかよ……。


 俺もいじめられっ子の一員として、古山の気持ちはわかる。いじめっ子を脳がはちきれんばかりに憎んだし、実際に復讐しているさまを脳内で思い描いたこともある。


 けれど。

 俺たちは、人の痛みを知っているはずじゃなかったのか。


 いじめっ子の些細な言動に傷ついて、自殺さえも考えて、だから人の痛みは誰よりも知っているはずなのに。


 すくなくとも、俺はいま知った。高城絵美の苦しみを。


 甘いと言われても構わない。

 だがもう、俺はいじめだなんだで殺し合うのはまっぴらごめんだ。傷つけられて、だから傷つけるーーそこになんの意味がある。


 俺は高城を抱き寄せながら、二人、佐久間祐司のいるであろう部屋へ向かった。

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